声優・歌手・ピアニストの牧野由依によるライブコンサート“ポッカサッポロ 富良野ラベンダーティー Presents YUI MAKINO LIVE CONCERT「What's UP!!!!」”が6月1日・2日、東京・山野ホールにて開催された。
この時期恒例となったLIVE CONCERTは、今年は3月にリリースしたセレクトアルバム『UP!!!!』を引っ提げる形で開催。コンセプトごとに構成したブロックに、デビュー初期の曲から最新曲までを散りばめた公演をみせてくれた。本稿では、そのうち2日の公演の模様をお届けする。
■スタートを飾ったのは、『UP!!!!』にも収められたピアニストとしてのはじまりの曲
ステージに白い幕がかけられたまま開演時間を迎えると、そこに逆光でピアノに向かう牧野のシルエットが浮かび上がる。そして、彼女が8歳のときに岩井俊二監督映画「Love Letter」にて劇伴ピアニストとして携わった「A WINTER STORY」を演奏。『UP!!!!』にも収録されたこの曲は、光の射し込むような、幕開けにふさわしい楽曲。それを演奏する今の姿をあえて直接的には見せないことで、彼女の原点を感じさせるという演出だ。
そしてクラッシュシンバルの音とともに幕が落ちて、ダンサーを従えての「Brand-new Sky」へ。凛とした顔つきで、『UP!!!!』で新録した〔UPDATE〕バージョンに乗せて、場内に全力で力強い歌声を飛ばしていく。さらに続けた「囁きは“Crescendo”」では、頭サビ後には「What’s UP?(牧野)」「Yeah!!!!(観客)」の応答も織り交ぜたり、1サビ後には笑顔で自らクラップすることで場内に観客の大きなクラップを巻き起こすなどして場内を巻き込んでいく。ドレス系ではなくパーカーとデニムという衣装も相まって、この曲ではその姿が特に自然体であるように感じられた。
しかし驚かされたのは4曲目。終盤に披露されることが恒例だった「Cluster」を、早くも披露したからだ。だがこの曲によってもたらされる一体感は不変で、普段と同じように彼女の手に合わせて、客席にはいっぱいの手が挙がる。牧野から発せられる歌声はやはり希望に満ちあふれたもので、そのポジティブなオーラが会場中を包み込む。
さらに大サビ後には、フェイクも交えてさらに進化したこの曲を提示すると、「Precious」では一転して丸みを帯びた歌声を、温かなミドルバラードのなかで優しく響かせていく。音数の比較的多い曲だが、愛を歌声に込めてのっぺりとしないようにアプローチ。こうして牧野はピアニスト・ボーカリストとしての多彩な魅力を最初の5曲にパッケージングして、観客を公演の空気へと引き込むことに成功した。
MCでは、昨年に引き続き冠協賛についたポッカサッポロへの感謝を述べつつ、彼女が愛飲する富良野ラベンダーティーを持っての「#実質牧野由依」タグがDAY1後にトレンド入りしたことに「牧野由依、大量発生したんですよ」と触れ、そうして楽しみながらステージをおくれることについてもファンのおかげと感謝を述べていた。また、あわせてDAY1で三宅亨(Gt.)が「夏休みの宿題」のグリッサンドの際そのラベンダーティーで弦を押さえるという“奏法”を発明していたことも紹介。「すごいいい音出るんですよ」と、三宅も実奏を交えて語っていた。
こうしてひとしきりトークが終わったところで、牧野はグランドピアノのもとに着席。切ないナンバー「春待ち風」を、曲の世界観にも合ったピンクとブルーの照明のなか、甘く切なく弾き語りスタイルで披露すると、そのままスポットライトに当たりながら、ピアノの独奏から始まる「今日も1日大好きでした。」へ。
歌声はさらに丸みを帯び、この場にいる一人ひとりの近くで語りかけるように歌われたものに。優しさと柔らかさとを持った、幸せを祈りながら聴き手に寄り添うような歌声だった。そこからうって変わって、今度は哀しさ強めのナンバー「碧の香り」をぽつりと歌い始める牧野。碧の世界でピアノを奏でながら響かせゆく歌声は、曲が進むにつれてその中の想いがどんどん膨らんでいく。
さらに2サビ明けの間奏では奏者としても曲に入り込み、ピアノを激しく奏でていった。それと真逆にハッピーでいっぱいのナンバーが、続く「幸せのため息」。冒頭は吐息多めに入っていくと、落ちサビでは聴く側がとろけるような甘い歌声と生ため息も披露。リリースから幾年経っても、歌声を通じて聴く側にも幸せをくれる曲だ。ちなみに、音源ではホーンセクションだった間奏でのパートは、今回はストリングスの音色で表現。
■もちろんあります! 恒例のクラシックコーナー
ここまでを「怒涛のピアノコーナー」と総括した牧野は、続いてアルバム『UP!!!!』について「Disc1にLIVE CONCERTでみなさまと育ててきた曲を、Disc2には私がピアノを弾かせていただいている曲を収録しました」と語り、そのねらいについても「今までの軌跡をたどるようなものを作りたいなと思った」と明かしていた。
そんな楽曲の中から、次に歌う曲がデビュー初期、レコーディングで自ら歌うために初めて弾いた曲と予告。「全然上手にピアノが弾けなくて、トイレに駆け込んで泣いたのをよく覚えています」と思い出を懐かしみつつ語ったところで、ライブでは久しぶりの歌唱となるその曲、「you are my love」の披露に移る。
天を見上げて曲に“入って”から奏で始めたピアノ1本と歌声だけでの披露となり、演出もピアノと自身だけにライトが当たるというシンプルなもの。それでも充分勝負できるほどの上質な魅力をこの曲に持たせて、ときに強く、ときに細く甘い歌声で表現されたら、もうたまらない。
さらに続けた「アルメリア」の弾き語りバージョンでは、青の照明のなかピアノの音色とともに、澄んだ水の中にたゆたうような感覚を聴く者に与える、ゆったりと会場全体を包み込むような歌声を聴かせてくれた。
公演も中盤に差し掛かったところで、続いてはこちらも恒例・クラシックコーナーへ。クラシックコンサートのプログラムのように、演奏する曲目について牧野から解説が行なわれると、毎回このコーナーのたびに観客から大歓声の上がる、チェロを担当する牧野の高校の同級生・渡邉雅弦がステージに。
ひとしきりトークももりあがったところで、「私たちは、戦いに出ますか」との言葉からA.ピアソラの「リベルタンゴ」の演奏へ。互いに主旋律を取り合いながら、主題をリフレインするごとに互いの音が激しさを増すこの曲は、その“戦い”という言葉がズバリあたるもの。そのうえで徐々にスピード感もUPしていき心にビンビン響くサウンドをふたりで作り上げると、ラストのフレーズはビシッと揃えて、見事にキメてみせた。