4月スタートの春ドラマが次々に最終回を迎え、7月からは夏ドラマが始まる。さまざまな作品がラインナップされている中、大森南朋主演『サイン―法医学者 柚木貴志の事件―』(7月11日スタート、テレビ朝日系 毎週木曜21:00~)、唐沢寿明主演『ボイス 110緊急指令室』(同13日スタート、日本テレビ系 毎週土曜22:00~)、三浦春馬主演『TWO WEEKS』(同16日スタート、カンテレ・フジテレビ系 毎週火曜21:00~)の3本には、ある共通点がある。

それは、いずれも韓国ドラマが原作のリメイクであるということ。しかしなぜ、今回の夏ドラマに集中しているのか。その理由を、海外事情に詳しいテレビ業界ジャーナリストの長谷川朋子氏が探る――。

  • (左から)『サイン―法医学者 柚木貴志の事件―』大森南朋、『ボイス 110緊急指令室』唐沢寿明、『TWO WEEKS』三浦春馬 (C)テレビ朝日 (C)NTV (C)カンテレ

■国内競争激化でジャンル混在

今クール以前にも、最近は山崎賢人主演の『グッド・ドクター』(18年、フジ)、坂口健太郎主演の『シグナル 長期未解決事件捜査班』(18年、カンテレ)、『ごめん、愛してる』(17年、TBS)、『追憶』(18年、フジテレビNEXT)と、韓国ドラマのリメイク作品が続いている。

ドラマに限らず映画でも、記憶に新しいところで篠原涼子主演『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(18年)、公開が控えているものでは吉岡里帆主演『見えない目撃者』(9月20日公開)が韓国のリメイク。さらに舞台でも、ポン・ジュノ監督映画『殺人の追憶』を原作にした、藤田玲主演『私に会いに来て』(9月公演)が予定されている。

このようにリメイクが増加している理由は、昨今、韓国ドラマが数だけでなく、バリエーションを増やしていることに起因している。かつて韓国ドラマと言えば、恋愛ものが豊富だというイメージがあったが、今やサスペンスやアクション、ヒューマンものなどいろいろなジャンルのドラマが混在している状態だ。ジャンルを一言で表しにくいほど、複雑なストーリーが描かれているものも多い。

つまり、それによってリメイク化の選択肢も広がっているということ。現に、冒頭で挙げた夏ドラマを見ると、『ボイス』は刑事サイコスリラー、『サイン』は法医学サスペンス、『TWO WEEKS』はヒューマン・ラブストーリーと、ジャンルの上で被りはない。

一方で、恋愛ドラマが飽きられてしまっているわけでもない。バリエーションが増えている背景として、韓国では地上波放送局以外にも衛星やケーブル、制作会社などが力をつけ、韓国国内間での競争が激しくなっていることも少なからず影響している。そのため、差別化を図った結果とも言える。

『サイン』と『TWO WEEKS』のオリジナルはどちらも韓国地上波三大ネットワークが制作した王道路線の作りだが、『ボイス』はケーブル・衛星放送局で放送されたもので、地上波ドラマでは成立しにくい際どい表現が売りであることからもそんな状況が分かる。

さらに、韓国国内の視聴率競争だけに目を向けず、恋愛ドラマが人気のアジアから、社会派ドラマを好む欧米市場まで、手広くヒットドラマを作り出すことにも熱を入れている。『ボイス』を制作したスタジオ・ドラゴンは、韓国財閥グループの1つCJグループ傘下のスタジオということもあって資金力があり、実力も十分。世界中のエンタメ業界で名をとどろかせている。ヒットメーカーのドラマをリメイクすれば、当たるに違いない――そんな保証も後押しているのだろう。

■世界的なリメイクブームも背景に

(左から)『SUITS/スーツ』織田裕二、『グッドワイフ』常盤貴子、『ミストレス』長谷川京子

韓国ドラマのリメイク増加の背景は、他にも考えられる。それは、今世界的にリメイクが流行しているということだ。

ここにきて韓国ドラマに限らず、織田裕二主演『SUITS/スーツ』(18年、フジ)、常盤貴子主演『グッドワイフ』(19年、TBS)といったハリウッドのヒットシリーズがリメイクされるケースも増えている。長谷川京子主演『ミストレス』(19年、NHK)は、質の高さで定評のある英・BBCのドラマをリメイクしたものだ。

逆に、日本のドラマも海外で次々とリメイクされている。韓国や中国をはじめ、松雪泰子主演『Mother』(10年、日テレ)、伊藤英明主演『僕のヤバイ妻』(16年、カンテレ)などはトルコ版もある。自国にはない発想のドラマを求め、登場人物のキャラクターやストーリーそのものに価値を置く傾向がドラマの流通市場で高まっているのだ。また、韓国オリジナルの『グッド・ドクター』は、アメリカのリメイク版が世界中で⼤ヒットする成功事例を作り出し、世界のあちこちでリメイクされているとい った具合だ。

こうした状況に注目し、リメイクにまつわる興味深い調査も行われている。フランスの番組リサーチ会社・ウィットによると、2018年の1年間で韓国が海外ドラマをリメイクした作品全8本のうち、日本のオリジナル作品が4本を占めた。またメキシコでは、海外ドラマをリメイクした作品全9本のうち、近隣のラテンアメリカの国々のオリジナルドラマをリメイクした数は8本に上ったという。

これは、文化や習慣が比較的近しい国の間でリメイクし合う場合が多いことを示すデータだ。驚くような結果ではないが、韓国ドラマの日本版が増えていることが特例ではないことを裏付けている。

総じて定評もあって、選択肢もあって、取引も活発。そんな理由から、韓国ドラマのリメイクが、集中していると言えそうだ。

■著者プロフィール
長谷川朋子
テレビ業界ジャーナリスト。2003年からテレビ、ラジオの放送業界誌記者。仏カンヌのテレビ見本市・MIP現地取材歴約10年。番組コンテンツの海外流通ビジネス事情を得意分野に多数媒体で執筆中。