夏が近づいてくると、なんとなく幼少期の夏休みを思い出して、ノスタルジックな気分に浸ってしまうときがある。今回訪れた「ウドンとサカバ 麦ぼうず」(東京都品川区)は、そんな遠い日の食卓を思い出すような、心温まるお店だった。
うどん&和食&日本酒の「一軒完結型の居酒屋」
大井町駅の改札を出て徒歩3分ほどの場所にある「ウドンとサカバ 麦ぼうず」は、今年4月9日にオープンしたばかりの新店。コンセプトは、日本の食文化に特化しており、うどん、和食、日本酒という3つのキーワードを掲げた「一軒完結型の居酒屋」。居酒屋に飲みに行って帰りにラーメンでシメるという一連の流れを、この一軒で日本酒を飲んでおいしくうどんでシメてもらいたい、という店なんだとか。
おつまみの一番のおすすめは、「おばんざい」。宮崎県産の幻のなすと呼ばれる「佐土原なす」を使った揚げ浸しや、埼玉県産の「深谷もやし」を使ったナムル等、野菜にこだわったおばんざいを提供している。また、お肉や野菜に低温調理を施すことで、旨味を最大限に引き出しているという。例えば「かぼちゃの煮物」を低温調理することで、煮込みすぎないため煮崩れせずに均一な味の染み込み具合にすることができるのだという。単なるお惣菜ではなく、ちょっとひと手間加えることで、お客さんに価値を感じてもらえるようなおばんざいにしているそうだ。
また、日本酒は「獺祭」「新政」「田酒」等のプレミア銘柄を中心に、ライトユーザーの方でも親しめるようなバラエティ感も意識したラインナップにしている。390円(税別)から半合のワンカップで飲むことができるので、色んな種類を飲み比べするのも楽しそうだ。
シメに食べる名物のうどんは「円居(まどい)つけうどん」と名付けられたもの。1人で食べて無言で帰るようなイメージのあるうどんだが、このうどんには居酒屋のシメとして、家族団欒のようにみんなで囲んで話をしながら食べてもらいたいという思いが込められているという。そのため、桶に何人前かのうどんを入れており、1人ひとりが好みのつけダレを頼んでうどんをシェアしながら食べられるようになっている。うどんは、製麺所に特注したオリジナル麺を使用。普通のうどんよりも細めになっており、さらに生のまま急速冷凍することで、おつまみやお酒を楽しんだ後にすぐにシメで食べられるよう、素早く提供できる工夫がなされている。
懐かしい家庭料理の味にホッと気持ちが和む
では、実際に料理をいただいてみた。「おばんざい盛り合わせ 3種盛り」(税別980円)では、かなり細くて食べやすい「深谷もやしのナムル」、シャキシャキと新鮮さが伝わってくる「小松菜の胡麻和え」、酸味があって結構インパクトのある「人参のシリシリ風」が楽しめた。これらのおばんざいをつまみながら特注のワンカップに入った日本酒を飲めば、延々と腰を据えて飲んでしまいそうだ。
そして、シメの「円居つけうどん」。大きな桶に入った冷たいうどんは、確かに細い。普通のうどん未満、ラーメンやそばの麺以上という感じだ。つけダレは、10種類以上ある中から3種類をご用意いただいた。「ゆずと揚げネギのおひたし風」(税別380円)につけて食べてみると、揚げた葱の脂とゆずの爽やかな風味がツルツルしたうどんと相まって、じつに美味しい。香ばしい葱の味も抜群だ。濃厚で上品な甘さの「くるみ風味の濃厚ゴマだれ」(税別450円)、とろろと一緒にスルスルとうどんが入って行き止まらない「大和芋の出汁香るとろろだれ」(税別380円)もそれぞれ絶品の旨さだった。また、「謹製うどんつゆ」(税別280円)でシンプルに味わうのもよし。
店の雰囲気も良く、食べているうちになんだかホッと気持ちが和んで、子どもの頃の夏休みに実家にいるようなノスタルジックな気分に浸ってしまった。素材の良さを活かした真心のこもった料理は、都会で働くサラリーマンにとっては、懐かしい家庭料理の味を感じることができるはず。お通し代・席料がなし、というのも嬉しいポイント。ひと仕事終えたら、今夜あたり会社のみんなで食卓を囲んでみては?
●information
「ウドンとサカバ 麦ぼうず 大井町総本店」
東京都品川区大井1-53-7
営業時間:17~翌3時(日曜・祝日 17時~22時30分)
休:無
岡本貴之(オカモト タカユキ)
1971年新潟県生まれのフリーライター。音楽取材の他、グルメ 取材、様々なカルチャーの体験レポート等、多岐にわたり取材・ 執筆している。好きなRCサクセションのアルバムは『BLUE』。趣味はプロレス・格闘技観戦。著書は『I LIKE YOU 忌野清志郎』(岡本貴之編・河出書房新社)」。