現在放送中のNHKの大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(毎週日曜20:00~)で、中村勘九郎演じる主人公・金栗四三の幼なじみ・美川秀信役を務めている俳優の勝地涼にインタビュー。美川は、いつの時代も流行に乗っかるお調子者だが、愛嬌があって憎めない役どころ。教師になることが嫌になって落ちこぼれていったという背景も。話し方や見た目もインパクトあるこのキャラクターについてどう受け止めてきたのか、勝地本人に話を聞いた。
――『いだてん』はオリンピックが題材ですが、そこへのイメージは変わりましたか?
オリンピックが存在する理由や日本が最初オリンピックに参加できなかった理由を知っていくうちに、子供の頃に見ていた長野オリンピックも、2020年に東京に来ることもすごいことだとわかってきました。『いだてん』の脚本を読んでいると勉強にもなります。
『八重の桜』の頃に東京オリンピックの開催が決まって、玉山(鉄二)さんと「オリンピックの時、いくつ?」「33ですね。子どもいたら一緒に見られるのになあ」「俺は子どもと見るの、楽しみだわ」という会話をしていて、当時は33歳で子どもいるかなあと思っていたので、今は「あ、いたわ」って感じです(笑)。本人はわからないような歳ですけど、そういうのってすごく感慨深いなって思いました。
――美川秀信という個性的なキャラクターを演じられていますが、何を意識して演じているのでしょうか?
口調を意識しているわけではないのですが、「金栗氏」というセリフがめちゃくちゃ多くて(笑)。それがウザいまではいかないけれど、ねちっこくやってますね。「金栗氏」にいくつかのバージョンを入れているようなイメージです。美川は一話にたくさん出番があるわけじゃなく、パッとたまに登場して、一言目に「金栗氏~」って言うことが多いので、そこは印象付けられればと思っています。
撮影に入る前に熊本で美川さんのご親族の方々とお会いしたのですが、実際の美川さんも好奇心旺盛で、新しもの好きだったそうで、「自由にやらせてもらっていいですか?」と聞いたら、「どうぞどうぞ」と言ってくださったので、楽しくやっていいのかなと思いました。
――今回のくるくるパーマも話題ですが、髪型はどういう経緯で決まったのでしょう?
衣装合わせを何度かやっていく中で、時代っぽくないこともやりましょうと。四三さんが坊主だから違うほうがいいとか、天パな感じがいいとか、監督さんたちと話し合いながらでした。放送が始まってから“前髪クネ男”じゃなく“全髪クネ男”と言われて、確かにそうだなと思ったりもしたんですけど、むしろ意識はしてなかったです。周りの出演者の人たちと比べて、僕だけ髪の毛が違うので、浮かないかなという心配はありましたけど(笑)
――「美しい川で美川です」という自己紹介や、巨大な猫が登場したり、毎回ワンシーンのインパクトが大きいですよね。
「美しい川で美川です」は現場でアドリブでやったように思います。カメラがたくさんあって一連で撮ることが多いので、好き勝手になんとなくやっていたものを切り取ってもらえてたりするので、役者としてはやりがいがありますね。猫を抱くということも台本には書いていなかったけれど、現場で思わず抱くことになった感じです。ただ、とんでもなくでかい、重たい猫でした。
――浅草では小梅との気になる恋模様も描かれましたが、小梅役の橋本愛さんとはシーンについて話されたりしましたか?
それほどおしゃべりな方ではないですが、現場から離れないタイプでしょうか。自然と一緒にいられるというか、撮影が始まる前にメイク室で会っても、別にお芝居の話をするわけではないですけど、僕がポロッとセリフを言うと次のセリフを言ってくれたりとか、そういう雰囲気があって居心地が良かったですね。思い切りがすごくいいので、ビンタされるシーンでも、最初のリハーサルから引っぱたかれて「おお、そうか」と。でも、こっちもテンション上げていけるので、僕にはやりやすくて面白かったです。
――宮藤官九郎さんの脚本はいかがですか?
宮藤さんは当然、東京オリンピックの勉強をされていると思うんですけど、そこに要素として落語を入れてくるところがとにかく、すごいです。もともと落語もお好きだっていうところもあるのですが、それも設定に無理がないというところがさすがだなと思いましたし、あと時代を行き来するのが複雑だけれどじわじわと来る構成になっていますよね。セリフも面白い。宮藤さん、ニヤニヤしながら書いているんでしょうね。そういう感じがするんです。
――美川は悩める若者でもありますが、彼の心境は理解しやすいですか?
小さなことですが、小学校の時に活発に遊んでいた友だちが文系に行っちゃうとか、気づいたら廊下ですれ違っても挨拶もない、でも友だちは友だちという、そういう不思議な感じってあるなあと思っていて。僕は中学から仕事を始めたのですが、その時に同級生と距離が出来て行く感覚とか、自分が大学に行かないと決めて高校を卒業したら仕事以外にやることがなくなるわけですけど、仕事がない時は置いて行かれた気分になる。そういう感覚って誰にでもあると思っていて。だから美川君の気持ちもわかるんです。
――その感じはありますよね。
コミカルに描かれているけれども、明るい感じに見えるからこそ、切ない部分もあるような気がしていて。でも本当はすごく四三さんのことを応援している。それは台本に書かれているということよりも、監督さんたちが「そういう美川君を出したい」と言ってくれることに尽きると思うんです。だから、猫を抱いていて寂し気なところを切り取ってくれたことで、役の幅が広がったと思うので、監督さんたちに感謝です。
――ほんの小さなシーンでも話題になったりするのって、ご自身と役柄の相性がいいこともありそうです。
そうかもしれないですね。いろいろやりたくなるタイプではあるので、それを監督さんたちが楽しがってくれているというのが『いだてん』のよさじゃないかなと思います。セリフは固めないといけないけれど、ちょっとアドリブを足したくなって言ってみたら、「面白い!」って反応してくださるんです。カットがなかなかかからず、自由にねちっこくやれることは苦しみでもあり、面白味でもあるんです。
あと、ネットで弥彦と美川が面白いという記事を見つけて、うれしかったので(生田)斗真君に「よかったよね」って送ったら、「な」だけ返ってきた。「な」ってなんだよって。斗真君とは昔から自分のほうが宮藤さんに愛されているということを競い合っていて、宮藤さんには同じようなバカっぽい役を求められることが多いので、「俺のほうが愛されている!」「俺のほうが何本もやっている!」「俺は歌出している!」というやりとりをしていたので面白いです。
――『いだてん』のような大きな作品に出ることで、俳優として何を思いましたか?
大河ドラマに出ることは俳優としての夢でもありましたし、オールスターズのような豪華な出演者が集まっている。僕は最初『篤姫』に出させてもらって、いつかもっと大きな役をやりたいと思って、『八重の桜』に出してもらって。当時は、多くの人たちが観るので、影響力も大きいなと思いましたし、僕は会津の人たちの気持ちを代弁する役だったので責任重大だなと感じていました。
『八重の桜』が終わった時、前半から登場する役に挑戦したいと思ったんです。それが夢で目標でしたし、今回それが叶ったことはうれしいです。東京オリンピックは僕らが生きている時代にはもうないかもしれないし、定期的に開催できるものでもない。その瞬間に、そういう題材に出ていることが、僕としては幸せなことだと思っています。
――次につなげるためにも、この作品で達成したいことは何ですか?
冗談も含めて、宮藤さんには「落語をやりたい」とはずっと言っています。宮藤さんとは主演の作品の約束までしていて、「2027年くらいですか?」「そんな遅くていいの?」という交渉を続けています(笑)
今回、森山君が落語をしているシーンを間近で観て感動してしまって、未來君はいつも先にいる人だなと改めて感じて。言ったもん勝ちかなとも思うので、もしまた落語を題材にする作品があった時に「勝地がやりたいと言っていたな」と思い出してくれればうれしいです。ちょっと安易な感じですけど、未來君とは違う落語があるなと思って。がめつくではないのですが、そういう感じで貪欲に俳優をやっていたいと思います。
勝地涼
1986年8月20日生まれ。東京都出身。スカウトの後、2000年にテレビドラマにて俳優デビュー。以後、映画・舞台と活躍の場を広げ、2013年にはNHK『八重の桜』『あまちゃん』に出演。特に後者では、前髪クネ男ことTOSHIYA役で1回のみの出演ながら、強烈なインパクトを残した。映画では、2007年の『阿波DANCE』で主演。2014年には、宮藤官九郎プロデュースで「涼 the graduater」名義で歌手デビュー、翌年には「勝 勝次郎」名義でCDデビューを果たした。
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