豊島将之棋聖に渡辺明二冠が挑戦する第90期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第2局が6月19日、名古屋市「亀岳林 万松寺」で行われ、渡辺二冠が勝ってシリーズ成績を1勝1敗としました。
頂上決戦は両雄譲らず! 第3局からの三番勝負に
対局は豊島棋聖の先手で、現在プロ公式戦で最も指されている、序盤から互いに角を手持ちにして戦う「角換わり」の戦型へと進みました。駒組みが一段落し、互いの駒がぶつかり始めた53手までの両者の消費時間は、持ち時間4時間のうち豊島棋聖がわずか11分、渡辺二冠にいたっては8分。近年、研究している形や定跡形、前例のある手順に進んだ場合は時間を掛けずに指し、中盤、終盤に時間を残しておいたほうが得策と考える棋士が増えていますが、それにしてもタイトル戦という大舞台で時間を使わず指せるところに、両者の序盤研究の深さが見て取れます。
54手目、渡辺二冠が本局で初めてまとまった時間を使い、敵陣深くに角を打ち込みます。まとまったとは言えどこの手に費やした時間は10分で、研究手の可能性があります。この手を境に指し手のペースが落ち、豊島棋聖が55手目に38分、渡辺二冠が56手目に53分を消費しました。
そして、少し怖くなるような話ではありますが、局面は54手目の角打ちを境に渡辺二冠ペースとなっていました。その後、明快に優勢になる順を逃した分、豊島棋聖に差を詰められる場面も見られましたが、結局優劣が覆ることはなく、第1局で逆転負けを喫した渡辺二冠が本局は華麗な飛捨ての順で豊島玉を即詰みに討ち取り、押し切りました。
タイトル戦などレベルの高い対局ほど先手が有利と言われるため、番勝負で後手番が勝つことをテニスになぞらえて「ブレイク」と表現することがありますが、本局は渡辺二冠が完璧な「ブレイクバック」を決めた形となりました。
これにより今期五番勝負は第4局までは指されることが確定しましたが、豊島棋聖は29日の第3局、7月9日の第4局の間に、7月3、4日の両日に行われる木村一基九段を挑戦者に迎えるもう一つの防衛戦、第60期王位戦七番勝負第1局も指さなければなりません。
タイトル戦を戦う棋士は対局日だけその場にいれば良いわけではなく、対局日前日に現地に入り、検分(対局室に両対局者が入り、棋具や騒音、室温、光などの具合をチェックする)や前夜祭などに参加します。過密スケジュールとなるため、その意味でも本局は勝ちたかったところでしたが、多忙は活躍している棋士の宿命。昨年度の第89期棋聖戦五番勝負、第59期王位戦七番勝負にダブル挑戦し、両方ともフルセットで制した経験、昨年3月に第76期A級順位戦6人プレーオフと第67期王将戦七番勝負を並行して戦った経験の活かしどころとなりました。
29日の第3局は静岡県沼津市「沼津倶楽部」で行われます。