2009年に逝去してから今年で10年となるミュージシャン・忌野清志郎。1970年に3人編成のバンド「RCサクセション」でデビュー、5人組エレキバンド編成へ変貌を遂げると"KING OF ROCK"と呼ばれ、音楽シーンに大きな足跡を残しました。コラム後編では、そんな清志郎が残した数々の名曲の中から、働く人々に力をくれる楽曲をチョイスして紹介したいと思います。

  • 忌野清志郎【(C)阿部高之】

「宝くじは買わない」(RCサクセションのデビューシングル)

お金では買えないものがある、なんて聴くと綺麗ごとのように聴こえるかもしれませんが、その後の清志郎の活動を見ると、デビュー曲にして、生きる上での姿勢を早くもこの1曲でハッキリと表現しているといえます。同時期の楽曲「金もうけのために生れたんじゃないぜ」にも、お金に振り回されて生きたくない、という気持ちが表明されています。仕事のやりがいや生き方に疑問を感じたとき、本当に大切なもの、本当にやりたいことは何なのか? を自分に問いかけるときに聴いてみてください。

「トランジスタ・ラジオ」(アルバム『PLEASE』収録)

RCサクセションの代表曲のひとつです。会社に勤めて長年働き、いつの間にかいい大人の年齢に。そんな中高年の人でも、この曲を聴くと、忘れかけていた青春時代の光景が目の前にパァ~っと広がっていくのではないでしょうか。なんとなく仕事に疲れたときに、聴いてみるとリフレッシュできる、永遠の胸キュン青春ソングです。

「いい事ばかりはありゃしない」(アルバム『PLEASE』収録)

タイトル通り、仕事をしていれば、いい事ばかりはありゃしない。取り返しのつかないミスをして、上司にこっびどく叱られたり、取引先に迷惑をかけてしまったり。挙句の果てに恋人ともうまく行かない……。この曲の中では、励ましたりすることも、物事を解決に導くこともありません。ただただ、自分の気持ちを重ねながら、歌の世界にどっぷり浸ってみてください。無理に元気でポジティブな曲を聴くよりも、明日への活力が生まれてくる気がします。

「ドカドカうるさいR&Rバンド」(アルバム『OK』収録)

これまた代表曲のひとつであり、ライヴ定番曲です。王道のロックサウンドに乗せて【子供だましのモンキービジネス まともな奴はおれしかいねえぜ】と歌う歌詞が強烈です。音楽ビジネスをモチーフに歌われていますが、サラリーマンの心境にも置き換えられる曲。チームを組んで仕事をしているのに、どうしてまわりとうまくいかないんだろう? 自分の考え方や企画が通らずにイライラ。そんなときには、思わず毒づいてしまいたくなるはず。最後に【悲しい気分なんかぶっとばしちまいなよ】とサラっと励ましてもらえる、爽快感満点でスッキリする曲です。

「すべてはALRIGHT (YA BABY)」(アルバム『HEART ACE』収録)

【夢を見るのは悪いことじゃない コトをあせり過ぎちゃだめさ】にはじまり、歌詞のすべてから勇気をもらえる名曲です。転職や異動で新天地へ赴くとき、会社を辞めて独立しようと思っているときなど、1人で何かを決意して行動するときに聴いてほしい1曲。1回聴けば何を言いたいのかがわかるのは、どんな場所のどんなシチュエーションで流れてきても、明瞭に歌っている言葉がわかるヴォーカリスト清志郎ならではです。

「空がまた暗くなる」(アルバム『Baby a Go Go』収録)

【おとなだろ 勇気を出せよ】と繰り返し歌われる、ストレートに背中を押される曲です。企業の中で、自分の意見を行ったり自分の姿勢を貫くのは勇気がいるものです。そんな勇気がほしいときはこの曲をリピートしてみてください。イントロのギターリフが鳴るだけで、「よしっ!」と、気持ちがシャキっとなるはずです。また、同じく『Baby a Go Go』収録の「I LIKE YOU」も、前向きな気持ちで仕事に臨むことができるのでオススメです。

「JUMP」(アルバム『GOD』収録)

例えば、ここぞという勝負をかけたいプレゼンの前に、営業先に向かう車の中で聴いてほしい曲です。また、仕事で煮詰まったときなどに聴くと、世界が大きく開けていくような、スケール感を感じることができるはずです。

今回は、RCサクセションの曲が大変を占めましたが、まだまだ忌野清志郎にはたくさんの名曲があります。そのどれもが、聴く者の心に寄り添い、励まされたり勇気をもらえるだけじゃなく、ときには悲しみや怒り等も共有することができます。書籍『I LIKE YOU 忌野清志郎』では、ご登場いただいたみなさんに、好きな清志郎楽曲3曲と、アルバム1枚を選んでもらっています。この記事をご覧になったみなさんも、是非自分の心に残る忌野清志郎の曲を探してみてください。

岡本貴之(オカモト タカユキ)

1971年新潟県生まれのフリーライター。音楽取材の他、グルメ 取材、様々なカルチャーの体験レポート等、多岐にわたり取材・ 執筆している。好きなRCサクセションのアルバムは『BLUE』。趣味はプロレス・格闘技観戦。

『I LIKE YOU 忌野清志郎』(岡本貴之編・河出書房新社)

日本が生んだ偉大なミュージシャン・忌野清志郎が虹を渡って、早や10年。 清志郎と共に時代を生き、影響を受けながら現在も各界で活躍する人たちが、あふれる熱い思いを語った単行本『I LIKE YOU 忌野清志郎』

若い世代へとバトンを渡すべく登場してくれた、のん、渡辺大知(黒猫チェルシー)のほか、3人時代のRCサクセションの目撃者である太田和彦、日本で唯一のザ・ローリングストーンズ・オフィシャル・フォトグラファーの有賀幹夫、清志郎ファンにはおなじみの高橋 Rock Me Baby、清志郎のレコーディング&ライヴを深く知る山本キヨシ、蔦岡晃、サウンド・エンジニアzAk、ディレクター佐野敏也、今では音楽業界の重鎮となったプロデューサーたち―宗像和男、森川欣信、近藤雅信も登場。さらに、清志郎が憧れた漫画家・手塚治虫の長女でありプランニングプロデューサーの手塚るみ子、初代YMOマネージャーとしても知られる手相観の日笠雅水、スタイリスト高橋靖子、直木賞作家の角田光代まで、それぞれが好きなキヨシローへの熱い思いがギッシリと詰め込まれている。

そして書籍の締めくくりには、消しゴムハンコ作家の百世のインタビューを収録。初めて父・忌野清志郎についての思いを語っている。それぞれが語るエピソードは、そのまま、清志郎の音楽が持つ豊かさそのもの。忌野清志郎を知る人も知らない人も、是非お手に取っていただきたい、総勢17名による愛のある一冊となっている。