まだ自分は仕事で本気を出せていない―― そんな気持ちを感じたことはありませんか? 筆者も「未だ顕在化していない能力がある!」と思いながら十数年社会人をやっています。
そんな中、飛び込んできたのが「『眠った3割のパフォーマンス』引き出し術~ブレークタイム編」というタイトルのイベント。
日経BPがさきごろ開催した「HumanCapital2019」にあるセッションのひとつです。こんな魅力的な内容を聞かないわけにはいかない! と思い、参加してきました。
能力の7割しか発揮していない
「私たちの調査では、平均的な日本のビジネスパーソンは『仕事で能力の約70%しか発揮していない』と感じています」と冒頭から心揺さぶる内容を話すのはFROM PLAYERS事務局・イトーキの高原良さん。
FROM PLAYERSは「働く人のパフォーマンスを引き出す」企業横断型プロジェクト。このセッションには、プロジェクトの参加企業としてオフィスポ 奥村誠浩さん、Campus for H 西本真寛さん、タニタヘルスリンク 金子泰明さんの3名がパネリストとして登壇し、高原さんがコーディネーターを務めています。
1.8倍のうつ病発症率
高原さん「私たちの調査によると、ブレークタイムを取らない人はうつ病の発症率が1.8倍も高い傾向が見られています。つまりブレークタイムは自分の体調を整え、パフォーマンスを高めるビジネススキルです」。
人間の集中力には限界があるとはよく聞きますから、ブレークタイムが必要だということはなんとなく理解していました。ですが、それ以上にスキルとして大切なんですね。では、スキルをどう培えば良いのでしょう?
この後、「会社として社員にどのようにスキルを身に付けてもらうか」を3名のパネリストが紹介してくれ、さらに全員選りすぐりの「休憩上手」だそう! 期待できます。
ポジティブマインドをサイクルで回す
トップバッターとなる奥村さんが紹介したのは「夢中が夢中を呼ぶ、夢中連鎖」。これは人間が持つ「上達することを体感する欲求」を利用したものみたいです。
奥村さん「最近、水泳と英語を改めて学び直すようになりましたが、そこで気付いたことがあります。それは、泳げない(話せない)→泳げる(話せる)ように、学び、取り組んで『没頭して頭が真っ白になる瞬間』を経験して上達すると、また真っ白になるリフレッシュスイッチの瞬間を体感したい欲求が生まれるのです。これを仕事→ブレークタイム→仕事にあてはめます」。
つまり、ブレークタイムで何か好きなことに没頭(頭の中を真っ白にする)し、上達する。そこから仕事に戻ると、先ほどの体感と同じく、仕事でも上達したいという欲求が出てくるメカニズムです。
奥村さん「夢中になることはポジティブなマインドです。つまり、ブレークタイム→仕事→ブレークタイムのポジティブマインドを回すサイクルができているのです」。
ブレークタイムを利用して、ポジティブマインドを連鎖させることを奥村さんはお勧めしています。確かに、気持ちを切り替える手段として、ブレークタイムを利用するのは有効だと思います。
主体的に自分の時間を作る
続いて「休むことを研究のひとつとしている」と言う西本さんが紹介したのは「水分摂取」。水とブレークタイムがどうつながるのでしょうか。
西本さん「水分補給すると『血流が活性化して肩こりをしにくくなる』『体内が適切な水分量になり足がつりにくくなる』などの効果があります。また、自然とトイレタイムが多くなるので、それを利用して、『歩いたり』、程よいタイミングで『仕事の場』から離れたりすることができます」。
主体的に水を飲むことで、「自分の時間」のきっかけを作ることが良いそうです。そして西本さんは、もうひとつ紹介してくれました。
西本さん「外出時に電車で移動する際、『瞑想』しています。具体的には、座ったり、立ったりしているときに自分の目の奥の感覚に注意を向けています(笑)」。
外の雑踏の中でも、自分の精神世界を広げるとブレークタイムが取れるのだと西本さんは言います。
瞑想はマインドフルネスのためのトレーニング方法のとしてよく知られ、仕事のパフォーマンス向上手法として注目されていると聞いたことがあります。
また水分補給は手軽にできますし、トイレタイムを自分の時間とする考えは分かりやすい。これはすぐ実践できそうですね。
エクササイズで気分転換
次に登壇した金子さんは、自社の取り組み例として「みんなでやる」を紹介しました。
金子さん「当社ではソフトエキスパンダーを利用した『タニタサイズ』を昼休みに5分ほど行って、午後からの仕事へ集中しています。ちなみに社員アンケートで『気分転換』と答えた人が多かったですね」。
これは会社全体の取り組みですが、昼休みを利用したウオーキングやストレッチなど、同僚数名による方法などありそうです。
ブレークタイムはビジネススキル
三者三様のブレークタイムの仕方がありましたが、実際に職場でブレークタイムを取り入れるとしたら、何に注意すれば良いのでしょう。
高原さんによると、職場でのブレークタイムは「心身のコンディションを整える」「パフォーマンスを向上させる」重要なビジネススキルで、3段階のレベルがあるそうです。
上級:自らが必要なブレークタイムをデザインし、実践できる人
中級:会社から与えられた機会を有効に活用できる人
初級:昼休みさえ、仕事をしている無頓着な人
高原さん「まず解決すべき問題は昼休みに仕事をしている人。『早く仕事を片付けて帰宅したい』『仕事のプレッシャーが下がる』などブレークタイムを取らない理由は様々でしょうが、そんな彼らの習慣を変えるには、『仕事がはかどるためのブレークタイムにする』のが大事なアクションです」。
ここで、会社が単に「休憩を取りましょう」と指示しても変わりません。レベルに合わせたブレークタイムの設計まで会社がやるべき、と高原さんは言います。
高原さん「初級者はブレークタイムによるパフォーマンスへの効果を認識することが重要です。自主的には難しいでしょうから、集団への取り組みとしてエクササイズなど、効果を体験し、あっいいなと思える機会を作ることです。中級者には機会の選択肢を増やしてあげること、そして上級者になって初めて働く時間や、場の自由度を与えることです。よく間違えてしまうのは、最初に自由を提供すること、特に初級者にとっては認識を改めない限り、上手く活用されない施策になってしまいます」。
昼休みもデスクで仕事することが習慣化すると、それが当たり前となるので、変えることはハードルが高そうです。しかし、第三者からブレークタイムを取るきっかけを提供され、その結果パフォーマンスが上がるなら、意識は変わりそうです。
ブレークタイムの使い方
ちなみにブレークタイムの具体的な使い方も紹介してくれました。
「『ストレス解消』『アイデア創発』『チームビルディング』を目的に、会議室でヨガや禅をしたりミットを蹴ったりするなど、日常的にやらない動作で全身(心)に刺激を与える運動は脳を活性化させるので有効です」(奥村さん)
「『自分を振り返る軸』を使って行動を振り返り、『こうした時間の使い方は少ないかな?』と思うエリアを増やすようにするのが良いでしょう。
右上のエリアは『自分の内面を見つめながら、特に目的は持たない状態』で最近注目されています。三上(さんじょう)という言葉はアイデアが湧く時間として昔から知られていますが、これと同じです。意識してこの状態を作ることがここ最近注目されていました」(西本さん)
「2つのことが大事で、まずは『仕事を忘れられる』ことで気分転換により仕事がはかどります。もう1つは『ブレークタイムの選択肢が豊富』なことで、例えばエクササイズや仮眠、ランニングなど気分に合わせて変えることで、パフォーマンスが上がると思います。
なお、タニタヘルスリンクでは昼食を自分の席で取ることは原則NGとし、コミュニケーションを取りながら食べて、イノベーション効果を高めています」(金子さん)
ブレークタイムを取れるようになれば、働き方も変わってくるようです。眠った3割のパフォーマンスを発揮するため、ブレークタイムを有効活用したいですね。ちなみに、筆者の眠った力は3割どころか6割だと信じています。