トヨタ自動車が復活させた往年の名車「スープラ」。伝統にのっとって選ぶならば、過去のモデルと同じ「直列6気筒エンジン」を積むグレード「RZ」で決まりなのだが、そういったバイアスが掛かっていない人たちには、是非とも「直列4気筒エンジン」搭載グレードにも目を向けてほしいところだ。
興味を引かれたエントリーモデルの完成度
トヨタは2019年5月17日、「Supra is Back.」を旗印に、ファンが待ち焦がれていた新型スポーツカー「スープラ」の販売をついに開始した。エンジンやシャシーを独BMWとの協業で開発した点や、生産をオーストリアのマグナ・シュタイヤー社グラーツ工場で行う点など、トヨタが新たな取り組みに挑戦した意欲作だ。さらに、「直列6気筒(直6)エンジン+FR(フロントエンジン・リアドライブ)レイアウト」という伝統にのっとったモデルだけでなく、直列4気筒(直4)エンジン搭載モデルが新たにラインアップされたことなど、興味は尽きない。
当然、直6エンジンを積む「RZ」というグレード(690万円)には、最新のスポーツカーづくりに関するトヨタの全技術が詰め込まれている。このクルマが最高のパフォーマンスを発揮してくれるであろうことは、誰にとっても想像に難くないだろう。しかし、筆者が気になったのはもう一方の直4搭載モデル、つまり、590万円の「SZ-R」と490万円の「SZ」だ。中でも、最もベーシックな「SZ」の出来栄えについては、大いに興味を感じた。そんな視点を持ちつつ、伊豆・修善寺で行われた新型スープラの試乗会に参加し、3グレード全てを乗り比べてきた。
「SZ」で満足できるところと物足りないところ
最初に乗ったのはトップモデルの「RZ」だ。最高出力340PS、最大トルク500Nmの3.0リッター直6ターボエンジン「B58」を搭載するほか、路面に応じてショックの減衰力を最適に制御する「アダプティブバリアブルサスペンション」、旋回性能を高める「アクティブディファレンシャル」、ブレンボ製の高性能ブレーキ、19インチのミシュラン「パイロットスーパースポーツタイヤ」などが相まって、重量感、パワー感、安定感の3つがそろった高級な走りを味わうことができた。
ただし、試乗した伊豆山中の狭い下りコーナーなどでは、ノーズの重さがあだになり、少しストレスが溜まってしまう。RZの前後重量配分は空車時で51:49だが、6気筒のエンジンは4気筒よりも重い。サーキットや中高速のコーナーが続くワインディングに持ち込んでこそ、最大のパフォーマンスが発揮できる設定のようだ。
次に乗った「SZ-R」は、装備はRZ並みで、エンジンが「B48」型2.0リッター4気筒のハイチューン版(258PS/400Nm)に変わったもの。車重がRZより70キロ軽い上、前後の重量配分が50:50となり、RZよりも鼻先が軽くなる分、その走りはRZよりも軽快な印象だ。4気筒であっても、さすがにBMW製エンジンらしく、レッドゾーンまで回した時の耳触りは心地いい。どんなシチュエーションの走りでも、満足できる仕上がりだ。
最後はベースモデルの「SZ」。搭載する2.0リッター4気筒の性能は、197PS/320Nmのローチューン版となる。しかしこのエンジン、今回の試乗コースを走ってみて、一番しっくりきたから驚いた。
ドライブモードを「スポーツ」にすると、エンジン、トランスミッション、ステアリングの3つのセッティングが変更となるが、コンベンショナルな足回りと、ハイトの高い17インチランフラットタイヤ(コンチネンタル製)のバランスが取れていて、狭いコーナーが続くつづれ織りのような今回の試乗コースでは、最も楽しいハンドリングが味わえた。
6,500rpm(エンジン回転数)がレッドゾーンのエンジンは、その少し前から頭打ち感が伝わってくるが、アクセルオフでは「パパーンッ」とアフターファイヤー音をきちんと伝えてくるし、コーナーでは早めに鳴き始めるタイヤと相まって、“使い切る”感を3グレード中で最も深く感じられた。RZが本領を発揮するような場所以外(つまり、日本の一般道のほとんど)では、この「SZ」がイチオシだ。17インチの小さなホイールを履くその佇まいも、ちょっと前のレーシングカーのような雰囲気をかもし出していて、個人的には好ましいと思った。