ルノー・ジャポンはMPV(Multi Purpose Vehicle=多目的車)の「カングー」に限定車「クルール」を追加した。フランス人も驚くほど、日本では高い人気を誇るカングーだが、新しい“クルール”(couleur、フランス語で「色」という意味)が日本限定で次々に登場するのはなぜなのか。
南仏の空と海をイメージした限定色を追加
車名の通り、「クルール」は色にこだわった限定車だ。ルノー・ジャポンはこれまでにも、カングーに多彩な色の限定車を投入してきているが、最新作となる第10弾では、南フランスでもひときわ美しく、ヴァカンスで人気の街「サントロペ」(Saint-Tropez)の爽やかな青空と、青く澄み切った海をイメージしたライトブルーの専用色「ブルー・ドラジェ」を採用した。
ルノー・ジャポンは、2019年7月13日まで横浜市で開催されているフランス文化と美食の祭典「横浜フランス月間2019」に協賛している。発表会場では、同イベントで日本初の個展を開くフランス人アーティスト、ローランス・ベンツさんと「クルール」のコラボレーション展示が1日限定で実施された。展示車の窓はキャンバスとなり、サントロペの風景やブロンドの女性(本人がモチーフ)がクルマをポップに飾る。限定車のコンセプトが一目で伝わるような工夫だ。
限定車のベースとなっているのは、カングーの「ZEN EDC」というグレード。大人5人が乗車可能で、広々としたラゲッジスペースを備えるワゴンだ。パワートレインには最高出力115ps、最大トルク190Nmの1.2L直列4気筒ターボエンジンとDCTタイプのトランスミッション6速EDCを組み合わせる。専用装備としてボディカラー、ボディ同色のフロントグリルブレード、ブラック仕上げの前後バンパーおよびドアミラーを装着。限定数は200台で、価格はベース車同様の259万9,000円だ。
日本の「カングー」が色とりどりな理由
「クルール」は、すでにカングーファンにはおなじみの人気限定車シリーズだ。これまでにも、カタログにはないさまざまな専用色が車体を彩ってきた。これまでの限定色を振り返ると、ブルー、ピンク、バイオレット、オレンジなどのポップな色ばかりだ。
このような限定車は、どうして誕生するのか。その理由は、カングー製造工場の特徴と日本独特のカングー人気の2つが挙げられる。
日本には乗用車仕様だけが導入されるカングーだが、商用バン仕様も存在する欧州では、郵便配達で活躍するなど“はたらくクルマ”の大定番だ。そこで、あらゆるビジネスニーズに応えるため、生産工場ではオーダーに合わせた小ロットの塗装にも対応している。
一方、日本でのカングー事情はというと、初代以来、ワゴンでありながら可愛く見えるポップな黄色が大人気だ。多い時は販売台数の約6割が黄色という頃もあったというから驚かされる。
この特殊な色のニーズに目を付けたのが、ルノー・ジャポンの商品担当者だ。定番とはいえない黄色が売れるのだから、このクルマに似合う鮮やかな色をそろえれば、さらに多くのユーザーの心をつかむことができるのでは……と考えたのだ。幸い、生産工場には、少ない台数の塗装に対応できる仕組みもある。
そこでルノー・ジャポンは、ルノー本社と工場に特別色の限定車の相談を持ち掛けた。これがクルール誕生の背景だ。日本からの注文を聞いたルノー本社は当初、そんな奇抜な色のカングーが乗用車として受け入れられるのかと心配したそう。しかし、2010年発売の第1弾クルールは、オレンジ、ブルー、グリーンの3色で計90台の用意が瞬く間に完売した。その後もクルールは、発売すれば即完売となるヒット商品であり続けている。
とはいえ、ルノーが年間約10万台も生産するカングーのうち、日本向けはせいぜい2,000台程度にすぎない。その中のたった数百台のために、フランス側が手間を惜しまず生産するのは、日本の特殊なニーズを理解しているからこそ。今や、フランスの生産工場の職人たちも、その腕を振るう機会として、クルールの生産を楽しみにしているという。ちなみに、工場には日本の「クルール」のポスターも貼ってあるそうだ。
職人のこだわりの強さは、ライトブルーをまとった新型クルールの開発期間にも表れている。色味や耐久性など、職人たちが色の品質を追求するあまり、車両自体の変更点はないにも関わらず、新しいクルールの開発にはなんと、18カ月を要したというのだ。まさに、フランスの職人魂が詰まった1台といえる。
クルールの人気が高まった理由として、このクルマが日本人の抱く「フレンチシック」というイメージにドンピシャだったことがあるのは間違いない。ただ、クルールには、新色の開発に手間隙を惜しまないフランスの職人魂が込められている。そのあたりも、日本人がクルールにフランスらしさを感じ、強く引かれる理由なのかもしれない。