豊島将之名人への挑戦権を争う第78期A級順位戦1回戦は、6月12日に佐藤康光九段―久保利明九段戦、14日に広瀬章人竜王―稲葉陽八段戦と渡辺明二冠―木村一基九段戦が行われ、佐藤康九段、稲葉八段、渡辺二冠が勝利を収めました。

トップ棋士によるリーグ戦が今期も開幕

  • 左から佐藤康、稲葉、渡辺。最高クラスのA級順位戦で幸先の良い白星を挙げた

佐藤康九段―久保九段戦は後手の久保九段が現代調の角交換型振り飛車を選択し、佐藤康九段は盤面左下にある香をひとつ進め、その場所に玉を収めて金銀で固める「居飛車穴熊」で対抗しました。中盤、佐藤康九段が堅陣を頼りに角を捨てて久保陣攻略を目指します。久保九段も穴熊の玉が収まる端に戦力を集中させて反撃。しかしこれが佐藤康九段の強じんな受けに遭ってわずかに届かず。佐藤康九段は途中、自身の疑問手により形勢差を詰められるシーンもありましたが、最後は久保九段の攻め足が止まった瞬間に相手玉に迫り、この対局を制しました。

広瀬竜王―稲葉八段戦は互いに飛の頭にある歩を敵陣へ向け伸ばしてゆく「相掛かり」の戦型へと進みました。中盤、盤面中央で幅を利かす広瀬竜王の銀を目標に眠っていた桂を跳ねた稲葉八段は、その桂を足がかりに相手の駒が利いている地点に角を打ち込む強手を敢行。この角が成って馬となり、終盤まで盤面を縦横無尽に飛び回る、攻防によく働く駒となりました。最後は相手の攻め駒とこの馬を刺し違えて広瀬竜王の攻めを完全に遅らせ、攻守交代。稲葉八段が素早い寄せを決めました。

今期からA級に復帰した両者の一戦、渡辺二冠―木村九段戦は渡辺二冠の先手で、現在プロ間で流行中の「角換わり」の戦型へと進みました。渡辺二冠が駒組みでやや優位となりましたが、その後はこの戦型特有の、互いに自陣内の駒を動かし合うジリジリした展開が長く続きました。局面が動いたのは96手目、待ちの姿勢を崩さなかった木村九段が、突如桂捨ての手筋で渡辺陣に切り掛かります。しかしこの攻めがやや無理気味だったようで、最後は敵陣攻略の望みがなくなった木村九段の投了となりました。

1回戦の残り2局、三浦弘行九段―糸谷哲郎八段戦は19日に、羽生善治九段―佐藤天彦九段戦は27日に行われます。