あなたの職場に、「話が通じない…」と感じる困った部下や上司はいませんか。そうした人と関わる際、「もしかしたらあの人は"共感障害"なのかもしれない」「少なくともあの人と自分との間には"共感障害"が起こっている」と考えると、あなたの悩みはきっと半減するに違いありません。
『共感障害~「話が通じない」の正体~』(新潮社)の著者で、感性リサーチ代表取締役の黒川伊保子さんのお話を紹介します。
共感障害を起こす人の根深い問題
人とのコミュニケーションが上手く図れない人のことを「空気が読めない人」といいますが、共感障害は、そんな生易しいものではないと黒川氏は言います。
黒川さん「共感障害を起こしている人は、自分が正しいと思っています。上司がバカだと『本気』で思っているんですよ。上司としては、何を言っても、何度言ってもその若者にやる気があるようには見えない。だから『話を聞いているのか』と言う。それに対し共感障害の若者は、『話は聞いている。一体この上司は何を言っているのか』と思うんです。
『言われずともやること』をやらないから、上司が注意する。すると『誰も私にそれを言いませんでしたよね。指示命令をしていないのに、なぜそんなに偉そうに怒っているのですか』となります。
共感障害の若者は『自分がやらかしてる』とは決して思っていません。上司には腹立たしい部下が、『上司はバカ』だと思っている、なめている。あるいは、パワハラを受けていると感じ、憤り、傷ついていることも。上司が親身になって、いろいろ心を砕いても、まったく意思の疎通ができません。その結果、時には上司の方がメンタルをやられてしまうんです」。
共感障害を起こしてしまう人には、暗黙のタスクモデルがない。人がしている所作が認知できないので、『手伝いましょうか』とか、『それやりましょうか』といったことが言えない。だから『使えないヤツ』と言われてしまう。でも、本人は正しいと判断し、誠実で、一生懸命なのだと黒川さん。
黒川さん「共感障害を起こす人は、捉え方によっては、世の中に迎合しない感じがクールビューティーで格好良くも見えるので、学生の間は個性の1つとしてうまくやっていける場合もあります。
でも、社会に出ると、どちらかというとつらい人生になりがちなんですよね。自分はちゃんとやっているのに、何で世の中は分かってくれないんだろうと。それが悲しいところです」。
見方を変えて共感障害ともうまく付き合う
こうした共感障害の現象が世の中に急増している中、いわゆる共感できる人は、このような人とどう付き合っていけばいいのでしょうか。黒川さんは次のようにアドバイスします。
黒川さん「部下が共感障害の場合の対処法は、1,000のルールを作ってしまうことです。説明をして、見本も見せてやり、1回では絶対にできないから、それを何度も何度も繰り返す。そしてできたときには承認してあげるのです。
共感障害の人の素晴らしいところは、臨機応変ではないところ。ルールを切ないくらいに遵守してくるのです。『雨の日でも花壇に水をやる』みたいな。そういうところをかわいいと思えたらいいと思いますね。上司としてはなかなか大変で、覚悟は要ります。でも、今後しばらくの間はこういう若者が増えてくると思うので、対処法の1つとして覚えておくと良いと思います」。
共感障害は部下だけでなく上司の場合もあり、それも大変。でも、気持ちが分かってもらえないだけで、「組織の命令系統」「仕事の仕方」などはルール化された合理的なタスクを教えてくれるので分かりやすい。
ただ、気持ちは汲んでくれないので、そこを求めるとモチベーションが上がらない、もしくは下がることになるそう。
黒川さん「これはもう、ドライに考えるしかないですね。会社でそうしたポジションにいるから、頭が良く、仕事はできます。悩みや愚痴は別の人のところでこぼすことにして、彼、彼女の下で学べることを学ぶ。モチベーション部分を割り切れば、共感障害の上司は使いようだと思いますよ」。
まずは、共感障害を知ることが大事。知らないと腹が立つが、彼ら彼女らは嫌がらせをしているのではない。誰もが同じ脳で世の中を見ているわけではない。
見ているものが違えば通じないこともある。それが分かれば、世の中の見え方がまったく変わってきて楽になると黒川さんは言います。
自分が共感障害の場合
一方で、自分が共感障害を起こしてしまうこともあると黒川さん。
黒川さん「事象、現象としての共感障害は、どこにでも起こりうる可能性があります。自分が慣れ親しんだ組織の中ではそうは思われなかったけれど、見知らぬところに行ったら、自分が共感障害を起こしてしまうということはあります。
もしも自分がこの組織で共感障害という現象を起こしているなと思った時には、『気が付かなくてごめんね』『気が利かなくてごめんね』と言えばいいのです。良い悪いじゃないんです。気が付いていないんだから、それ以外の対処の方法はないんですよね。そんな時には、この魔法の言葉を使えばいいのです」。
また黒川さんは、組織の中で自分が少数派だった場合の、より長い目での生き抜き方についてこうアドバイスします。
黒川さん「自分が少数派であるというのは、その組織と、『自分の脳の認識フレーム』との整合性が悪い、つまり共感障害を起こしているという状況なんです。そんな時は、その組織を離れる(転職)というのも一つですが、しばらくそこに留まり、違うものの見方で改善点を見つける人になるのも手です」。
まずは一度、その組織の手順通りやった方がいいでしょう。「私は嫌です」と新人が言っても受け入れてはもらえません。でも、しばらく経って、その組織の全容とか骨格をつかんだ上で「こっちの方が合理的じゃないですか」とか、「こういう手もありますよね」という提案をすれば、気が付かない人から一気に気づきの天才になれるといいます。
黒川さん「組織を把握して、制度設計に関する提案ができるようになれば、それは経験として残ります。自分と周りの認識フレームが折り合っていなくても、28歳くらいまでは逆にチャンスだと思ってみると良いでしょう。でも、35歳を過ぎても周囲から責められる状況なら、組織を変える、もしくは自分の組織を作るのが良いと私は思いますね」。
人工知能が感性を身に付けていく一方で、人間が感性を失っていく時代。これからは、共感障害について知っておくことが、人とのコミュニケーションにおけるストレスを減らす、大きなポイントになりそうです。
取材協力:黒川伊保子(くろかわ・いほこ)
感性リサーチ 代表取締役
1959年、長野県生まれ。奈良女子大学理学部理学科卒業。メーカーで人工知能(AI)の研究開発に従事した後、コンサルタント会社勤務、民間の研究所を経て、2003年 株式会社感性リサーチを設立、代表取締役に就任。2004年、脳機能論とAIの集大成による語感分析法『サブリミナル・インプレッション導出法』を発表。サービス開始と同時に化粧品、自動車、食品業界などの新商品名分析を相次いで受注し、感性分析の第一人者となる。現在は、テレビやラジオでも幅広く活躍。近著に『共感障害~「話が通じない」の正体~』(新潮社)、『妻のトリセツ』(講談社+α新書)、『女の機嫌の直し方』(インターナショナル新書)、『定年夫婦のトリセツ』(SB新書)など。