もうすぐ日本で発売となるポルシェの新型「911」。その姿かたちを見た率直な感想は、「現行モデルとどこが違うの?」というものだ。新型911のジャパンプレミアにはポルシェ本社から日本人デザイナーの山下周一氏が来日していたので、そのあたりも含め、話を聞いてきた。
ポルシェの911は1963年に誕生したスポーツカーであり、同社のアイコンでもある。今回の新型は、初代から数えて8世代目となる。キャッチコピーは“Timeless Machine”。誕生から半世紀を超える歴史を経てきた911だが、「優れた信頼性と耐久性」「ボディの圧倒的な剛性感」「安心感にあふれる走行性能」などは、ポルシェが長い年月をかけて培ってきた信念であり、今回の911にも反映させているという。
デザインの決め手は「石をどこまで投げるか」
“タイムレス”であろうとするクルマをデザインするのは、かなり難しい仕事であるはずだ。ポルシェは911の何を守り、どこを変えようとしたのか。以下で山下氏のインタビューをお伝えする。
――誰もが知るポルシェ911が992型(ポルシェはクルマに開発コードのような番号をつける。ちなみに、911の現行モデルは991型)に進化しました。
山下氏:はい。ポルシェにとって911は最も大事なクルマです。私は今回のモデルに直接は関わっていませんが、最初のデザインコンペにはエントリーしました。それはまさに、日本人としてオリンピックに出るようなもので、とても高揚感がありました。
――911のデザインで、デザイナーが最も重視するものとは何でしょう。
山下氏:私の上司がよくいうのですが、「投げる石をどの程度、遠くに投げるか」を最も重要視します。遠くに投げ過ぎてもダメだし、近すぎてもダメ。一番いい位置に石を落とす。それが、最も難しいところです。
――911は伝統的なクルマであり、変えてはいけないところをどう見極めるかが大事、というところでしょうか。山下さんには前回の東京モーターショー(2017年)でもお話をうかがいましたが、「911のデザインは楽しみでもあるが、“呪縛”でもある」とおっしゃっていましたね。
山下氏:911の場合、デザインのDNAとして我々が大切にしているのは、V字のフードを持つボンネットから立ち上がった左右のフェンダーや、張りのあるリアフェンダーに流れるシンプルなボディセクションです。そこは、変えてはいけない部分です。一方で、それらを守りさえすれば、フロントやリアのちょっとした部分でチャレンジできる。そういうクルマですね。
――992型のデザインはいかがでしょうか。
山下氏:911は伝統的にリアが広く、フロントが狭いレイアウトを採用してきました。今回の992型は運動性能を上げるため、両方がほぼ同じになっています。前後フェンダーの造形などもそれに合わせているので、一見すると変わっていないようですが、実は大きく変わっています。
リアセクションも同様で、細く薄い一文字につながったテールライトや、黒のインサートに全部の要素をまとめてシンプルに見せるデザインは、あの「930型」(1974年~1989年まで生産されていたモデル)からインスパイアされています。ただし、この造形は現代のテクノロジーあればこそのものであり、細かく作り込んでいます。
――今回のデザインは911にとって1つの完成形、究極の答えといえるのでしょうか。
山下氏:究極の答えというのは、時代に即していたり、時代を反映していたりするものです。「今の時代で」という意味では、これが完成形とはいえるでしょう。今後については、電動化などでパワートレインが変われば、クルマのデザインも変わります。例えば、「最後の空冷ポルシェ」と言われた「993型」は小さなエアインテークをフロントに備えていましたが、次の水冷化モデルでは、エアインテークが一気に大きくなりました。
――気の早い話ですが、次の911についてイメージは。
山下氏:私の頭の中には、すでになんとなくあります。ここをこうしたい、あそこをこうしたい、というのはある。でも、具体的には、ここでは話せませんね(笑)。911のデザインについて考えるべきことは尽きません。それを追求するのが我々の仕事です。