もうすぐ日本で発売となるポルシェの新型「911」。その姿かたちを見た率直な感想は、「現行モデルとどこが違うの?」というものだ。新型911のジャパンプレミアにはポルシェ本社から日本人デザイナーの山下周一氏が来日していたので、そのあたりも含め、話を聞いてきた。

  • ポルシェの新型「911」

    ポルシェジャパンは2019年5月28日、8世代目となる新型「911」(992型)の発表会を開催。発売は7月5日の予定だ(画像はブルーメタリックの新型「911 カレラ4S」。価格は1,772万円から。撮影:原アキラ)

ポルシェの911は1963年に誕生したスポーツカーであり、同社のアイコンでもある。今回の新型は、初代から数えて8世代目となる。キャッチコピーは“Timeless Machine”。誕生から半世紀を超える歴史を経てきた911だが、「優れた信頼性と耐久性」「ボディの圧倒的な剛性感」「安心感にあふれる走行性能」などは、ポルシェが長い年月をかけて培ってきた信念であり、今回の911にも反映させているという。

  • ポルシェの新型「911」

    新型「911」は3.0Lの水平対向6気筒エンジンを搭載。最高出力は450ps(エンジン回転数6,500rpm)、最大トルクは530Nm(2,300~5,000rpm)だ(画像はシルバーメタリックの新型「911 カレラS」、価格は1,662万円から)

デザインの決め手は「石をどこまで投げるか」

“タイムレス”であろうとするクルマをデザインするのは、かなり難しい仕事であるはずだ。ポルシェは911の何を守り、どこを変えようとしたのか。以下で山下氏のインタビューをお伝えする。

  • ポルシェAGのデザイナー・山下周一さん

    ポルシェ AGでエクステリアデザイナーを務める山下周一氏。メルセデス・ベンツ、サーブを経て2006年から現職。ヴァイザッハ研究所(ドイツ)に勤務する。「911 スピードスター」(997型)、「911 GT3」(991型)、「パナメーラ スポーツツーリスモ」などのエクステリアを担当した

――誰もが知るポルシェ911が992型(ポルシェはクルマに開発コードのような番号をつける。ちなみに、911の現行モデルは991型)に進化しました。

山下氏:はい。ポルシェにとって911は最も大事なクルマです。私は今回のモデルに直接は関わっていませんが、最初のデザインコンペにはエントリーしました。それはまさに、日本人としてオリンピックに出るようなもので、とても高揚感がありました。

――911のデザインで、デザイナーが最も重視するものとは何でしょう。

山下氏:私の上司がよくいうのですが、「投げる石をどの程度、遠くに投げるか」を最も重要視します。遠くに投げ過ぎてもダメだし、近すぎてもダメ。一番いい位置に石を落とす。それが、最も難しいところです。

  • ポルシェの新型「911」

    「911」のデザインは石を投げるようなもの?

――911は伝統的なクルマであり、変えてはいけないところをどう見極めるかが大事、というところでしょうか。山下さんには前回の東京モーターショー(2017年)でもお話をうかがいましたが、「911のデザインは楽しみでもあるが、“呪縛”でもある」とおっしゃっていましたね。

山下氏:911の場合、デザインのDNAとして我々が大切にしているのは、V字のフードを持つボンネットから立ち上がった左右のフェンダーや、張りのあるリアフェンダーに流れるシンプルなボディセクションです。そこは、変えてはいけない部分です。一方で、それらを守りさえすれば、フロントやリアのちょっとした部分でチャレンジできる。そういうクルマですね。

  • ポルシェの新型「911」

    伝統の「911」には守るべき部分とチャレンジすべき部分がある、と山下氏

――992型のデザインはいかがでしょうか。

山下氏:911は伝統的にリアが広く、フロントが狭いレイアウトを採用してきました。今回の992型は運動性能を上げるため、両方がほぼ同じになっています。前後フェンダーの造形などもそれに合わせているので、一見すると変わっていないようですが、実は大きく変わっています。

リアセクションも同様で、細く薄い一文字につながったテールライトや、黒のインサートに全部の要素をまとめてシンプルに見せるデザインは、あの「930型」(1974年~1989年まで生産されていたモデル)からインスパイアされています。ただし、この造形は現代のテクノロジーあればこそのものであり、細かく作り込んでいます。

  • ポルシェの新型「911」

    細く薄い一文字のテールライトが印象的だ

――今回のデザインは911にとって1つの完成形、究極の答えといえるのでしょうか。

山下氏:究極の答えというのは、時代に即していたり、時代を反映していたりするものです。「今の時代で」という意味では、これが完成形とはいえるでしょう。今後については、電動化などでパワートレインが変われば、クルマのデザインも変わります。例えば、「最後の空冷ポルシェ」と言われた「993型」は小さなエアインテークをフロントに備えていましたが、次の水冷化モデルでは、エアインテークが一気に大きくなりました。

――気の早い話ですが、次の911についてイメージは。

山下氏:私の頭の中には、すでになんとなくあります。ここをこうしたい、あそこをこうしたい、というのはある。でも、具体的には、ここでは話せませんね(笑)。911のデザインについて考えるべきことは尽きません。それを追求するのが我々の仕事です。

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