「男は仕事、女は家庭」の考え方はもう古い。共働き世帯が専業主婦世帯を上回る今、子育てだって例外ではありません。本稿ではパパが子育てに積極的に参加することを提案するパパによるパパのための集まり「スーパーダディ協会(SDA)」代表・高橋氏にインタビュー。子育ての当事者として男性はどうあるべきなのか、人生の大切なパートナーである妻とはどういう関係性を築き上げれば良いのかうかがった。
■男だって「家事」も「子育て」も得意なはず!
「仕事当然家事育児!」を合言葉に、仕事と子育ての完全両立を目指すNPO法人・スーパーダディ協会(SDA)。2017年に設立され、さまざまな活動を通じ「ゆる家事スタイル」「パパ弁当が日本を救う」など新しい男の生き方を提案している団体だ。
代表を務めるのが、TBSテレビに勤務しTVプロデューサーとしてバリバリ仕事をこなしながら、10歳の息子の父親でもある高橋一晃(いちこう)氏。さっそく話を聞いていく。
ーーまずは協会立ち上げのきっかけから教えて下さい。
きっかけは妻の「子育てと仕事を両立しているパパって、もしかしたらけっこういるんじゃないの?」という何気ないひと言でした。もともと、一番大切にするのは子供ではなく妻で、妻の人生も大切にしなきゃいけない、夫である自分が積極的に子育てや家事をこなして、妻が自分の時間を作れるようにしようと思っていました。 そんな妻からの言葉が頭にあって、4年ほど前に飲み仲間と話していたとき、それまで子育ての話なんかまったくしてなかった人が、意外と子育てしていることに気づいたんです。「世の中には、ママ会はいっぱいあるけど、仕事も育児も両立しているかっこいいパパたちの集まりはないから作ってみれば」という妻からの言葉もあり、はじめはサークル的な感じでしたが、だんだんと仲間が増え、2年前の2017年にNPO法人にしました。私は今53歳ですが、メンバーは20代から50代まであらゆる年代のパパが揃っています。
ーーここまでの活動を振り返っていかがですか?
まだまだですね。やっぱり男性は外で働き女性は家庭を守る、という価値観が根強いことを日々痛感します。毎晩飲みに行きたいし、休日はゴルフに行きたい。なぜならそれはすべて「仕事」につながっているからだ、働いて家にお金を入れるのは「男」の仕事なんだ、という。そんな人たちからしたら僕らなんかマイノリティですよ。
「子育て」「家事」と聞くと身構えてしまうパパも多いと思います。だけど、普段から職場で自分がやるべきことを見つけて自主的に動いたり、一人では抱えきれない仕事を相手にふり分けたりすることをしているわけですからきっと男性にもできるはずです。
ーー高橋さんが子育てを通して最も得た気づき、そこから学んだことは何でしょう。
まず一つ、よく言われることですが、自分を見つめ直すきっかけになりますよね。僕も息子をよく叱りますが、同時に「それってオレが子どもの頃にしていたことだよな……」と気づかされる。子どもはまるで鏡のように親である自分の良いところもダメところも容赦なく突きつけてきます。
あと、職場に置き換えると、部下に対する注意の仕方が変わりました。ミスをしてもやみくもに怒るのではなく、何かうまい言い回しや注意の仕方はないか考えるようになったのは大きいです。そういう部分で子育てが役立っているところは大いにあると思います。
僕はなるべく子どもを自由にさせたくて「半歩引いた子育て」というものを心がけているのですが、職場でも同じように俯瞰で冷静にモノを見るクセが身につきましたね。そういった意味で、実は「子育て」って「仕事」にめちゃくちゃ活用できるんだ、ということを協会のイズムとして伝えていきたいとは思ってます。
■夫婦円満の秘訣は「夫婦喧嘩」なの?
ーーパパにとってはもう一つ、奥様との関係についても気になるところです。
もちろん、子どもだけではなく、妻が明るく楽しく毎日を過ごすことができ、働きたい場合には次のステップにスムーズに進めるように協力することも私たちの大きな目標です。妻のことを考えて子育てをし家事をし、自分の日頃の行動も考える、それがやっぱり大事なことですよね。
ーーちなみに、高橋さんは夫婦喧嘩は……?
よくします(笑)。することによって相手の本当の気持ちを知ることができるから、僕は衝突を避けないほうがいいと思います。でも、協会のパパたちに聞いたら「する」「しない」が半々でした。「どうせ喧嘩するんだったら建設的にすればいい」という意見や、「いや、喧嘩そのものが夫婦間の摩擦を招くし、家庭の雰囲気を悪くするからしない」という意見もありました。
ーー喧嘩の原因はやはり「子育て」に関することが多いですか。
そうですね。やっぱり価値観が違いますし、育った環境も違いますから、おのずと衝突することは多くなりますよね。僕も喧嘩はあまり得意なほうではないので、向こうから強く言われると、吸収し吸収し、耐えながら耐えながらなんとか返す感じです(笑)。ただ、そのときも生半可にひと言だけ返すのではなく、真剣に、それこそ会社の会議のようにちゃんと答えようと気をつけています。でも、不思議なもので、妻に言われるとついつい反射的に反発してしまうんですよね。そこは本当に難しいです。
ーーでも、ぶつかり合える関係、意見を言い合える関係であることは大事だと思います。
協会のメンバーのなかには「喧嘩した次の日の朝10時にはお互いそのことを忘れる」というルールを決めている夫婦もいたり、子どもが寝た後に家の外の公園にでて喧嘩をする、という夫婦もいたりします。僕はまだルールを決める段階にまで至ってませんが(笑)。
ーー傍目にはなかなかわからない夫婦それぞれの絆というか、形ってありますよね。
僕の父親は寿司職人で、両親は絵に描いたような昭和の夫婦でした。本当に『巨人の星』のようにちゃぶ台をひっくり返すような喧嘩をよくしてました。それを見て僕は子ども心に「絶対にこうならないぞ」って思ってましたけど、そんな父も母が亡くなる前、介護ベッドで寝ていた彼女の脚を毎朝3時間かけてさすってあげてましたからね。今思えば、それも真剣に向かい合って、ぶつかり合っていたからなのかなぁって。
ーー世代間はもちろん、共働きか専業かでも違うでしょうね。
共働き夫婦の場合、妻の大事なプレゼンと夫の大事な会議がバッティングすることって絶対あると思うんですよ。そのときどうすればいいのか。僕のような50代、それから40代はまだまだ親世代の影響を強く受けていると思いますが、20代とか30代前半になると「家族」を大切にするという空気感がだいぶあります。パパ候補の20代30代の方々が、職場だけではなく家庭でも充実した生活を送れるように、僕たち上の世代が意識改革をしないといけないと思っています。
ーーでは最後に、協会としての展望や今後の活動について聞かせて下さい。
世界規模で「家族か? 仕事か?」という質問をしたら、9割の男性が「家族」と答えると思うんですよ。ところが日本だとおそらく7割が「仕事」と答えるんじゃないかと。まずはそこを変えていかないといけないな、とは思っています。
そういったことを踏まえ、6月13日に生配信型イベント「フウフゲンカシンポジウム シブヤ2019」を開催します。「喧嘩の一番の原因はやっぱり子ども?」「子どもの前で喧嘩したらダメ?」など、夫婦喧嘩に関するさまざまなテーマについて、フリーアナウンサーでNPO法人「親子コミュニケーションラボ」代表理事の天野ひかりさんをはじめとするパネラーの方々と深掘りしながらディスカッションしていく予定です。
もちろん正解は一つではありませんが、他の人たちの夫婦喧嘩の事情を知り、いろいろな考え方を知ることで、自分たちの関係性について前向きに考えるきっかけになれば嬉しいです。イベントの様子はfacebookのスーパーダディ協会公式ページでライブ配信もしますので、会場に来られない方もぜひ視聴して参加して欲しいですね。
前編では高橋氏が考える子育てとの向き合い方や、夫婦円満の秘訣についてうかがった。共働きのこの時代、これからもっと増えるであろう、仕事と子育てを両立させる父親「スーパーダディ」。後編では、同協会の個性あふれるメンバーと夫婦喧嘩を題材に話し合う「フウフゲンカシンポジウム」の模様をお届けする。
■取材協力:高橋一晃(たかはし・いちこう)氏
TBSテレビのプロデューサー。仕事と子育てと家事の三立を目指すスーパーダディ協会代表として「ゆる家事」「パパ弁当」「ダディだらけの花塾」など男性の新しいライフスタイルを提案。男性の意識改革に取り組んでいる。趣味は子育て、特技は家事。著者『スーパーダディビジネスマンの勧め』(双葉社)はAmazonのビジネス本でランクイン。