ロックバンド・Mr.Childrenのライブツアー「Mr.Children Dome Tour 2019 "Against All GRAVITY"」が、6月1日、2日の沖縄公演で終わりを迎えた。ここでは、5月19日に行われた東京ドーム1日目のライブをレポートする。

  • 桜井和寿

オープニングでは、田原健一によるギターから始まり、続けてサポートメンバーのSUNNYと世武裕子、そして鈴木英哉(JEN)、中川敬輔といったメンバーも登場。

しかしまだ桜井和寿の姿はステージにはない。スクリーンには、桜井がステージへと歩いていく後ろ姿が映し出され、そのままステージ前方に伸びた花道から登場すると、会場からは大きな歓声があがった。

1曲目は「Your Song」。前回のツアー「Mr.Children Tour 2018-19 重力と呼吸」では、大トリを飾った曲がいきなり演奏され、会場のボルテージはさらに高まった。

続いては、「Starting Over」。イントロで桜井は「さあ、行くよ! 東京ドーム!」と呼びかけ、スクリーンにはMr.Childrenメンバー4人の姿が大きく映された。

「himawari」では桜井が鬼気迫る表情を見せ、さらにはステージの端から端までダッシュするなど、序盤からトップギアのパフォーマンスを見せる。

続いてJENのドラムが鳴る中、桜井が「いいぞー、その感じ! もっとちょうだい! サイコー、東京ドーム! 準備はいいですか、ついてきて!」とファンを煽り、「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」のイントロが鳴らされる。

MCでは、桜井が「どうもありがとう」と感謝を述べた後、「元気そうじゃないか、東京ドーム! 5万人だぞー! 広いからね、後ろの人はすごい遠いでしょ。だけどちゃんとそこまで届くようにやりますから」と宣言。

そして「平成のヒット曲をやります。もう1回、もう1回、もう1回!」と叫び、「HANABI」を演奏。さらには、こちらも"平成のヒット曲"である「Sign」を続けて披露した。

「Sign」が終わると、メンバー全員がいったんステージを降り、その後桜井だけが登場した。今回のツアータイトル「Against All GRAVITY」について、「すべての重力に抵抗していこう」という意味で、ここで言う"重力"はただの重力のことではなく、願っているものと逆に働くエネルギーのこと。それと闘っていこうという意味だと説明した。

「年はとりたくないわよねー(笑)。そう思っている人はたくさんいると思いますけど、その場合は、時間というものが"重力"なんです」とも話していた。

「令和になりました。変わっていった方がいいものと変わらない方がいいものがありますが、Mr.Childrenはそのどちらなんでしょう。そういったことを自問自答しながら、この曲をお届けします」と言い、「名もなき詩」をアコースティックギター1本で演奏し、歌い始めた。

曲の途中からJEN、中川、田原が登場し、花道へと歩いていき、1番のサビから3人のドラム、ベース、ギターの音も加わった。2番に入ると、メンバー 4人がお互い向き合って演奏する様子が印象的だった。

  • 左から田原健一、鈴木英哉、中川敬輔

その後のMCで、「続いての曲は2005年にリリースしたアルバムに入っている曲です」と桜井。

「2004年にBank Bandという、Mr.Childrenとは違うバンドで演奏、ライブをしました。素晴らしいミュージシャンたちのすごい実力、演奏技術に圧倒されました」とリスペクトを込めた前置きの後で、「でもなんかちょっと違う。サッカーで例えるなら、僕は1個のボールに10人ぐらいがぐちゃぐちゃ集まっている小学校のサッカーが好きなんです。技術よりも思いの方が強くなりすぎて、うまく伝えられない。そんな様が大好き」と明かした後、「CANDY」を歌った。

「旅立ちの唄」の後、「ロードムービー」を披露したのだが、桜井は「ロードムービー」が「僕が1番好きな曲」という。

その理由を、ミレニアム問題で揺れていた2000年の元旦にできた曲で、明け方、頭の中に歌詞がパーッと浮かんできて目が覚めたという。浮かんだ歌詞を書いていくと、新しい世紀に歓迎された気分で、「まだまだ21世紀も音楽を続けていていいぞ」と言われたような気分になったから、とMCで明かした。

「addiction」では、花道がせり上がり、JEN、中川、田原が一段高いところから演奏。「Dance Dance Dance」の後の「Monster」でも、花道が上がり、その上で桜井が熱唱していた。

次は、Mr.Childrenの大規模ツアーでの演奏は初となる「SUNRISE」。「Sunrise brightens up」と歌う後ろのスクリーンには、地平線から太陽が昇る映像が映し出された。

Mr.Children史上最大のヒット曲である「Tomorrow never knows」が歌われた後、桜井は「いつもステージ上で思っていること。音楽という船に乗せて、悲しみや苦しみ、退屈から、みんなをできるだけ遠い場所に運んで行きたい」と語りかけ、「Prelude」を奏でた。

ライブ終盤だが、「さあいくぞ!まだまだ!まだエネルギーはあまってますか?」と観客を煽り、「innocent world」を。そして「海にて、心は裸になりたがる」で締めくくった。「innocent world」の大サビでは、スクリーンに観客の顔が映し出されたが、みな歌詞を口ずさんでいた。改めて、Mr.Childrenの残し続けた曲の知名度、影響度を感じる。

アンコールで再びステージに現れたのち、「SINGLES」「Worlds end」を届けた。

桜井は「最後の曲の前に、少しだけ話をさせてください」と切り出し、最近の朝起きた後の日課がネットニュースを見ることだと明かす。

そして「『あの人、お亡くなりになったんだ』、『あの人、大きい病気にかかっちゃったんだ、闘っているんだ』、『あの選手、ちょっと前までめちゃくちゃカッコ良くプレーしてたのに、引退してしまったんだ』とか、そういうニュースが目に飛び込んできて、ついつい自分もいったいあとどのくらいできるのかなと考えたりします」と心境を吐露した。

続けて「でも結論は、もし明日声が出なくなっても、バンドがどうにかなっても、きっと後悔はしないだろうなと思っています。なぜなら、こんなに長くやっているのに、いまだにこんなに多くのリスナーが足を会場に運んでくれて、一緒に歌を歌ってくれて、こんなに幸せなことはないと思っています。日本一幸せなバンドじゃないかと思っています」と語ると、会場からは大きな拍手が起きた。

さらに桜井は、「だから、これ以上多くのことを求めるとバチが当たるんじゃないかと思っています。でも、バチが当たるかもしれないけど、歌えなく、続けられなくなる前に、少なくともあと10曲は、この5万人を1つにできるようなすげえ歌をつくりたい」と思いを語った。

「僕らはこのツアーが終わったら、ロンドンにレコーディングに行ってきます」と明かし、「みなさんに再会できることを心から願って最後にこの曲を送ります」と言い、「皮膚呼吸」を最後に歌い上げた。

時代は平成から令和へと変わった。平成を彩ったスーパースターの中には、平成の終わりとともに現役を退いた者もいる。

Mr.Childrenもまた、平成を代表するスーパースターであるが、平成の時代の終わりとともに、総括される気はさらさらなさそうだ。Mr.Childrenにとっての"重力"は「年齢」や「時間」といったものであり、だからこそ桜井もMCで「自分もいったいあとどのくらいできるのかなと考えたりします」という心境を明かしたのだろう。

しかしMr.Childrenは、これからもすべての"重力"に抗い、さらなる新しい音楽を追求し続けるのだろう。「Mr.Children Dome Tour 2019 "Against All GRAVITY"」は、ロックバンド・Mr.Childrenが、令和になっても第一線で闘い続ける決意表明であると感じたライブだった。

(撮影:渡部伸)