新しい発想のホテルが福岡で事業をスタートしている。KDDIが出資するベンチャー企業Hosty(ホスティ)は、商業店舗の空きスペースをリノベーションして客室化するアイデアで、宿泊施設の足りていない繁華街にスピーディにホテルを提供することに成功している。最短2カ月で開業できるメリットを活かして、秋には東京にも進出する見込みだ。
Hostyは課題をどう解決した?
旅行や出張の折など、「ホテルの予約がとり辛くなった」と感じている読者も多いのではないだろうか。訪日外国人の増加により、ここ数年は地方でもホテルの客室が足りない状況が続いている。インバウンド旅行者の受け皿と言えば、まず頭に浮かぶのが”民泊”。Hosty 代表取締役社長の山口博生氏も、当初は民泊の経営を目指していた。しかし残念ながら、国内における民泊の機運は(厳しい法規制のあおりを受けて)急速に縮小しつつある。
ではHostyは、市場を取り巻く「宿泊施設の不足」「土地・建築コストの高騰」「ホテル業界の人材不足」という問題を、どう解決したか。山口氏は、以下のような『無人コンパクトホテル』の発想に行き着いた。
それは宿泊に適したエリアで空きテナントとなっている商業施設を見つけ、そのビルのオーナーと賃貸契約を結び、客室としてリノベーションする。フロントはエリアごとに集約、清掃スタッフには近隣の主婦を雇うことで、人件費を抑えると同時に人材不足も解消する、というものだ。
実際に泊まってみた!
筆者も、実際に泊まる機会を得た。はじめにフロントに来店して、スタッフから施設の説明を受ける。そこで客室のパスコードをもらうと、あとはホテルに向かうだけ。施設と部屋の入り口で、それぞれのパスコードを入力すると、無事に入室できた。チェックアウトは出発の朝に、部屋に置かれたタブレット端末から行える仕組み。ちなみに(エリアの市区町村の条例にもよるが)ゆくゆくはオンラインで決済とチェックインも行えるようにしていく考えのようだ。
Hostyが主なターゲット層に想定しているのは、家族や訪日外国人といったグループ旅行者。筆者が宿泊したのも、最大で8人まで泊まれる広い部屋だった。内装はセンスが良く、清潔感がある。シャワー、トイレ、洗面所のほか、簡単な料理がつくれる台所に複数人分の食器類、電子レンジ、冷蔵庫が備え付けられていた。駅チカのため何処に行くにも便利だったし、繁華街の中心地のため夜遅くまで福岡の街を満喫できた。
気になるのは、宿泊料金。このクオリティなら高いのでは、とも思ったが、そこはカプセルホテル並みにリーズナブルな価格(3,500円~5,000円ほど)に設定されていた。宿泊料金は単純な頭割り計算ではなく、最小人数で宿泊しても高すぎない段階性の値段になっているのも好印象。福岡で開業以来、Booking.com、Hotels.comなど海外ホテルの予約サイトでも高いクチコミ評価を受けているとのことだ。
ホテル業界に新しい風を
このHostyの取り組みを、KDDIがオープンイノベーションの枠組みで支援している。今後、AIやIoT、ビッグデータ、キャッシュレスといったKDDIが持つデジタル技術が活用され、通信、決済、観光、セキュリティ、エンタメなど様々な側面からHostyがアップデートされたら、どんなサービスに化けるだろうか。考えただけでもワクワクしてくる。発表会に登壇したKDDIの中馬和彦氏は「インターネット事業で培ったノウハウを、これまで制約があったホテル業界に持ち込むことで、新しい風を吹かせていきたい」と意気込んだ。
ホスティのイチバンの強みは、低コストでスピード展開できること。人気のスポットにタイミングよく部屋を設置できるだけでなく、仮に収益が落ちればすぐに撤退も検討できる。既述の通り、今年の秋には東京にも進出する。来年の2020年 東京オリンピックに間に合わせる算段だ。ちなみに福岡では2019年5月末ですでに14店舗を運営中で、2020年5月末には33店舗まで増やす計画。今後は大阪(2025年に大阪万博がある)など、ほかの大都市圏への展開も視野に入れているとのことだった。