外為どっとコム総合研究所の神田卓也氏が2019年5月の為替相場レビューと、今後注目の経済指標やイベントをもとにした今後の相場展望をお届けする。
【ユーロ/円 5月の推移】
5月のユーロ/円相場は120.919~125.229円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約3.2%下落(ユーロ安・円高)した。
相場軟調の背景は主に(1)欧州中銀(ECB)の利下げ観測がじわりと広がったこと、(2)イタリアの財政に対する市場の懸念が再燃したこと、(3)米国発の貿易戦争によるリスク回避の円高が進行したことなどであった。
ECBは議事録で「年後半の成長持ち直しに対して確信が持てない」との見解を示し、先行きへの警戒感を滲ませた(23日)。こうした中、ECBが年内に利下げに動く確率は31日時点で4割近くに上昇している(欧州金利先物)。
また、欧州議会選挙で伊第1党に躍進したポピュリズム(大衆迎合主義)政党「同盟」のサルビーニ党首は欧州連合(EU)の財政規律を遵守するつもりがないことを強調。同国国債に対する売り圧力が強まるとともにユーロも軟化した。さらには、米国発の貿易戦争が世界景気を圧迫するとの懸念が広がり世界的に株価が下落する中、リスク回避の円高が進行したこともユーロ/円相場を押し下げた。
【ユーロ/円 6月の見通し】
欧州議会では、重要決議事項の決定に3分の2以上の票が必要となるケースが多いため、5月の選挙で反欧州連合(EU)勢力が3分の1以上の議席を獲得すれば政治情勢が不安定化すると見られていた。しかし、蓋を開けてみれば親EU勢力が3分の2以上の議席を確保して事なきを得た。
これで、市場の関心はEU主要ポストの人事に移ることになるだろう。なお、次期欧州委員会委員長の候補者は20-21日のEU首脳会議で選定される見込みとなっている。欧州議会選挙で第1党の座を維持した「欧州人民党グループ」のウェーバー独キリスト教民主同盟(CDU)議員が有力候補だが、マクロン仏大統領は、委員長にバルニエEU首席交渉官(英国のEU離脱=Brexit担当)を推す考えとされる。
仮に、欧州委員長のポストにフランス人のバルニエ氏が就任すれば、次期欧州中銀(ECB)総裁のポストがドイツに渡る可能性が高まる。タカ派で知られる独連銀のバイトマン総裁がECB総裁に就任する可能性が高まればユーロに上昇圧力がかかることも考えられる。
6月のユーロ/円は、財政不安がくすぶるイタリア情勢なども含めて、引き続き「政治」が焦点の相場展開となりそうだ。
【6月のユーロ圏注目イベント】
執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)
株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya