2024年をめどに刷新される新一万円札の肖像画に、渋沢栄一が採用されたことは周知の通り。では、その渋沢栄一の著書で、企業経営者たちのバイブルとして時代を超えて読み継がれ、また近年は若いビジネスパーソンからも注目されている、『論語と算盤』をご存知でしょうか。
『「人間学×マーケティング」未来につづく会社になるための論語と算盤』(税込1,620円)の著者の一人である、アルマ・クリエイション 池田篤史氏は、渋沢が活躍した時代同様、社会が急激に変化する変わり目である今、この「論語と算盤」を兼ね備えた会社こそが、これからの未来に続く会社であると断言しています。
またそれは、ビジネスパーソン一人ひとりが、人格形成された稼げる人材にならなくてはならないということでもあると言います。
あなたの会社は、またあなた自身は、「論語」と「算盤」をバランスよく兼ね備えているでしょうか。そうした視点から、混迷する時代における若手ビジネスパーソンの働き方、生き抜き方について、池田氏にヒントをうかがいましたので、2回に分けて紹介します。
これからの時代を生き抜く2つの鍵
「日本資本主義の父」「実業界の父」と呼ばれる渋沢栄一。明治、大正、昭和の激動の時代を生き抜き、経営、マーケティングの優れた才覚で、設立や育成に関わった会社の数は約500社、それ以外にも約600の社会公共事業や民間外交に関与しています。
『論語と算盤』は、そんな元祖イノベーター渋沢による名著。今から100年以上も前に「資本主義」や「実業」が内包する問題を見抜き、そこに、中国古典の『論語』を織り込んで、「実業と道徳のバランスを保つこと」、つまり「金儲けと世の中に尽くすことの両立の大切さ」を説いています。
そして今、経営コンサルタントとして、様々な会社の経営支援をしている池田氏らがたどり着いたのもこの渋沢的思想だと言います。
池田氏「時代の変化があまりにも急激すぎる今、多くの会社がそれに取り残されまいと必死に不安を抱きながら経営し、バランスを保つことが難しくなっています。それを解決するために企業が持つべき考え方を最も的確に表しているのが『論語と算盤』。論語=人間学、算盤=マーケティングと置き換えることができると我々は考えたのです。
今からの時代、人間学とマーケティングを兼ね備えていない会社は未来に生き残れません。そしてそれは、会社のみならず個人にも当てはまります。これからは、ビジネスパーソン一人ひとりが、人格形成された稼げる人材になる必要があるのです」。
論語寄りか算盤寄りかを見極める
以下は、池田氏らが開発した「論語人・算盤人のバランスチェック表」です。論語人と算盤人のそれぞれの特徴を対比しています。合計10点満点で比較し、自分が論語人と算盤人のどちら寄りなのか、どちらかによりすぎていないかを、客観的に見つめてみてください。
これを見ても分かるように、論語人と算盤人の特徴は真逆です。これらを併せ持つことの難しさが分かるのではないかと思います。
また一方で、自分の会社が論語会社か算盤会社かを客観的に知っておくことも大切です。以下の「論語会社・算盤会社のバランスチェック表」で、同様にチェックしてみましょう。
池田氏「論語会社は、一言で言うと人の成長にコミットしている会社。顧客や社員との人間関係、協調性とか調和とか倫理観を、上司がすごく大切にしている会社です。一方の算盤会社は、数字を明確に分析し、数字でものごとを語り、個人の生産性を重視しているような会社です。
こうしてチェックしてみると、自分は論語的な人間だけれど算盤の会社に勤めているなとか、その逆だなといった具合に、自分をニュートラルに見られると思います。この混迷した時代を生き抜くには、まずはそれが大事なのです」。
個々のビジネスパーソンが論語と算盤を兼ね備えることが、なぜこれからの時代に必要なのでしょうか。
池田氏「多くのビジネスパーソンは、会社におけるキャリアとか、終身雇用というものが、すでに崩壊しているのを認識しながら働いていると思います。そうした中、自分の生きがいとかやりがいとか働きがいを、どのように感じながら生きていけばいいのかという不安を抱えていると思います。
そういったときに何が支えになるか? 突き詰めていくと、論語的な考え方が大事になると思うのです。『人としてどうあるべきか』という考え方を根本にしっかりと持ち、『自分はどういう人間で誰を幸せにしたいのか』という思いがあれば、時代やトレンド、テクノロジーの変化に対しても、単に流されるのではなくブレない軸を持ちながら新しいスキルや資格を身に付けて、成長を遂げていくことができるのです」。
1億総個人事業主時代が迫る
一方で、個人が算盤の感覚を持つというのはどういうことなのでしょうか。
池田氏「ここ30年くらいで、会社の寿命は短くなってきています。これまでの資本主義のあり方が崩れつつあり、お金に対し、信用経済的な考え方が浸透しつつあるのです。分かりやすくいうと、能力も人格もある人にプロジェクト単位で仕事を発注するような信用で経済が成り立つ時代、1億総個人事業主時代が迫ってきているのです。
そんな時代に対応してくためには、個人個人が一つの会社であるという考え方を持たざるを得ません。本当の意味で自分自身が自立していかなければならないのです。自身をブランディングし、強みを磨いて、それを発信する能力を持ってさえいれば、どんな会社に転職しようが独立することになろうが、不安に思うことなく未来のキャリアを描いて邁進することができます。それが、算盤的な感覚や視点を身に付けるということであり、今こそその必要性に気づいてほしいのです」。
これからは個人の信用でビジネスが動くので、マーケティングと人間学の考え方を個人が身に付ける必要があると警鐘を鳴らす池田氏。次回は、この二つの身に付け方を紹介してもらいます。
取材協力:池田篤史(いけだ・あつし)
アルマ・クリエイション
マネジングディレクター
事業創造コンサルティング部 事業部長
『「人間学×マーケティング」未来につづく会社になるための論語と算盤』の共著者である神田昌典主宰、400社の中小企業の経営者が集う次世代マーケティング実践会「The実践会(通称)」を含む、中小企業、中堅・上場企業の経営コンサルティングを行う、事業創造コンサルティング部事業部長。経営トップ・幹部の意思を組織に浸透させていくプロセス構築・実行支援で、多数の実績を持つ。