キヤノンは5月23日、デジタルカメラとフォトプリンターが一体になった「インスタントカメラプリンター iNSPiC ZV-123」を発表しました。撮影した写真を名刺大の用紙にプリントできる新趣向のカメラで、スマホに撮りためた写真をワイヤレスでプリントするプリンターとしても使えるのが特徴です。
価格はオープンで、予想実売価格は税込み19,000円前後。発売は6月6日。スマホ連携などの機能を省いたシンプルモデル「iNSPiC CV-123」(予想実売価格は税別13,800円前後)も用意します。
装備はシンプルでとにかく簡単
一見するとコンパクトデジカメのように見えるZV-123ですが、カメラ内にフォトプリンターを内蔵しており、撮影したその場ですぐに写真をプリントできます。レンズの周りには大きなミラーとリングLEDライトを備えており、自撮りもきれいにできるよう工夫しています。
撮影やプリントはとにかく簡単で、電源を入れてシャッターボタンを押すだけ。一般的なデジカメのように、撮影モードやISO感度、ホワイトバランスなどの設定はなく、すべてオートで設定してくれます。レンズの焦点距離は35mm判換算で25.4mmの広角タイプで、ズーム機能は省かれています。
ZV-123はBluetooth機能を内蔵しており、スマホからのプリントに対応。スマホには過去に撮りためたお気に入りの写真が数千枚、数万枚と記録されているうえ、近ごろのスマホカメラのほうが高画質で撮れることから、スマホからのプリントが中心となるでしょう。下位モデルのCV-123はBluetooth機能はないので、カメラで撮影した写真をプリントするだけになります。
プリンターは、インク不要の専用紙にプリントするZINKの「Zero Ink technology」を用いており、1枚約50秒でプリントできます。専用紙のサイズは6×7.6cmで、裏面はシールになっています。電源は内蔵のリチウムイオン充電池で、フル充電で約25枚のプリントができます。
背面シールでカット自在の用紙が売り
カメラやプリンターでおなじみのキヤノンですが、プリンター内蔵カメラを作ったのは実は初めて。デジカメには欠かせない背面液晶を省くなど、「キヤノンといえばデジカメ」というイメージからは少し離れた、思い切ったコンセプトの製品に仕上がっています。同社は「デジタルカメラ」とは呼ばずに「インスタントカメラ」だとアピールしています。
というのも、両機種とも底面に入れたmicroSDカードに撮影した画像を記録できますが、キヤノンではあえてmicroSDカードは入れず、その場で撮ったものをすぐにプリントするというインスタントカメラ的な使い方をメインに想定しています。
撮ったらすぐに写真が出てくるカメラといえば、富士フイルムのインスタントカメラ「チェキ」が存在し、どちらが優れているか気になるところです。キヤノンはチェキに対するiNSPiCシリーズの優位点として「写真の背面がシールになっている」ことを挙げています。
iNSPiCのメインユーザーである10代後半~30代の女性は、プリントした写真をアルバムなどに入れるのではなく、手帳をはじめとした身近なものに貼って楽しむ、という使い方をしているそう。背面がシールになっているのでノリや両面テープを用意せず簡単に貼れることはもちろん、写真を自由な形に切り取れる点が評価されているということでした。
偶発性を楽しむカメラ
2018年9月に発売したモバイルプリンター「PV-123」は、キヤノンが想定していた2.5倍もの台数を出荷するほどの好調ぶりを見せているそう。利用シーンを調べると、プリンター本体は小型軽量でバッテリーも内蔵しているにもかかわらず、大半は自宅の自室で使われており、外に持ち出されることが少なかったそうです。そこでキヤノンは、外に持ち出して使ってもらうべく、カメラとプリンターを一体化させた製品を企画したそうです。
商品企画の担当者は「スマートフォンは撮影した写真を画面で確認でき、レタッチなどの加工も容易です。それは便利なのですが、このカメラで意外な偶発性を楽しんでほしいと思います。また、スマートフォンに保存した写真は数が増えると見返すのも大変です。お気に入りの写真をプリントして1つのブックにまとめて貼れば、自分の好きなもののかたまりが一度に見られます。そうした紙焼き写真がもたらす楽しい体験を、特に若い方に楽しんでほしいと思います」と開発の思いを語ります。
今回のカメラは、デジタルながらアナログライクに仕上がられた、少々キヤノンらしくない製品といえます。シール付きの用紙や可搬性の高い薄型ボディーなど、王者チェキにはない特徴でどれぐらいファンを獲得できるか、楽しみなシリーズといえそうです。
著者プロフィール
武石修
1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。