会社が年末調整をしてくれるために確定申告の必要がなかった人も、年金をもらうようになると確定申告が必要かどうかを自分で判断しなくてはなりません。

本稿では、年金受給者で確定申告が必要なケースや、年金に課税する所得税および復興特別所得税の計算を行うために必要な「扶養親族等申告書」、確定申告が不要になる「確定申告不要制度」とその対象者のほか、公的年金等に係る雑所得の計算方法を解説します。

  • 年金受給者は確定申告したら得する?(写真:マイナビニュース)

    年金受給者は確定申告したら得する?

公的年金等の課税

老齢年金は、所得税法により雑所得として所得税および復興特別所得税がかかることになっています(遺族年金や障害年金は非課税)。

所得税の課税対象となる方は、

(1)65歳未満の方は108万円以上
(2)65歳以上の方は158万円以上

となっています。

日本年金機構では、毎年、所得税の課税対象となる人に、扶養親族等申告書を送付しており、これを日本年金機構に提出するかどうかで源泉徴収税率に差が生じることになるので忘れずに扶養親族等申告書を提出しましょう。源泉徴収の対象とならない人には、扶養親族等申告書は送付されません。よって申告書の提出は必要ありません。

扶養親族等申告書とは

扶養親族等申告書は、老齢年金に課税する所得税および復興特別所得税の計算を行うために必要です。

●扶養親族等申告書を提出することで該当する控除が受けられ、税率が5.105%になります。
●提出がない場合は、該当する控除が受けられず、税率が10.21%になります。
●控除対象となる配偶者や扶養親族がいない場合でも、税率が5.105%になりますので、必ず提出してください。

確定申告不要制度

公的年金等についても所得税や住民税はかかってきます(障害年金、遺族年金は除く)。ここでいう公的年金等とは、以下のものを指します。

(1)国民年金法、厚生年金保険法、公務員等の共済組合法などの規定による年金
(2)過去の勤務により会社などから支払われる年金
(3)外国の法令に基づく保険又は共済に関する制度で(1)に揚げる法律の規定による社会保険又は共済制度に類するもの

ただし、(a)公的年金等の収入金額の合計額が、400万円以下で、かつ、(b)公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が、20万円以下の場合には確定申告の必要はありません。

これを、公的年金等に係る確定申告不要制度といいます。しかし、一定の場合には、確定申告をすることで税金が安くなる場合もあるので検討する必要があります。

確定申告で税金が返ってくる場合

実務上においては、公的年金等の収入のみである場合の多くは確定申告を行う必要のない人が多く見受けられます。しかし、原則確定申告を行う必要のない人でも、公的年金等から源泉徴収されている人で、一定の場合には確定申告をした方が得な場合もあります。

ここでいう一定の場合とは以下となります。

(a)社会保険料の支払いがある場合(国民健康保険料、介護保険料等)
(b)生命保険料、地震保険料等の支払いがある場合
(c)その年の1月1日から12月31日までの医療費が10万円を超えている場合(又は、その年の総所得金額が200万円未満の人は総所得金額5%の金額)
(d)寄付金控除を受けられる場合
(e)扶養親族が増えた場合
(f)災害や盗難、横領により住宅や家財などに損害を受けた場合
(g)住宅ローン控除の適用がある場合等

還付申告の要件

確定申告書を提出する義務のない人の還付申告は、還付のための申告書を提出できる日から5年の期間内となっています。この還付のための申告書を提出することができる日とは、その年の翌年1月1日です。

例えば、平成26年分の医療費控除の適用を受ける申告は、平成27年1月1日から5年間、すなわち平成31年12月31日までの期間内であれば還付のための申告書を提出することができます。還付申告を行うことで、所得税だけではなく、住民税も減額されるのでこれらの条件に該当する人は、納税地を所轄する税務署に一度相談してみましょう。

公的年金等に係る雑所得の計算方法

公的年金等に係る雑所得の金額は、下記の表により算出します。

公的年金等に係る雑所得の金額=(a)×(b)-(c)
公的年金等に係る雑所得の速算表(平成17年分以後)

  • 公的年金等に係る雑所得の計算方法

    公的年金等に係る雑所得の計算方法

(注)例えば65歳以上の人で「公的年金等の収入金額の合計額」が350万円の場合には、公的年金等に係る雑所得の金額は次のようになります。 350万円×75%-37万5,000円=225万円

確定申告をするべきか不明な場合

近年においては、勤務延長制度や再雇用制度等により年金を受給しながら働いている人が増えてきているように思われます。雑所得(公的年金等)と給与所得の合計が、一定の金額を超える場合は確定申告をする必要があります。

自分では、確定申告をする必要があるのか判断がつかない人も多くおられると思いますが、確定申告をしなければ無申告加算税や延滞税が課される可能性もあるので気を付ける必要があります。どうしたらよいのか分からない人は、納税地を所轄する税務署に相談されることをお勧めします。

著者プロフィール

塚本泰久
ツカモト労務管理事務所 代表社会保険労務士・FP。
関西地区を中心に、地域に密着した事務所を目指しています。会計事務所出身であるという視点から、企業の宝である人財と企業会計のバランスに重点を置くことで、より強い企業の体制作りをサポートしています。「ツカモト労務管理事務所