長距離フライトの友といえばヘッドホン。機内エンターテインメントを楽しむうえで欠かせませんし、スマートフォンの音楽を聴くときにも必須です。しかし機内備品のヘッドホンは音質がちょっと……というのであれば、ノイズキャンセリングに対応した「ノイキャンヘッドホン」一択。オーディオテクニカの新しいノイキャンヘッドホン「ATH-ANC900BT」をお借りして、成田・サンディエゴの往復に利用した様子をレポートします。
周囲の音を打ち消す「ノイズキャンセリング」
ノイズキャンセリングとは、雑音(ノイズ)を打ち消す(キャンセルする)機能のこと。雑音の音波に対して逆の波形(逆位相の音波)をぶつけることにより、雑音を低減します。飛行機の離陸から着陸まで続くジェットエンジンの轟音を抑えられれば、音量を必要以上に上げることなく音楽や映画を楽しめますから、飛行機はノイズキャンセリング実践の場としてベストです。
今回の米国出張で持ち出した「ATH-ANC900BT」は、国内向けのオーディオテクニカ製品としては久しぶりのノイズキャンセリングヘッドホン。ノイズキャンセリング機能には電力供給が必須なため、バッテリーを搭載しているBluetoothヘッドホンとの相性は良好といえます。
ATH-ANC900BTの目玉は、「QuietPointデジタルハイブリッドノイズキャンセリング技術」。周囲の音を拾うためのマイクをハウジングの外側に配置する「フィードフォワード方式」と、ハウジング内側に配置する「フィードバック方式」を併用し、効果的なノイズ低減を実現します。
併用というのはかんたんですが、2つの技術は仕組みが大きく異なります。フィードフォワード方式は、外部にマイクを置くため音質への影響は小さいものの、ノイズ除去効果は穏やか。フィードバック方式は、耳元にマイクを配置するため高いノイズ除去効果を狙えますが、音質への影響は否定できません。いい音で高いノイズキャンセリング効果を得るには、"いい塩梅"に両方式を組み合わせる技術が求められるのです。
旅の始まりは成田から。横浜の自宅から成田までの2時間半は同行者がいたため、ATH-ANC900BTを首にかけていました。平らに折りたためるので、首にかけてもジャマになりません。付属のハードケースも持参しましたが、今回の旅では一度も使いませんでした。
成田空港に着いて出国手続きを終えたとき、離陸まで約1時間。ラウンジへ行くには中途半端な時間だったため、搭乗ゲート近くで足を伸ばせる椅子を確保し、ATH-ANC900BTとiPhone Xの組み合わせで音楽を聴きながら原稿を書くことにしました。
搭乗までになんらかのアナウンスが流れる可能性があるため、普段であればイヤホンやヘッドホンの着用は避けるところですが、ATH-ANC900BTなら安心。左ハウジング後方にあるボタンを押すと、瞬時に音楽のボリュームを下げ、周囲の音を取り入れる「クイックヒアスルー」が機能するからです。これなら、周囲の人の様子から「なにか放送された?」と気になったときすぐに確認できます。左ハウジングに2秒ほど触れると動作する「ヒアスルー」機能もありますが、こちらは周囲の音を遮断せず音楽を聴くためのモード。突然流れる搭乗案内をしっかり聞くには、クイックヒアスルーが便利です。
ところで、ATH-ANC900BTの操作は左ハウジングのタップが基本。上部のタップで音量アップ、下部のタップで音量ダウン。曲送りや曲戻しも、左ハウジングのタッチで操作できます。スマートフォンを使わずに済むので、手が塞がっていることが多い空港では重宝しました。
「自然」なノイズキャンセリングが真骨頂
飛行機が無事離陸して機内が落ち着いたところで、ATH-ANC900BTの本格的なテストを開始。まずは左右のハウジングを軽く耳に押しつけ、密閉性を高めます。念のため専用アプリ「Connect」を起動。動作モードがノイズキャンセリング/AirPlaneに設定されていることを確認したら、あとはひたすら音楽を聴くだけです。
ジェットエンジンの音ですが、完全な「無」にはならないものの、大幅に低減されます。ゴオォーという音がコォーに変わった、とでもいうべきでしょうか。はっきり効果を感じるのは音楽を聴いているときで、変わらずジェット音の影響はあるものの、普段とほぼ変わらない音量で音楽を楽しめます。ミールタイムを除けば離陸からほぼ連続3時間、ずっと音楽を聴き続けましたが、座席の窮屈さを除けばすこぶる快適でした。
「自然な感じ」のノイズキャンセリングこそATH-ANC900BTの真骨頂で、完成度の高さを感じる部分です。出発前に有線接続(付属のケーブルを利用するとハイレゾ対応の有線ヘッドホンとして使える)で聴いたときと基本的な音の傾向は変わらず、ノイズキャンセリング独特の閉塞感もありません。より明確にジェット音の除去効果を感じる製品があるとしても、聴き疲れの少なさを考慮すると、ATH-ANC900BTを好む人は多いでしょう。ぜひ店頭でいろいろなノイズキャンセリングヘッドホンと聞き比べてみてください。
その後しばらく睡眠をとりましたが、あえてATH-ANC900BTの電源はオンのまま。成田からサンディエゴまで11時間近くかかり、サンディエゴで入国手続き開始前にアプリで確認したところ、バッテリー残量は70%でした。11時間の内訳は、音楽を聴いたのが約4時間(成田で搭乗待ちの時間を含む)、電源オンのまま放置したのが約7時間。なかなかの省電力ぶりといえそうです。
省電力に関して、これで驚くのはまだ早いですよ。サンディエゴ到着から3日間で(断続的に)計2時間~3時間ほど音楽を聴き、サンディエゴから帰国の途に着くときバッテリー残量は65%。そして成田到着時のバッテリー残量は余裕の35%でした。
復路は予約便の都合でロサンゼルス経由となったため、待ち合わせ時間を含め約15時間を要しました。その間ずっとATH-ANC900BTのノイズキャンセリングをオンにし、4時間ほど音楽を再生したにもかかわらず、バッテリーは30%しか減っていませんでした。
ATH-ANC900BTの公称スペックでは、連続使用時間は最大約35時間(Bluetoothによる音楽再生/ノイズキャンセリング使用時)。ノイズキャンセリングのみ使用する場合は最大約60時間も使えるとのこと。こまめに電源オフして節電すれば、1週間ほどの海外出張でも充電なしで過ごせるでしょう。
気になる音質は?
音質ですが、40mmドライバーに採用した高剛性DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティング振動板が生み出す音は、瞬発力と解像感の高さが印象的。iPhone接続時に適用されるコーデックはSBCかAACの2択ですが、Android端末では高音質コーデック「aptX」も選べます(aptXをサポートする端末に限る)。専用アプリを使えば、コーデックを手動で切り替えるというマニアックな使い方も可能。コーデックの違いによる音の差を実感してみるのもよいでしょう。
ノイキャン機能付きでバッテリーは長持ちで、聴き疲れしにくくて……と機能満載のATH-ANC900BT。充実スペックはもちろん、個人的には長時間ノイズキャンセリングを使っても聴き疲れないところが気に入りました。次の海外出張では、付属の変換アダプタで機内エンターテインメントシステムを試すつもりです!