ビジネスシーンで「お疲れさまでした」はどこまで使えるのでしょうか。同僚? 上司? お取引先?

実は、この挨拶の用途はかなり混乱しています。適切に使うためにはどうしたらいいのか、しっかりと押さえていきましょう。

  • 「お疲れさまでした」はどこまで使える?(写真:マイナビニュース)

    「お疲れさまでした」はどこまで使える?

お疲れさまですの意味

「お疲れさまです」で国語辞典を引くと、「相手の労をねぎらう、あいさつ」「他人の骨折りを感謝する意を表す語」とあります。「日頃の苦労にありがとう」という意味が込められているわけです。

この挨拶を同僚や後輩などに使うぶんには何の問題もありません。問題は目上の場合です。

お疲れさまですは失礼?

「お疲れ」は「疲れ」の尊敬語で、「〜でした」は丁寧語ですから、「お疲れさまでした」は立派な敬語なのですが、文法的な正しさが通じなくなっています。

「以前は目上の人に使ってOKだったが、最近は失礼だと思われるので、なるべく使わないほうがいい」というややこしい状況にあるのです。

令和へと元号が変わった直後、「天皇皇后両陛下お疲れ様でした」というInstagramへの投稿が炎上するという事件が起きました。「会社の上司にすら失礼なのに」「皇室を何だと思っているんだ」という批判が殺到したのです。

ところが、三省堂国語辞典・第七版(2014年)や現代国語例解辞典・第五版(2016年)では、「目上に向かっても言う」という注釈が付いています。

文化庁による2005年度の国語世論調査でも、上司をねぎらう場合に7割近くが「お疲れさま」を選んでいます。
※文化庁「平成17年度『国語に関する世論調査』の結果について」より

どうやらここ5年ほどの間に、「目上の人に対する『お疲れさま』は失礼」という風潮になったようです。悪く取られるなら仕方ありません。今のところは、下記のような対応が無難でしょう。

・退社する際は「お先に失礼します」と言う。
・メールの書き出しや返信などに「お疲れさまです」を使うのは避ける。
・上司に会ったときは黙って会釈する。
・ほんとうに疲れをねぎらいたいときは「ご自愛ください」「お疲れを癒やしてください」を使う。

もちろん、「お疲れさまです」を目上にも使う社風ならばそれまで通りで構いませんが、社外の人とコミュニケーションするときは用心してください。

「目上の人向け挨拶」は変わっていく

そもそもなぜ「お疲れさまでした」は失礼だと思われるようになったのでしょう。

別の敬語扱いされなくなった挨拶に、「いってらっしゃい」があります。子ども相手でも頻繁に使われた結果、目上に使うのはどうだろう……と控えられるようになりました。

「お疲れさまでした」も同じような道をたどっているのです。この挨拶は、ビジネスシーン以外でも多用されていますよね。

ディズニーランドを堪能して帰るときにも、飲み会の乾杯のときにも使われています。あまりにも身近な語となったために、敬意が足りないという空気になったようです。

ご苦労様でしたは?

ちなみに、1990年代の社員研修では「目上の人に『ご苦労様でした』は失礼だから、『お疲れ様でした』を使いなさい」と教えられていました。

ところが、1940年代の旧日本軍では、上官に向かって「ご苦労様でした」と言うのは当然でしたし、1975年に行われた昭和天皇在位50周年式典でも「ご苦労様でした」と三木首相が述べています。

どうやら、目上への挨拶として「ご苦労様でした」→「お疲れ様でした」という変遷をたどってきたようです。はやく次の挨拶が確立してほしいものですね。