木口氏は「医薬品開発全体で見ると、自動化できる部分は多いと感じています」と指摘する。高度な解析を自動化することは難しい。しかし、これまで人間が繰り返し行ってきた単純な確認作業は、自動化によって改善できる部分がある。

例えば臨床試験では、被験者の体重/年齢といった背景情報の入力や、有害事象(被験者に生じた好ましくない事象)の解析は、毎回プログラムを書かなければならない。これまでは試験ごとにゼロから同じものを作成している状態だ。この作業は、機械による自動化でも問題がない。

また、解析プログラムの作成は2人が同時に作成し、それぞれのプログラムを付き合わせて間違いがないかを確認している。同じく、解析結果も数字の転記などに間違いがないかを人間が再度確認しているという。

さらに、治験の信頼性確立に欠かせないSDV(Source Document Verification)も、手間のかかる作業だ。SDVとは、治験の評価で重要な記録や報告を、医療機関が保存するカルテなどの原資料と比較することでその情報の完全性、正確性および妥当性を保証するプロセスである。これは、製薬企業の担当者、病院側の臨床試験審査委員会、厚生労働省の担当官など、第三者が確認する。

木口氏は、「こうした作業は『ミスがないように』と複数の人がダブル/トリプルチェックをしています。ただし、以前(のITが進んでいない時代)はともかく、ITが進化した現在では人間による確認作業は非効率ですし、うっかりミスによる間違いが発生することもあります。入力されているデータと実データが一致しているかどうかの確認は、自動化できます。また、AI(やCNN)は『疲れたから間違った』ということはありません」と語る。

もちろん、CNNにすべての判定を任せるのではない。臨床/解析の業務の最終確認は必ず人間が行う。これは「AIの判断が間違った場合、誰が責任を負うのか」という問題があるからだ。木口氏は「人間が作業する前段階の処理を『CNNでざっくりとできればOK』程度の期待でした」と語る。パラメータのチューニングや処理時間など課題もあるが、今後もCNN活用の研究は継続する方針だ。

塩野義は医薬品の枠にとらわれない研究開発を行っている。その1つがデジタル治療用アプリの開発だ。米Akili Interactive Labと提携し、小児の注意欠陥/多動性障害の治療を、ビデオゲームを通じて行う取り組みを行っている。木口氏は、「人々の健康につながるのであれば、医薬品開発以外にも解析技術をを使って取り組んでいきたい」と語る。

画像解析技術もさまざまな可能性がある。例えば、スマホアプリで皮膚疾患部分を撮影し、画像解析で判定すれば、おおよその状態を把握できるといった具合だ。これを基に応急処置方法を提案するといったことも考えられる。

「もちろん、診断をするのはお医者様です。AIは病気になる前の予兆を捉え、その予防につながるツールやサービスの開発に役立てられる。画像解析はその一助になると考えています」(木口氏)