本来であればMSペイントは廃止される予定だった。「Creators Update」の名称を持つWindows 10 バージョン1703では、代替かつ3D機能を加えた「ペイント3D」を搭載し、2017年7月24日には公式ブログで、Microsoftストアによる配布を発表した。
そして「Fall Creators Update」となるWindows 10 バージョン1709では、MSペイントを非推奨機能リストに加え、徐々にMSペイント廃止に向けて準備を進めてきた。
MSペイントはWindows 1.0から搭載してきたアクセサリーなだけに愛用者も多い。そのせいか非推奨機能リスト追加時は物議を醸し、現行のWindows 10 バージョン1809でも標準アクセサリーとして残している。
Microsoftとしてはアプリケーション(以下、アプリ)プラットフォームをWin32からUWPへ移行させたい。しかし、MSペイントとペイント3Dは似て非なる存在のため、ユーザーが受け入れなかったと見るのが確かだろう。
下位互換性を維持する目的から、MSペイントをMicrosoftストアから入手可能した後は放置するのかと思いきや、Microsoftは米国時間2019年5月14日にWindows 10 Insider Program参加者向けのNotes on Previewsで、MSペイントに新たなアクセシビリティ機能を追加することを発表した。
リンク先の説明によれば、Windows 10 バージョン(May 2019 Update)に搭載するMSペイントでは、アクセシビリティの観点からキーボードによるオブジェクトの操作が可能になるという。
たとえば矢印キーによるカーソルの移動やスペースキーによるツールの有効化、スペースキー+矢印キーでエリア選択といった具合だ。さらにナレーターによる読み上げ方法も改善したという。
先の記事でも触れたWindows Terminalや今回のMSペイント改良を鑑みると、Win32→UWPへの急速な移行を諦め、緩やかな流れに方針転換したのではないだろうか。
筆者も意識的にWin32ではなくUWPアプリを使用するようにしているが、本稿の執筆に用いるテキストエディタもIMEもWin32アプリである。残念ながら同等の機能を備えるUWPアプリが存在しないからだ。
見方を変えればWindowsの強みだったアプリ資産が、プラットフォームの移行を妨げる要因となっている。皮肉な結果だ。
阿久津良和(Cactus)