舌で味を感じる仕組みの研究は進んでいたが、実際に味として認識するための脳内の伝達経路などはよく分かっていなかった。今回、自然科学研究機構・生理学研究所などの研究グループが、甘味を伝える神経細胞をマウスの脳幹で見つけたと発表した。研究成果は7日付の米科学誌セルリポーツ電子版に掲載された。

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    甘味を脳内で伝える神経伝達経路の概念図(生理学研究所提供)

研究グループは、生理学研究所の中島健一朗准教授、傳欧研究員や東京大学大学院農学生命科学研究科の三坂巧准教授らがメンバー。

味覚は動物にとって好ましい食べ物を選択したり、有害な成分を避けるなど生命維持の上で重要な役割を果たしている。比較的最近の研究により、舌のセンサーとして働く味覚受容体が特定されるなど、末梢で味覚を感知するメカニズムは分かりつつあった。しかし、動物が味として認識するために必要な脳内の神経のメカニズムはほとんど分かっていなかった。

中島准教授らは、外部からの刺激を伝える神経細胞が集まっている脳幹の特定部分(橋結合腕傍核、PBN)に偏在してる神経細胞に「SatB2」と呼ばれるタンパク質(転写因子)が多く存在している点に着目。SatB2が味覚伝達神経の目印と仮定して、このタンパク質がある神経細胞を取り除いたマウスをつくった。そしてそのマウス群に甘味溶液を与えて、通常のマウス群と反応の違いを比べた。

その結果、通常のマウス群は甘味溶液の濃度が上がるほど溶液の摂取量(なめる回数)が増えたが、神経細胞を除去したマウス群の摂取量はほとんど変わらなかった。一方、苦味溶液を与えた反応では両群に目立った差はなかった。研究グループはまた、装着型の微小顕微鏡を使って甘味や苦味などの味溶液をマウスに与えて摂取中の脳活動を調べたところ、SatB2がある神経細胞は甘味にだけを選択して反応することも分かったという。

これらさまざまな実験を行った結果から、研究グループは、甘味や甘味を味わった際に生じる心地よさ(快情動)を伝達する神経細胞が脳幹にあると結論付けた。中島准教授らによると、今回見つかった甘味に関わる神経細胞そのものの活動を詳しく測定すれば、甘味や他の味が甘味に与える影響、おいしさなどを定量的に評価できるという。また、今後の研究によっては、肥満や2型糖尿病の人がなぜ甘い物を一層好むようになるのかといった謎の解明にもつながるかもしれないという。

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