ワークスタイルの多様化が進み、フレックスタイム制や時短勤務、テレワークなどが浸透してきたことから、同じプロジェクトに所属する社員が、普段から顔を合わせずに業務にあたるケースが増えています。
時間や場所に縛られず、自由に仕事できるのはとても便利なこと。その反面、どうしても社内コミュニケーションが希薄になる面があるのは否めません。だからといって、いつものオフィスや会議室に籠もったところで、社員の関係性がよくなるわけではないでしょう。
ならば、思い切って普段とは異なる空間でコミュニケーションを図ってみては? 打ってつけなのが今回紹介する「野外会議」です。屋外に張ったテントやタープの下で会議をする試みで、自然に囲まれながらの話し合いが、いつもと別角度のアイディアの種を生み出してくれると体験者からは好評を博しているそう。
野外会議を品川シーズンテラスで体験
ただ、都会のオフィスワーカーならば「野外会議なんてあくまでも地方の話。ビル街のど真ん中ではテントなんか張れないよ」などと思ってしまうかもしれません。でも、否定するのはちょっと待ってください。
都心部でも野外会議の試みが行われており、品川シーズンテラスもその1つ。芝生や緑で覆われた敷地内のイベントスペースを舞台に、「品川アウトドアオフィス on the Green」を開催しています。
今年も4月下旬の5日間、タープが3セット、テントが同じく3セット、焚火台(火おこしは禁止)が2セット設けられ、毎日、青空と緑を望みながら会議する企業の姿が見受けられました。
利用料は品川シーズンテラスのテナント企業なら無料、それ以外も1時間1,000円とリーズナブルなこともあり、来場者数はのべ1,300名以上(昨年度までの数字)に達しているそうです。
Wi-Fiや電源などの環境も整備しているほか、今年からはプロジェクタの貸し出しもスタートさせるなど、オフィスとそん色ない設備が整っているのも人気を後押ししているようです。
環境の変化が打ち合わせに新鮮さをもたらす
参加企業に話を聞いてみると、野外会議だからと特別なことはしていないところがほとんど。タープのエリアで会議していた某大手メーカーは、13~4人の定例会議をお試しがてらに開催したところ、「いつもより喋りやすかった」「距離感が近くなった」と感想を得たそうです。
テントで定例会議を行っていた空間デザイン会社は、「新鮮でよかった」「仕事じゃない感じがして、いつもと違ったアイディアが出た」と手ごたえ十分。「どうせならばお酒とバーベキューを楽しみながら打ち合わせしたい」との声も上がりましたが、残念ながら品川シーズンテラスは火気厳禁です。
別のテントを尋ねたところ、社内の仲良し3人組が会議ではなく、通常業務を行っていました。もともとフリーアドレスの会社だということで、試験的に使ってみたそうですが、「オフィスよりも集中できた」そうです。
他にも、品川シーズンテラスエリアマネジメント事務局が採ったアンケート結果を見ると「日常業務とは違う環境で打ち合わせができて気分転換になった」「子連のワーキングスタイルにもピッタリ」「都会のオアシスという感じでとてもリフレッシュできた」との声が寄せられており、野外という空間での会議に肯定的な意見がそろっています。
自然を感じられる会議の良さ
実は今回の取材では突然の雨が降ってきてしまい、空いているテントの中でお話を伺いました。スノーピークが提供したというこのテント、外から見ると単なる密閉された空間に見えるので、キャンプ未経験の筆者は、正直、ここで話しても普通の会議室と感覚的にあまり変わらないのでは、との先入観を抱いていました。
ところが、いざ使ってみると、予想外の快適さでした。外壁のシート越しにうっすらと漏れ入る太陽の光のもと、テントにあたる風や雨の音をBGMに、車座になってビジネスの会話をする――非日常的なシチュエーションがなんとも心地よくて、リラックスした気持ちで会話を進めることができました。
野外会議が人の心にもたらす良き効果を、わずかながらも体感できた気がします。
研修を野外開催する企業も
品川アウトドアオフィスに機材提供するスノーピーク広報部の木下習子さんによれば、同社の子会社であるスノーピークビジネスソリューションズでは、2016年からアウトドアオフィスの提案をスタート。
品川以外にも渋谷や二子玉川で同様の野外会議スペースを設けたのはもちろん、企業ごとの要望に合わせてキャンプ機材の提供・設営をしたり、野外での研修メニューなどを提供したりしているそうです。いわゆる"グランピング"に近いノリで、企業の経営幹部向けの研修を野外で行った実績もあるとか。
「自然と人が触れ合うことで人間が持つ本来の姿を取り戻すのが私たちのミッション。ですが、キャンプを楽しむ人は全人口の7%程度と限られています。ほかの93%の人にも職場で人間性回復してもらおうと、こうした取り組みを開始しました。オープンな野外でありながらテント内というやや閉じられた空間で、人と人の距離感が近くなるといった反響を頂いています」(木下さん)