第60期王位戦挑戦者決定リーグ白組の羽生善治九段―千田翔太七段戦が5月15日、東京・将棋会館で行われ、羽生九段が勝利を収め、挑戦権獲得に望みをつなぎました。敗れた千田七段はリーグ陥落が決定。
「温故知新」の戦法選択 12年ぶり先手四間飛車採用
対局は「角換わり」などの「居飛車」を主戦場とする先手の羽生九段が珍しく「振り飛車」(四間飛車)を採用。対する千田七段は玉を盤面隅に配置し金銀で守る「穴熊」を構築し、その堅さを頼りに猛攻を仕掛け優位に立ちましたが、辛抱強く受ける羽生九段の指し手にミスが出て逆転。以降は羽生九段が再逆転を許さない丁寧な指し回しで勝ち切りました。
王位戦は挑戦者決定リーグが各6人で構成される「紅組」「白組」に分かれていて、両組で優勝した棋士同士が挑戦者決定戦を行うシステム。また、両リーグ下位4人は陥落となり、次期は予選からのスタートとなります。例年6月に挑戦者決定戦が行われ、7月に王位(※現在は豊島将之王位)と挑戦者による七番勝負が開幕します。
15日の勝利で羽生九段のリーグ成績は3勝1敗。同じ白組に先日悲願の初タイトルを獲得した永瀬拓矢叡王が一人無敗を守っているため、自力での優勝はありませんが、永瀬叡王が残り2局のうち1局ないし2局に敗れた場合プレーオフ進出、または単独優勝の可能性があります。紅組のほうでも若手に混じりベテランが奮闘中。第50期、第55期、第57期と3度王位戦挑戦者となっている45歳、木村一基九段が3戦無敗としています。
将棋AIの発達で戦術が変わり、若手の台頭著しい現在の将棋界。コンピュータによる深い研究で知られ、「AIの申し子」とも言われる千田七段を相手に、逆転勝ちとはいえまさに「温故知新」、昔ながらの四間飛車をぶつけて勝利を収めた羽生九段。タイトル通算獲得100期の一歩手前、99期で足踏みを余儀なくされていますが、「進化」とも「退化」とも言えない変化、柔軟性を持って前人未到の大記録に向かっています。