暗号資産投資を考えたときキーワードとして浮かぶのが「ICO」ではないでしょうか。2019年3月15日に閣議決定された暗号資産関連の法改正で、ICOも新たな規制対象となります。世界的に詐欺被害が横行する一方、企業や団体の資金調達ニーズのために有効活用できるICOに、どのような規制が行われるのか基本を理解しておきましょう。
本稿を読む前に、法改正の解説記事を読むとより理解しやすいでしょう。
有価証券に該当するものは規制対象に
そもそもICOとは「Initial Coin Offering」の略称で、資金調達を行いたい企業が「トークン」というデジタル化された権利証を発行する見返りとして、暗号資産の出資を受ける方法です。
大きく以下3つのトークンに分類されます。
(1)決済用トークン:商取引で物やサービスの対価の支払いとして利用される
(2)ユーティリティトークン:会員証のように、特定のサービスに接続するために利用される
(3)アセットトークン:会社の純資産や、不動産などの資産を裏付けにして発行する
決済用トークンやユーティリティトークンは何となく利用シーンがイメージできます。では、アセットトークンの「資産を裏付け」とはどういうことでしょうか。
例えば、1億円の純資産を持つ会社がICOを行ってアセットトークンを発行するとします。このとき、1トークン=100円とすれば、1億円÷100円=100万トークンが発行できます。100万トークンが会社の1億円の純資産を表していることになります。これが「資産の裏付け」です。
会社が発行する株式の仕組みと同じ考え方をしていることにお気づきでしょう。また、もしアセットトークンを持っている人が、他人(この場合は会社)の行う事業の利益を受け取ることがある場合、これを「セキュリティトークン」と言います。
2020年を目指す暗号資産関係の法改正で、セキュリティトークンは「電子記録移転権利」という名称で法規制の対象となりました。これにより、金融商品取引法という金融商品を規制する法令の中に「電子記録移転権利」が追加され、株式と同じ水準の規制が適用されます。
電子記録移転権利の規制は何のため?
実際に電子記録移転権利(セキュリティートークン)の規制にはどのようなものがあるでしょうか。金融庁の仮想通貨交換業等に関する研究会報告書 によれば、以下の4つの仕組みによる規制が必要であると報告しています。
(1)発行者と投資家との情報の非対称性を解消するための情報提供の仕組み
(2)第三者が発行者の事業・財務状況のスクリーニングを行う仕組み
(3)トークン流通の場で公正な取引を実現する仕組み
(4)情報の非対称性の大きさに応じてトークン流通の範囲等に差を設ける仕組み
これらの仕組みは投資家が詐欺被害に遭わないようにするための仕組みです。特に重要なのが(2)のスクリーニングです。第三者が行うことによって、発行者の信用を一定範囲で担保してくれることになります。
また(1)の情報提供の仕組みを、同じ規制対象となる株式を例にすると以下のようになります。
(1)株式の発行開示義務
株式の募集を行う企業の営業や財務状況をまとめた「有価証券届出書」や投資判断を行うために必要な情報をまとめた「目論見書」を内閣総理大臣に提出
(2)株式の継続開示義務
実際に発行が行われたら、1年ごとに営業や財務状況をまとめた有価証券報告書を提出し、四半期ごとでも、営業や財務状況をまとめた「四半期報告書」を提出
この規制は、投資家が50名以上などの場合で行う「募集」という方式の場合に適用されます。
また、株式の発行企業から提出された有価証券届出書や有価証券報告書などの書類はEDINETというシステムで閲覧することが可能です。
金融商品取引法の規制は発行者に対してだけでなく、実際のトークンの出資募集や売買の取次ぎを行う業者にもかかります。規制の中には「第一種金融商品取引業」という登録要件があり、これを満たせない業者は、電子記録移転権利(セキュリティートークン)を取り扱うことができません。
第一種金融商品取引業はわかりやすくいうと「証券会社」のことです。株式や投資信託を扱うときと同じように電子記録移転権利(セキュリティートークン)を扱う必要があり、投資家を守るための規制であるといえます。
本稿は法改正に伴うICOへの規制の基本の説明とはいえ、金融関連の専門用語が羅列した内容でした。1つ1つの用語の意味を理解することも重要ですが、新たな規制は投資家保護が主です。ですので、株式と同じように発行者や取扱業者も規制を受けることが理解できれば十分です。このような規制があることで健全なICO市場形成ができることも理解しておきましょう。