同時翻訳でライブの躍動感を外国人にも届ける

そして、KIKKOMAN LIVE KITCHEN TOKYOのもう1つの特徴が、店名の通り、料理を実演することだ。しかも、日は限定されるが、メニューを監修したシェフ本人がキッチンに立つ。それ以外の日のライブも運営パートナーである「うかい」グループのシェフが担当する。

実演をするシェフは食材の説明をしながら料理を作っていくのだが、食材を包丁でさばいたり、出汁をとったりする様子を自分の目で見ることができるのは貴重な機会だ。香りや音と一緒に料理を五感で楽しむことができる。

シェフが客の目の前で調理を行う傍ら、オープンキッチンでは複数の料理人が同じ料理を作り、ライブが終わると一斉に料理がサーブされる。

さらなる仕掛けとして、ライブの様子を同時翻訳するタブレット端末(iPad)を貸し出している。MCの女性、調理しているシェフの音声を解析して、日本語と外国語を併記してiPadに表示するのだ。同時翻訳システムは、富士通の会議システムをベースとしている。

  • 実演の際、MCとシェフの話した言葉が同時翻訳されてiPadに表示される。翻訳の遅さを感じることはなかった

石塚氏は、富士通のシステムを選択したポイントとして、翻訳した内容を瞬時に文字で表示できるのでライブを妨げることがない点を挙げた。類似のシステムは翻訳した内容を音声で返すものが多いという。

なお、音声を正確に解析するには、やはり発音がカギになる。石塚氏によると、MCを担当している女性はテレビ局のアナウンサーの経験があるため、彼女が話した言葉は正確に翻訳されるが、普通の人が話した言葉の翻訳の精度は若干下がるそうだ。

実演を見ながら、五感で料理を堪能

さて今回、取材を兼ねて、4月のメニューをいただいたので紹介したい。メニューを監修したのは、恵比寿「マッシュルーム」のオーナーシェフの山岡昌治氏と「賛否両論」のオーナー兼料理人の笠原将弘氏だ。以下が、メニューの内容だ。

  • アミューズ…フォアグラのプリン
  • 前菜…マッシュルームのムースとクリュ 小松菜の擬製豆腐と桜鯛の小松菜和え
  • 椀…海老しんじょう かぶ含め煮 椀
  • あたたかい前菜…春の貝類 韮バターブレゼ ハナビラ茸
  • 魚料理…鰆みそ柚庵焼 春野菜添え
  • 肉料理…TokyoXのローストとフュメ フキノトウリゾット もろみ風味のソースエーグルドゥース
  • お食事…若竹そば
  • デザート…セップのアイスクリーム 苺もなか
  • アミューズ…フォアグラのプリン

  • 前菜…マッシュルームのムースとクリュ 小松菜の擬製豆腐と桜鯛の小松菜和え。アミューズと前菜は山岡氏が監修

  • 椀…海老しんじょう かぶ含め煮 椀。笠原氏が監修

  • あたたかい前菜…春の貝類 韮バターブレゼ ハナビラ茸

  • 魚料理…鰆みそ柚庵焼 春野菜添え

  • 肉料理…TokyoXのローストとフュメ フキノトウリゾット もろみ風味のソースエーグルドゥース。TokyoXを食べることができる店は限られており、初めて食べた

  • 若竹そば。そばに乗せるための木の芽をその場で叩いており、ツンとした香りが立っていた

  • セップのアイスクリーム 苺もなか。セップはキノコの一種で、もなかの皮にはしょうゆが練り込まれている

4月は「東京」がテーマだったため、東京で採れた小松菜、東京の地域特産豚肉として開発されたブランド豚肉「TokyoX」が食材として利用されている。

当日の調理は、うかいの和食事業部 統括料理長の菊池剛氏が行った。同氏は「出汁をとる時、かつお節を勢いよく鍋に入れていませんか?」と言いながら、椀の調理において出汁を取る際のポイントとして、かつお節をそーっと優しく入れることを紹介し、客席からは感嘆の声が上がっていた。

  • 料理人が出汁をとっている様子。かつお節は優しく鍋に入れよう

  • TokyoXを調理している様子

  • 厨房では実演のタイミングに合わせて一斉に料理をサーブできるよう複数のシェフが調理している

客席には、外国人の男女が座っていたが、ライブの際はiPadを熱心に見入っており、和食の調理についても理解を深めてもらえたことだろう。

ちなみに、お味のほうは、人気レストランのシェフが監修したメニューだけあり、どれも秀逸だった。和とフレンチを融合させたフルコース料理ということで、いずれも口当たりがさっぱりとしており、素材の美味しさを存分に感じることができた。

石塚氏に今後の展開を聞いたところ、旅行会社と連携するなどして、外国人の集客を増やしていきたいという答えが返ってきた。また、英語での表記も行っているグルメサイトの活用も検討したいという。東京オリンピックのチケットの申し込みが始まったが、これから日本に対する注目度はますます高まっていくはずだ。食を存分に堪能するためのコンテンツと環境はそろっており、あとはいかにして認知度を上げていくかが課題と言えよう。

訪日外国人の関心が「モノ」から「コト」に移ってきている今、腕が確かな調理人の実演とともに日本人が届ける繊細な食文化を味わえるKIKKOMAN LIVE KITCHEN TOKYOは、日本のよさを体験してもらえるよい機会になるのではないだろうか。

現在のところ、KIKKOMAN LIVE KITCHEN TOKYOの営業は2020年8月までを予定しているという。興味を持たれた人は、先延ばしせずに、足を運んでみたほうがよいかもしれない。