それは突然だった。まさかのiPad Airの復活である。新モデルとしては5年ぶりの登場だ。

先代のiPad Air 2と比較して……というのはあまり意味がないように思えるので、現行ラインナップで新iPad Airがどんなポジションを占めるのか?というテーマで本稿を進めよう。

  • 新iPad AirはSmart Keyboardに対応する

  • Apple Pencilにも対応。「セミiPad Pro」呼ぶべき存在になった

昨秋発売となったiPad Pro(第3世代)は、グラフィックスや写真、映像などを扱うクリエイター向けのモデルと言える。もちろん、ホビー用でもOKだ。新iPad Airと同時に発売となった新しいiPad miniは、可搬性に高い機動力を求める向き、手の小さい子供や女性に愛用されるモデルとなるであろう。昨春に発売された第6世代iPadは低価格ながらApple Pencilにも対応し、教育の現場にピッタリな仕様だ。

それで、新iPad Airだが、ざっくりとプロ向け(iPad Pro)とエントリー向け(新iPad mini/第6世代iPad)の間を埋める存在であると言える。具体的には、エントリー向けのモデルでは不十分と感じているが、プロ向けのスペックは必要ない、ビジネスユースがメインだけど、ホビーにも使いたい、割と最近のモデルのiPhoneも使っているという人向けといったところだろうか。

Apple PencilとSmart Keyboardの対応で、利用シーンが広がるのは言うまでもあるまい。Appleは以前からiPadを「パソコンの置き換え」という位置付けで紹介してきたが、その路線を加速させるべく投入されたモデルであるのに相違ない。特にSmart Keyboardの対応はMacライクなテキスト入力を可能にしてくれる。ワープロアプリ「Pages」での書類作成はもちろん、SNSへの投稿、ブログの更新などの場面で重宝することだろう。

  • Smart Keyboardの対応は「パソコンの置き換え」化を加速させる

Apple Pencilのサポートで、メモの手書き、送られてきたPDFをマークアップで校正などの作業も効率的に行えるようになる。対応しているのは第1世代のApple Pencilだが、iPad Proほどの機能は求めていないなら、これでも十二分ではないだろうか。第1世代のiPad Proを使っているが買い替えたい、なんて人の選択にも入ってくると思われる。CPUは第1世代iPad ProはApple A9Xチップだが、新iPad AirではNeural Engineを搭載したA12 Bionicチップと大幅にパワーアップしているのだし。

ビジネスユースがメインの人向けと前述したが、これももっと具体的に言うと、Appleの100%子会社であるファイルメーカーの製品を使っている現場向けであると感ずる。数値やテキスト入力に便利なSmart Keyboardを利用して、ファイルメーカーで作成したカスタム Appのデータを変更したり、カスタム App上に設定した、見積書やクレジットカードのサインを入力するフィールドにApple Pencilで書き込むといったシーンがパッと思いついた。

ビジネスシーンで活用されているApple提供のアプリと言うと、先述のPagesのほかに表計算アプリ「Nubmers」、プレゼンテーションアプリ「Keynote」で構成されるプロダクティビティツール「iWork」があるが、小規模なチームでファイルメーカーを運用するのに、新iPad Air+Smart Keyboard+Apple Pencilは最適だと太鼓判を押せる。新iPad Airは個人ユースはもちろんだが、コストパフォーマンスの面で、企業が一括購入でチョイスするという気がしている。

そのほかの機能もチェックしていこう。セキュア認証はTouch ID(指紋認証)だ。iPad Proに搭載された顔認識機能「Face ID」は本体を横向きにしても動作する(iPhoneでは縦向きのみで動作)が、それでも認証に失敗することがままある。対してTouch IDで認証失敗するケースは殆どなく、どちらかと言うと、Touch IDのほうがストレスなく使えるイメージがある。より、強固なセキュア認証をというならFace ID搭載のiPad Proをお勧めするが、Touch IDもセキュリティ突破は非常に困難で、筆者はこれで十分だという考えなのだが、いかがだろうか。

  • ホームボタン採用でセキュア認証はTouch IDを搭載。筆者の手元にあるのはWi-Fi + Cellularモデルで、アンテナ用の「D」ラインがあるデザイン

コネクタ類は、Smart Keyboard接続用のSmart Connectorに、Lightning、3.5mmステレオイヤホンジャックを搭載。第1世代のApple Pencil対応ということで、当然のLightning採用となったが、以前からのアクセサリーを継続利用したい人、iPhoneのアクセサリーを兼用したい人にはむしろ嬉しい仕様ではないだろうか。

  • 意外と「プロ向き」な仕様、3.5mmステレオイヤホンジャック

そして、3.5mmステレオイヤホンジャック。これ、意外と「プロ向き」だと言える。新しいAirPodsのレビューでも詳述したが、「GarageBand」などの音楽制作アプリの使用時、ワイヤレスヘッドホン/イヤホンで生じる「遅延(レイテンシー)」は致命的である。楽器を弾いた際、音が鳴るのが遅れてきては使い物にならない。ワイヤードなヘッドホン/イヤホンなら、問題になるレベルの遅延は生じないから、音を扱うプロにはヘッドホンジャックがあったほうが良いのだ(という意味では、iPad Proは外部のオーディオインターフェースを使うのが前提になっているとも言える)。

  • メインカメラ(背面)が8Mピクセル。iPad Proシリーズに採用されている「クアッドLED True Toneフラッシュ」は非搭載

カメラは、メインカメラ(背面)が8Mピクセル、フロントカメラは7MピクセルのFaceTime HDカメラとなっている。このスペックは、メインカメラで4K動画が撮れたり、フロントカメラでもポートレートモードが利用できたりするiPad Proと比べると見劣りする観があるのは否めない。が、である。割と最近のモデルのiPhoneも使っている人なら、我慢できるのではないだろうか。つまりこういうことである。撮影はiPhoneに任せるのだ。

iPhone X以降のカメラならiPad Proで使える撮影機能は全部利用できる。だったら写真も動画も撮影はiPhoneで行って、AirDropしたデータをiPad Airで編集すれば良いという考え方である。

iPadの導入を考えているなら、多くの方はiPhoneユーザーではないだろうか。こういう割り切った使い方をするなら、iPad Airのチョイスは大いにありだと思う。そもそも、大きなiPad Proをホールドして長時間撮影しようという気になるだろうか(特に12.9インチモデル)。

最後にディスプレイの性能について。最大輝度500nitsのフルラミネーションディスプレイ、反射防止コーティング、True Toneに、デジタルシネマの規格であるDCI-P3への対応と、リフレッシュレートが最大60Hzとなっている以外は上位モデルのiPad Proシリーズとほぼ同等の仕様だ(こちらのリフレッシュレートは最大120Hz)。

そして、サイズは10.5インチ。先代のiPad Airは9.7インチだったが、より大きな画面となって帰ってきたことになる。ここで現行のiPadの画面サイズを見てみよう。

  • iPad mini:7.9インチ
  • 第6世代iPad:9.7インチ
  • iPad Air:10.5インチ
  • iPad Pro:11インチ
  • iPad Pro:12.9インチ

全部異なるのである。筆者は新しいiPad miniのレビューで「多様な利用シーンを想定した時、その用途に応じてラインナップを拡充する必要があった」と指摘したが、それは被りのないディスプレイサイズにも表れているのではないだろうか。サイズは第6世代iPadより大きいが、重さはWi-Fiモデルで13g、Wi-Fi + Cellularモデルは14g軽くなっているのも選択基準に入ってくるかもしれない。Smart Keyboardとセットでの利用を考慮すると、本体質量は少ないほうが嬉しい。

前述した通り、新しいiPad Airはプロ向けとエントリー向けの隙間を埋める存在であると筆者は考えているが、全体の印象としては、「セミiPad Pro」という感じである。ビジネスシーンに最適というだけでなく、クリエィティブな現場でもその実力を発揮してくれることだろう。