格安スマホの楽天モバイルが池袋東口に大型店舗をオープンした。
これまで、多くのMVNO事業者はネット販売を中心にするなど、リアルな接点に掛けるコストを減らすことで「格安」を実現していた。しかし最近では店舗やサポートの需要が高まっており、消耗戦の様相を呈している。
その中で楽天は、10月に自社回線サービスの開始を予定している。サービス開始まで半年を切ったいま、新たな課題が見えてきた。
国内MVNOでNo.1に、店舗数は500を突破
国内の携帯電話市場では、依然として大手3キャリアが8~9割のシェアを占めている。MVNO事業者は格安スマホを旗印にシェアを伸ばしているものの、大手キャリアの値下げ攻勢により、伸び悩みが指摘されている。
その中で、楽天モバイルは2019年3月に国内MVNOサービスで1位となり、2位以下に大きな差をつけた(MMD総研調べ)。2019年3月の月間新規契約数は前年比で39%増と順調に伸びている。また、乗り換えた人の92%が「大手キャリアには戻れない」と回答するなど、利用者の評価も高いようだ。
最近のMVNO各社が直面している課題が、店舗やサポート需要の高まりだ。楽天モバイルの調査では、86%以上の人が店舗での契約を望んでおり、インターネットでの契約を大幅に上回ったという。
かつてのMVNOはデータ回線を求めるリテラシーの高いユーザーが中心で、店舗やサポートは不要との声が多かった。だが利用者層が拡大したことで、音声契約の比率が高まり、大手キャリア並みのサービスを求める人が増えている。
MVNO各社が体力勝負に陥っている中で、楽天モバイルのショップは国内で500店舗を突破した。単独の店舗だけでなく、プロントや西友、蔦屋書店の店舗内に楽天モバイルを出店するなど、新たな顧客層の取り込みを狙っている。
さらに都市部では需要の増加に応じて、大型店舗も増やしている。4月にオープンした渋谷公園通り店(320㎡)や池袋東口店(160㎡)は、70㎡程度だった従来店舗より2倍以上大きいのが特徴だ。
楽天の強みは「楽天経済圏」とのシナジーだ。楽天モバイルユーザーの多くは楽天市場や楽天トラベルなどを利用しており、獲得したポイントを有効活用している。これらのサービスにアクセスする窓口として、モバイルが一翼を担っているというわけだ。
MVNOから移行するメリットはあるのか
楽天モバイルにとって、次の大きな挑戦は自社回線への移行だ。ドコモやauの回線を利用するMVNOではなく、自前の基地局を用いたサービスを10月に開始する。移行を希望する既存ユーザーには10月以降に順次案内するという。
だが、ここへ来て新たな課題も見えてきた。それがMVNOと自社回線のすみ分けだ。「移行でどういうメリットがあるのか」との質問に対し、楽天モバイル側は「世界最先端の仮想化技術を採用し、回線品質が向上する」(常務執行役員の大尾嘉宏人氏)と答えた。
楽天は仮想化技術を2月のMWCに出店し、世界的に注目を浴びた。だが、ユーザーにどういうメリットがあるのか具体的な数字や機能を示すことができず、会見に参加した報道関係者らが首をかしげる場面もあった。
その背景として、同社は少なくとも10月まではMVNOサービスで新規の契約者を増やしていく必要がある。それに加えて、楽天の自社回線に不安を持つMVNOユーザーは移行を先延ばしにする可能性もあり、当面はMVNOサービスを継続していくことになりそうだ。
つまり、楽天としても「自社回線になればバラ色の未来がくる」とはアピールしにくい、というわけだ。MVNOサービス利用者の92%は高い満足を示していることもあり、うまくすみ分けながら、自社回線への移行を促していきたいところだろう。
楽天は、MVNOから自社回線への移行という前例のない挑戦に取り組む中で、困難な課題に直面しつつある。半年後の移行開始に向けて、難しい舵取りを迫られることになりそうだ。
(山口健太)