レノボのデータセンターグループが成長戦略を推進している。2018年度は市場全体を上回る成長を遂げ、4月から始まった2019年度においても、ハイパースケールやHCI、スーパーコンピューティング、サービスなど、同社が取り組むすべての事業領域で、市場全体に比べて2倍の成長を見込むという。
レノボ エグゼクティブバイスプレジデント兼データセンターグループ担当プレジデントのカーク・スコーゲン(Kirk Skaugen)氏は、「高い顧客満足度を維持するとともに、とデータセンターグループの市場シェアも拡大している」と、ビジネスの成長に自信をみせる。
また、スコーゲン氏は、2019年5月13日から、米オーランドで開催する年次イベント「Lenovo Accelerate 2019」において、「Transform 3.0」という新たな方針を打ち出すことに言及。「3つのSがポイントになる」とする。スコーゲン氏に話を聞いた。
2018年度(2018年4月~2019年3月)は、レノボのデータセンターグループにとって、どんな1年でしたか?
スコーゲン氏: 2つの大きな移行がありました。ひとつは、製品中心の企業から、顧客中心の企業に移行したという点です。顧客中心型の企業とは、顧客の課題を起点とし、それを解決するためのソリューションを実現する製品を提供できる企業のことです。レノボは、x86サーバでは、ナンバーワンの顧客満足度の評価を得ており、日本を含むアジア太平洋地域では、品質、信頼性、技術サポートなど、顧客満足度を構成する22項目のすべてでナンバーワンとなっています。とくに、日本では、5年連続で、x86サーバの信頼性においてナンバーワンを獲得し、メインフレーム並の信頼性を実現できているといえます。
もうひとつは、単一製品のビジネスを行う企業から、複数ビジネスによるソリューションビジネスを行う企業への移行です。レノボは、もともとはPC中心の企業でしたが、数年前から、スマホ、IoT、サーバ、ストレージ、ネットワークを網羅した企業へと変化してきました。それに伴い、多くの優秀な人材を招聘しています。インテルのソフトウェアを担当していたダグ・フィッシャーが、レノボ データセンターグループのCOOとなり、日本では、2019年1月に、レノボ・エンタープライズの社長に、前日本マイクロソフトのジョン・ロボトムが就きました。こうした人材を見ても、ハードウェアの企業から、ソリューションの企業へと移行していることがわかるでしょう。
こうした変化による成果は、業績に表れています。ネットアップの提携により、エントリーとミッドレンジのストレージでは、市場平均を大きく上回る速い成長を遂げていますし、フラッシュアレイでは、4四半期連続で100%以上の成長を遂げており、他社の2倍の成長となっています。また、パブリッククラウドプロバイダー向けや、企業向けハイブリッドクラウドをあわせたクラウドビジネスにおいても、他社の2倍以上の成長を遂げています。HCIも8四半期連続で高い成長を遂げ、最新四半期では100%以上の成長となっています。2019年度の目標は、ハイパースケールやHCI、スーパーコンピューティング、サービスなど、私たちがビジネスを行っているすべの領域で、市場全体の伸びの2倍の成長を達成するということです。そして、データセンターグループのマーケットシェアも上昇しており、これも継続していきます。
高い成長を見込むことができる理由はなんですか?
スコーゲン氏: 顧客中心の企業へと移行したことで、スーパーコンピューティングやハイパースケール、HCIなど、それぞれの領域の顧客と緊密なコミュニケーションが取れるようになったこと、同時に、迅速な意思決定を行うことができる体制を構築できたことです。業界全体を上回る高い成長は、顧客の課題を解決するソリューションを提供できていることの証です。また、我々には、メインフレームや過去のストレージ資産など、守るべきレガシーがないため、ソフトウェアディファンドをはじめとして、新たな技術を迅速に導入する提案ができ、多くのオプションを提示することが可能です。これらがデータセンターグループの成長の源泉となっています。
2018年度のなかでは、ネットアップとの協業が大きなトピックスだといえます。その成果を推し量るには、時期尚早ですか?
スコーゲン氏: 2018年9月に発表したネットアップとの協業は、予定通りで進捗しています。2019年2月には、中国で合弁会社を設立し、中国でトップ3のストレージベンダーになることを目指していますし、中国以外の地域においては、フラッシュアレイやハイブリッドフラッシュの領域に力を注ぐことで、ストレージベンダーとして最も速い成長を遂げる企業を目指しています。レノボとネットアップの製品は補完関係にありますし、それぞれの強みを生かして、新たな市場開拓をすることができます。たとえば、レノボのサーバを利用しているユーザーに、ネットアップのストレージを提案したり、ネットアップのストレージを利用しているユーザーに、レノボのサーバを提案することが可能です。グローバルでの協業において、最も重要なのは、市場での競合が起きないということです。両社の協業は、レノボが展開してきた全世界160カ国の市場においても、事業を拡大することができ、ネットアップが実績を持つ大企業市場においても、ビジネスを加速することができます。この補完関係は、チャネルパートナーにおけるメリット、ポートフォリオ拡大のメリット、そして、新たな製品の開発においても共同で進めることができるというメリットが生まれます。先にも触れたように、進捗は、当初計画に比べても予定通りだといえます。レノボにおけるストレージの専門家の採用も順調に進んでいます。しかし、社内に対しては、もっと速くできるはずだ、と発破をかけていますよ(笑)。
2018年度にやり残したことはありますか?
スコーゲン氏: 改善の余地があるのは、データセンターグループにおけるレノボブランドの認知度向上です。レノボの製品は、高い性能を持ち、信頼性も高く、顧客満足度も高い水準となっています。しかし、これは、レノボの製品を利用していただいているお客様における評価だともいえます。こうしたことを、中小企業の方々にも、もっと知っていただき、レノボは、PCメーカーではなく、サーバやストレージでも高い実績を持つメーカーであるという認知度を高めたいですね。
また、ネットアップと提携する前は、ストレージ市場全体の15%程度しか、私たちのターゲットになりませんでしたが、いまでは92%の市場がターゲットとなっています。ストレージのビジネスにおいても、広範囲に渡って、戦うことできる体制が整ったといえます。これを生かして、もっとビジネスを加速したいと思っています。
さらに、Lenovo TruScale Infrastructure Servicesという、新たなサービスを発表しました。これは、まさに電気メーターのような形で、ユーザーが使用した分だけを支払うというモデルであり、初期投資額を最小化し、ニーズの変化に基づいた対応やリスクの低減、セキュリティコントロール、メンテナンスや管理までを提供します。競合他社でも同様の提案をしていますが、それらはリースモデルに近いものだといえます。Lenovo TruScale Infrastructure Servicesは、Think SystemおよびThink Agileなどを利用しながら、動的な形でリソースの変更に対応でき、費用と柔軟性において、他社を凌駕します。CAPEXからOPEXへの移行を促進することができるもので、大手企業だけに留まらず、中小企業においても導入が可能なサービスです。独自の調査によると、3分の1の企業がOPEXモデルに代えたいとしており、3分の1の企業が、OPEXとCAPEXの共存モデルにしたいと考えています。IT予算が圧力を受けるなかで、多くの顧客がこの新たなモデルに高い関心を寄せています。ソフトウェアがOPEXモデルへと移行しているなかで、ハードウェアについてもOPEXモデルへと移行する動きが、一気に表面化してくると考えています。
すでに、このサービスは、南米の政府機関や、欧州の大規模システムインテグレータが導入しています。日本では、まだ提供を開始していませんが、今後、数カ月以内に提供を開始できます。
スコーゲン氏は、2016年に、24年間在籍したインテルから移籍し、レノボに入社したわけですが、当時のレノボのデータセンターグループのビジネスは厳しい状況にありました。3年前は、なにが問題だったのでしょうか?
スコーゲン氏: 振り返ってみますと、当時は、いくつかの間違いを犯していたという反省があります。最大の反省は、PCのビジネスとサーバのビジネスを、ひとつのグループに統合。サプライチェーンや品質保証に関しても、ひとつに統合してしまったという点です。当時は、その方が、高効率にビジネスを運用できると判断しました。実際、PCの工場で、サーバを生産すれば、それによって、コストメリットが生まれるのは確かです。しかし、データセンターグループとして独立したサプライチェーンや品質保証の体制へと移行した結果、より高い信頼性を実現でき、高い顧客満足度を得られたわけです。これはかなり「苦い薬」となりましたが、そこから学び、大きな成長へとつなげることができました。
同時に、ストレージやソフトウェアデファインド、サービス、ネットワークなどの分野において、専門知識を持った人材を採用し、顧客サポートを強化することに力を注ぎました。たとえば、Nutanixとのパートナーシップの強化にあわせて、Nutanixの専門知識を持った社員を採用しました。これは、日本の自動車メーカーのニーズにも対応することにもつながり、日本における顧客満足度を高めることにもつながりました。
ちなみに、今回の来日は、各国を訪問し、新年度の方針を伝えるツアーのなかで、訪れたものです。このツアーは、すでに3回目となり、もはや私も古株になりつつあります(笑)。