値動きの激しさや多額の流出事故などで世間を賑わしている仮想通貨取引に、新たな法規制がやってきます。そんな法規制の主な内容を解説していきましょう。
仮想通貨取引で、取引を行う利用者保護を目的とした法律の改正案が2019年3月15日に閣議決定されました。資金決済法と金融商品取引法(以下、「金商法」)の2つの法律が対象です。この改正により仮想通貨が、株式や投資信託などの金融商品と同じ水準の規制に当てはまることになります。2020年6月までの施行を目指して国会での審議が進められています。
投資家保護」の為の「業者の規制強化」がポイント
まずは改正のポイントを以下に整理しました。このポイントを順番に解説していきます。
■4つの法改正のポイント
(1) 「仮想通貨」の法令上の呼称が「暗号資産」に変更
(2) ICOと暗号資産デリバティブ取引(FX取引)を「金融商品取引法」配下の規制に
(3) 暗号資産が流出したときのリスクに対する保全策の義務化
(4) ウォレット機能を提供する業者を「暗号資産交換業」として規制
(1)「仮想通貨」の法令上の呼称が「暗号資産」に変更
資金決済法と金融商品取引法で使われる「仮想通貨」の呼び方が「暗号資産」に変わりますが、言葉の変更であり、仮想通貨の定義が変わることではありません。G20国際会議などでは「クリプト・アセット」という表現が一般的であり日本語訳である「暗号資産」を使うことになったためです。
(2)ICOと暗号資産デリバティブ取引(FX取引)を「金融商品取引法」配下の規制に
ICOとは「Initial Coin Offering」の略称で、企業がトークンという電子的な権利を発行し、権利の見返りに投資家から資金を募ることをいいます。
権利を発行して資金を募る行為は、「株式」の発行とほとんど変わりません。また株式の場合には金商法で、投資家への情報開示や取引の勧誘を行う規制が整備されていますが、ICOの場合はルールが不明瞭でした。詐欺が横行して投資家が被害にあうことも多いため、規制の対象となりました。
同じく暗号資産を対称としたデリバティブ取引(FX取引)も金商法の対象に加えられます。加わると「金融商品取引業」として証券会社と同じ規制対象になりますので、FX取引業を行う業者には以下のような条件を満たせないといけません。
- 株式会社であり資本金が5000万円以上
- 純資産が5000万円以上ある
- 自己資本規制比率が120パーセント以上ある
これらの条件を満たしている業者は、財務健全性が一定の水準で担保でき、投資家に対して安定したサービス提供ができると言えるからです。
(3) 暗号資産が流出したときのリスクに対する保全策の義務化
暗号資産交換業者が、オンラインで管理している「ホットウォレット」から暗号資産が流出してしまう事件は毎年のように起こっています。そのため以下の規制が加えられることになりました。
- より安全に管理できる「コールドウォレット」での管理を義務付け
- ホットウォレットで管理する場合には、同じ種類・同じ量の暗号資産をコールドウォレットで管理することを義務付け
流出しないように資産を保全しつつ、業務上必要ある場合には、もし流出したとしても投資家に返還できるように準備をしておくことが義務付けられています。
(4) ウォレット機能を提供する業者を「暗号資産交換業」として規制
暗号資産のウォレット機能だけを提供する場合は、売買や交換の機能が無いため規制の対象外とされてきましたが、暗号資産を入れたウォレットを他人に自由に譲渡できてしまうと、マネー・ローンダリング用の道具として使えてしまいます。またウォレット業者が倒産してしまうと、預けている投資家の暗号資産が取り戻せなくなってしまうリスクもあります。そんな事態を避けるために、ウォレット機能を提供する業者が「暗号資産交換業」として規制されることになりました。
交換業者として利用者の本人確認を行って、反社会的勢力を排除したり、資産の分別管理義務を果たしたりさせられます。ちなみに、分別管理とは、自社の資産と顧客の資産を分けて管理することをいいます。
ウォレット機能だけを提供する業者のように、他人のために資産を保管ことを「カストディ」と言いますので併せて知っておきましょう。
本稿では詳しく扱えなかった広告規制やデータ管理の規制、デリバティブ取引に使う証拠金清算の規定などが、本稿で参考にした金融庁の資料で解説されていますので、興味があればぜひ目を通してみてください。
全体として規制を厳しくする法改正となりますが、政府や金融庁が投資の対象として「暗号資産」をきちんと認識し、健全な市場形成を期待しているとも言えます。法令規制に耐えられない業者は撤退を余儀なくされるなどの影響も出てきますので取引を行うときは、業者からの案内に注意しましょう。