第9世代Intel Coreプロセッサのラインナップが追加(Gen 9 CoffeeLake Update)された際、編集氏から「Intel CPUが足りないという話をいろんなメーカーから聞くのですが、Intelの14nmはどうなっているんですかね?」と聞かれた。こちらもあんまり情報はないのだが、ちょっとこの辺りを色々な情報を基に考察してみたい。

そもそもなぜ14nmプロセスが逼迫しているのか

14nmプロセス(それも最先端の14nm++)が逼迫している背景は、Intel Core i9-9900Kのレビューで書いたが、CPUコアの数の増加にともなってダイサイズも大型化した。

  • Kaby Lakeベースの4コア、Coffee Lakeベースの6コア、Coffee Lake Refreshベースの8コア

    Photo01:上からKaby Lakeベースの4コア、Coffee Lakeベースの6コア、Coffee Lake Refreshベースの8コア

Photo01は14nm+/14nm++を使う3世代のダイを比較したものだが、確実にコアの数だけダイサイズが大きくなっている。数字は厳密ではないが、それぞれのダイサイズは

  • Kaby Lake:126平方ミリメートル
  • Coffee Lake : 152平方ミリメートル
  • Coffee Lake Refresh : 178平方ミリメートル

と見られる。つまりCoffee Lake Refreshは、Kaby Lakeと比較して4割ほどダイサイズが大きくなっている。こうなると、当然ながら1枚のウェハから取れるチップの数が減る。

Photo02~04はそれぞれのウェハ写真だが、1枚のウェハから取れるダイの個数は509個→344個で4割強ほど減っている。ダイサイズの比よりも減っているのは、ダイが大きくなると外周部の無駄が増えるから。そのため半分とまではいわないものの生産量がかなり減ってしまう。

  • Photo02:Kaby Lake。有効ダイ数509個

  • Photo03:Coffee Lake。有効ダイ数は411個

  • Photo04:Coffee Lake Refresh。有効ダイ数は344個

取れるチップの数は減ったが、CPUの需要が減るわけでもないので、これに対応するには当然ウェハの生産量を増やすしかない。

ところがFabの生産量というのはそんなに簡単に増やせるものではない。というよりも、Fabは通常8割とか9割といった高い稼働状況に置いておかないと効率が悪すぎるので、需要が急増したからといっても引き上げられる生産量はそれほど大きくない。

加えて、Intelの場合はAMDのRyzen Threadripperへの対抗で、Coreシリーズよりもダイサイズの大きいXeon向けのSkylake-SPをCore-Xシリーズとして導入することを決めてしまったため、さらに14nm++のラインは逼迫することになった。

14nmプロセスへ追加投資。効果は徐々に出始めている

さすがにこの状況はまずいと判断したのだろう。2018年9月、IntelはSupply Updateと呼ばれる書簡を出し、オレゴンとアリゾナ、アイルランド、イスラエルにある14nmのFabに合計で10億ドルの追加設備投資を行い、製造能力を引き上げると発表した。

実際はこの発表の以前に、製造装置メーカーやサプライメーカーなどと協議をして、能力増強のプランを決めた上での発表なのは間違いない(ので、実際にはこの発表前から色々動いている)と思うが、それからほぼ半年が経過して、やっとわずかながらその効果が見られるようになってきたかな? というのが今回の第9世代Coreプロセッサの追加発表だと思われる。

ただ先の記事にも書いたが、この第9世代では型番の末尾に「F」が付いたモデル、つまりGPUなしのモデルが大量に湧いて出ることになった。第9世代のCore i9~Core i3は省電力(Tモデル)を除くと20製品ある(Photo05,06)わけだが、このうち8製品はGPUなしモデルということになっている。

  • Photo05:Core i9~Core i5。今回新規追加されたモデルも、例えばGPUありのCore i7-9700とGPUなしのCore i7-9700Fの両方がある

  • Photo06:Core i5~Core i3。ややGaming向けともいえるCore i3-9350KにGPU無しが加わるのはわからなくもないが、ローエンドのCore i3-9100にまでGPU無しのCore i3-9100Fが加わるのは明らかに異常

Intelはこれまで一貫して、GPU統合製品をリリースしてきた。例外は初期のNealem/Lynnfield世代(45nm)のようにそもそもGPUを統合できなかったものと、Xeonと共通のダイを使うCore i Extreme/Core-Xシリーズ程度で、そもそも物理的にGPUコアを統合していない製品のみだった。

この例外が崩れたのは、Cannon Lakeシリーズである。最初の(そして唯一の)製品であるCore i3-8121Uは、GPUを実装していながらも、これを無効化してGPUなしの製品として出荷された。

無効化された理由は、表明されていないが、性能が相当低かった(主な理由は配線問題に絡んで動作周波数を上げられなかった)ためと見られている。