2019年4月27日、28日の2日間、東京・中野サンプラザで、「春のヘッドフォン祭 2019」(主催:フジヤエービック)が開催されました。本稿では、筆者が春のヘッドフォン祭り2019を取材して気になった完全ワイヤレスイヤホン2製品を紹介します。

コスパ抜群「OUTLIER AIR」

完全ワイヤレスイヤホンを見定める基準のひとつが「音の途切れにくさ」です。ほとんどの完全ワイヤレスイヤホンが、右(または左)のイヤホンでスマートフォンからの信号を受け、反対側のイヤホンへ信号を送信し、ステレオ再生を実現しますが、その性能を左右する部品がワイヤレス通信を担うSoCです。

完全ワイヤレスイヤホンに対応したSoCは、いろいろな半導体ベンダーが手がけていますが、なかでもQualcommの「QCC3026」は途切れにくさと音質で定評があり、現在売れ筋の完全ワイヤレスイヤホンでも、多数の採用実績があります。

CREATIVEが2019年3月に発売した「OUTLIER AIR」は、Qualcommの「QCC3020」を採用した完全ワイヤレスイヤホン。QCC3026搭載の完全ワイヤレスイヤホンと同等の性能を確保しつつ、製造コストを抑えることで低廉な価格を実現したといいます。直販価格は7,980円(税別)という安さです。

  • 完全ワイヤレスイヤホン

    CREATIVE初の完全ワイヤレスイヤホン「OUTLIER AIR」

肝心の音質ですが、しっかりしています。ダイヤモンド以上の硬度を持つグラフェンドライバー(直径5.6mm)の採用が奏功してか、低域はスピード感があり引き締まった印象。音の輪郭が滲むこともなく、定位も明瞭です。試聴はiPhone X(コーデックはAAC)で行いましたが、OUTLIER AIRは高音質コーデック・aptXにも対応していますから、(aptX対応の)Android端末であれば、ワンランク上の音を楽しめることでしょう。

気になる連続再生時間は、イヤホン単体で最大約10時間。付属の充電ケースを併用すれば、最大約30時間も使えます。IPX5相当の防滴性能を備えることもあり、はじめての完全ワイヤレスイヤホンとしてちょうどよさそうです。

  • 完全ワイヤレスイヤホン

    音の途切れにくさで定評あるQCC3020を採用。7,980円(税別)という価格も魅力です

ついに出た! コアユーザー向け完全ワイヤレス「TM2」

黎明期を抜け普及期を迎えた完全ワイヤレスイヤホンですが、コアなオーディオファンほどその様子を複雑な目で見ているようです。音質最優先の身としてBluetoothは受け入れがたい、しかし完全ワイヤレスイヤホンの利便性は気になる……。Fostexの完全ワイヤレスイヤホン「TM2」は、そんなユーザーに"刺さる"イヤホンです。価格は27,000円前後(税別)となる予定。

  • 完全ワイヤレスイヤホン

    メガネケースほどの大きさがあるケース。ケースにバッテリーは備えていません。イヤホン部の交換を考慮し、中央には大きめの空間が確保されています

TM2は、Bluetoothレシーバーやバッテリーが搭載された部分と、イヤホン本体を接続する「フレキシブル・ショート・ケーブル」と呼ばれる部分、イヤホン本体部分の3つで構成されます。フレキシブル・ショート・ケーブルの接続端子にはMMCXが採用され、付属の6mmダイナミックドライバー搭載イヤホンのほか、SHUREやUltimate Earsなど、MMCX端子を採用するイヤホンに付け替えることができます。

  • 完全ワイヤレスイヤホン

    Bluetoothレシーバー部は、耳かけフック型となっています

TM2のユニークさは、上述したフレキシブル・ショート・ケーブルにあります。標準で付属するのはイヤホン接続端子がMMCXタイプですが、カスタムIEM 2pin端子、またはFitEar 2pin端子を備えるタイプのフレキシブル・ショート・ケーブルが別売オプションとして提供されるのです。つまりTM2では、SHUREやUltimate Earsのイヤホンにくわえ、JH AudioやUnique Melody、FitEarといったカスタムIEMまで、完全ワイヤレスイヤホン化が可能になります。

  • 完全ワイヤレスイヤホン

    付属のフレキシブル・ショート・ケーブルはMMCX型(写真中央)ですが、カスタムIEM 2pin型(写真左上)と、FitEar 2pin型(写真右上)もオプションで提供されます

利便性も考慮されていました。Bluetoothレシーバー部にはタッチセンサーを内蔵。曲の再生・停止操作や音量調整などが可能なほか、近日公開予定という専用スマートフォンアプリ(iOS/Android)を使えば、外音取り込み機能も利用できます。防滴対応(IPX5)ですから、突然の雨も安心です。

もうひとつ、SoCにQualcommの「QCC3026」を採用したこともポイント。完全ワイヤレスイヤホンのほとんどは、左右どちらかがデバイスと通信し(親機)、受信した音楽データの片チャンネルをもう一方のイヤホン(子機)に送信するという流れで動作しますが、QCC3026では左右イヤホンそれぞれが個別にデバイスと通信を行えます(True Wireless Stereo Plus)。バッテリー残量に応じて、左右イヤホンの親機/子機を切り替える「ロールスワッピング」により、左右イヤホンの片方だけがバッテリーを消費してしまう事態を防げるため、結果としてバッテリーもちがよくなることもメリットです。

TM2を耳に装着してみると、意外なほど快適。多くの完全ワイヤレスイヤホンは、振動板などのユニット部と信号の受信部、バッテリーが一体化した構造を採用するため大柄になりがちで、耳から大きく飛び出した「フランケンシュタイン状態」になりがちですが、TM2は耳かけタイプなので「メガネのツル」感覚です。

付属のFostex自社設計イヤホン(6mmダイナミックドライバー)で試聴しましたが、全体的にすっきりとしたトーンで聞きやすく、俊敏なレスポンスもあり小気味よさが印象的でした。しかし、TM2が気になるユーザーは、イヤホンの交換利用が念頭にあるはずで、その意味ではまだまだ可能性を秘めたイヤホン(Bluetooth対応リケーブル?)といえるでしょう。