今、日本社会が大きなパラダイムシフトを迎えようとしている。昭和・平成のキャリア形成はもう参考にならない。令和時代はどのように人生をデザインしていけばいいのだろうか?

新たな「頭の良さ」を解明した『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』(プレジテント社)の著者、山口揚平氏に「働き始めて3年後」のあり方を聞いた。

  • 2020年以降は人生をどうデザインするべきか?

「信用」を貯蓄しプロジェクトリーダーに

東京でオリンピックが開催された後、日本の社会システムが激変していく。それは、昭和を引きずっていた「平成というやり方」が通じなくなるということ。そして、次の時代を迎える新社会人は、お金の前に「信用」を貯蓄することが重要だと山口氏は言う。

「自分のクレジット(信用)がたまっていなかったら、いくら新しいことを提案しても『チャラくさい口だけの人間』止まりです。まずはスキルを磨くこと。20代でなまけていてはもったいない。休日も勉強会やボランティアに参加し、デキる人たちと交流をもってください」

特に最初の3年間は信用貯蓄に専念する。ポイントは「ベクトルを他者に向ける(自分のことを考える時間が長すぎないように)」、「自分からやる(相手に従うのではなく、自分からカードを切る)」、「今までと違うことを提案する(昭和のパラダイムで仕事をしない)」の3つだそう。

では、社会人4年目からは、新しい時代の中でどのようにキャリアを形成するべきなのだろうか?

  • ブルー・マーリン・パートナーズ 代表取締役 山口揚平氏

「4~6年目までには、1つのプロジェクトを始めから終わりまで完遂するリーダーとして振る舞えなくてはいけません。役職の有無ではなく、それよりも周りに認められていることが大事。

責任感や、収益バランスの判断能力を備えているのはもちろん必要ですが、チームを運営するにはメンバーの『アジェンダ』(後ほど説明)を察知することがなによりも大事です」。

他者の期待を見抜く力をつける

ここでいうアジェンダ(agenda)とは、「これから何をするのか」を明確にしたものを指す。今夜は仕事か飲み会か恋人か家族か趣味か。何を優先して行動するかは、人によって大きく異なると山口氏は説明する。

「私は30歳で起業しましたが、そのときに痛感したのは『人は複雑』ということです。会社と比べて個人のアジェンダはてんでばらばらなんです。両親と仲が悪い、彼氏とうまくいかない、貯金がまったくないとか、部下の人生すべてが仕事のパフォーマンスに絡んできて、そこまで面倒見切れないよ! と思ったこともあります(笑)。

昔は家庭の大黒柱としての責任から、(社員は)働いてくれたのですが、今はそうはいきません。社員の『〇〇をしたいです!』という言葉に踊らされず、モテたいとか、役得を期待しているとか、言葉にしない部分まで知覚することが『ピープルマネジメント』の鍵となります」。

仕事のプロセスを管理するワークマネジメントではなく、人としての意欲を高め、パフォーマンスを発揮してもらうことがピープルマネジメントだ。

過去と同じやり方で売り上げ目標を達成できるならば、正しいやり方を管理指導していればよかった。しかし、変化の時代には、状況に応じて市場から素早く「当たり」を探すことが重要だ。チームメンバーに主体性や意欲がなければ、スピードなど出せはしない。

状況が複雑化しているからこそ、相手の価値観を理解し、真のモチベーションを引き出すピープルマネジメントが必要になってくるというわけだ。

新しい時代には新しい価値観を

ピープルマネジメントによってチームの勝ちを目指すこと。全員の幸福を最大化すること。そのためには、リーダーに価値観の転換が欠かせないと山口氏は強調する。

「これからのリーダーは『幸福に限界はなく、よって富に限界もない』という価値観を選ぶことです。繊維や鉄鋼やオイルといった限定資源が富の源泉だった時代は、得られる価値に限界がありました。取り分によって勝ち負けが決まり、幸福になれる人は限られると思われていたのです。しかし、これからはもう『モノ』は通用しません。物質ではない、『コト』が、富の源泉・幸福の原料です。物質でないなら、取っても減りませんよね」。

物理的な商品は既にあふれ、モノだけで満たせる不足はわずかだ。すでにさまざまな分野で、体験や交流が価値を付加する、と言及されている。

「唯物論に立つか唯心論に立つかという話ですから、どちらの価値観が正解というわけではありません。ただ、『人生はクソッタレ』ではなく、"We are happy!"という前提に立てる人が、これからのリーダーになるということです」。

取材協力:山口揚平(やまぐち・ようへい)

1999年より大手コンサルティング会社でM&Aに従事。カネボウやダイエーなどの企業再生に携わった後、独立・起業。現在はコンサルティング会社をはじめ、複数の事業を運営する傍ら執筆・講演活動を行っている。最新刊に、『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』(プレジテント社)がある。