平成最後であり、令和最初となる春ドラマがほぼ出そろった。1話の視聴率では、『緊急取調室』(テレビ朝日系)と『特捜9』(テレ朝系)が15.2%、『集団左遷!!』(TBS系)が13.8%、『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』(フジテレビ系)が12.7%、『インハンド』(TBS系)が11.3%、『俺のスカート、どこ行った?』(日本テレビ系)が10.9%、『白衣の戦士!』(日テレ系)が10.3%と過半数が2桁を超えた(すべてビデオリサーチ調べ・関東地区)。

しかし、録画視聴やネット視聴の多い現状、視聴率はデータの1つにすぎず、面白さとは別問題。春ドラマで本当に質が高くて、今後期待できるのはどの作品なのか? 今期もドラマ解説者の木村隆志が俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、2019年春ドラマ18作の傾向とおすすめ作品を挙げていく。

2019年春ドラマの主な傾向は、「【1】新時代に向けて描かれる自分らしさ」「【2】ドラマ史上最大のLGBTブーム」の2つ。

  • 吉高由里子

    『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)

傾向[1]新時代に向けて描かれる自分らしさ

今春はさまざまなシチュエーションの生きづらさを描いた上で、そこに生きる人々を応援するような作品が多い。

仕事では、プライベートを重視するヒロインに「働き方改革」を意識させられる『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)、立場を捨てて倒産危機の町工場を救う企業再生家を描いた『スパイラル~町工場の奇跡~』(テレビ東京系)、廃店が決まった支店の支店長が本部に戦いを挑む『集団左遷!!』。

恋愛では、事故で車椅子生活となった主人公の恋を描く『パーフェクトワールド』(フジ系)、ハイスペックにも関わらず独身を貫くアラフォー男性3人の婚活にフィーチャーした『東京独身男子』(テレ朝系)、ゲイとBL好きという“普通”ではない高校生の恋を追う『腐女子、うっかりゲイに告る。』(NHK)、不倫や同性愛などさまざまな女性の愛し方を見せる『ミストレス~女たちの秘密~』(NHK)。

その他のシチュエーションでは、ゲイで女装家の教師が生徒たちと向き合う『俺のスカート、どこ行った?』、同じマンションに住む人々に“交換殺人”の恐怖が迫る『あなたの番です』(日テレ系)、ネットでバズる家族の悲喜こもごもを描いた『向かいのバズる家族』(読売テレビ、日テレ系)。

いずれも描かれているのは、困難を抱え、問題に直面した主人公が、「それでも自分らしく生きよう」と奮闘する姿。まるで令和という新時代の道しるべを示しているようであり、制作サイドが視聴者の共感を得るために模索していることの証だろう。

  • 長谷川京子

    『ミストレス~女たちの秘密~』(NHK)

傾向[2]ドラマ史上最大のLGBTブーム

1年前からジワジワと増えていたものの、「よくもここまで集まった」と思わざるを得ない。今春は放送前から話題を集めていた『きのう何食べた?』(テレ東系)だけでなく、『俺のスカート、どこ行った?』、『家政夫のミタゾノ』(テレ朝系)、『腐女子、うっかりゲイに告る。』、『ミストレス』の5作がLGBTをモチーフにしている。

つまり、春ドラマの約4本に1本がLGBTであり、さらに『ミストレス』を除く4作は主人公がLGBTの当事者。「ドラマ業界にLGBTブームが起きている」と言っていいだろう。

ブームの理由は、世の中に「多様性を尊重しよう」というムードが浸透しているからであり、その象徴的な存在がLGBT。事実、堂々と生きる姿を見せているキャラクターが多く、周囲の人々に影響を与えている。

また、バラエティでマツコ・デラックスが世間の問題をズバッと斬る痛快さでウケているように、「ドラマでもLGBTの主人公に現代人の問題を解決してもらおう」という狙いが透けて見える。

かつてLGBTは繊細な描写を要求されるほか、作品の中で浮いてしまうなど、「コメディですら使いづらい」と言われていた。主人公であれば、なおのことハードルが高かったのだが、現在はどんなジャンルの作品でも違和感なく溶け込んでいる。

ただ、各作品のスタッフは、「まさかここまでかぶるとは思っていなかった」のではないか。前期は弁護士が主人公のドラマが3作かぶるなど、局を超えて思考回路が似てしまうことは業界全体の課題だろう。


これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『腐女子、うっかりゲイに告る。』。マイノリティにフィーチャーすると思わせて、実はマジョリティにも通じる恋心や絆を描く繊細な作風は、今や地上波のドラマではめったに見られないもので希少価値は高い。

現代性の高いテーマにクラシックなホームドラマをかけ合わせた『向かいのバズる家族』も、なかなかの力作。ネットPRの仕掛けも含め、読売テレビらしい攻めの姿勢が見られる。

その他のおすすめは、丁寧な人物描写と力の抜けた熱演が光る『きのう何食べた?』、古田新太主演で誰も見たことのない学園ドラマに挑んだ『俺のスカート、どこ行った?』、タイムリーなテーマをポップな演出でエンタメに昇華させた『わたし、定時で帰ります。』の3作。

「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局のオンデマンドなどで、チェックしてみてはいかがだろうか。

  • 古田新太

    古田新太

  • 内野聖陽

    内野聖陽

  • 西島秀俊

    西島秀俊

  • 吉高由里子

    吉高由里子

【おすすめ5作】
No.1 腐女子、うっかりゲイに告る。(NHK 土曜23時30分)
No.2 向かいのバズる家族(日テレ系 木曜23時59分)
No.3 きのう何食べた?(テレ東系 金曜24時12分)
No.4 俺のスカート、どこ行った?(日テレ系 土曜22時)
No.5 わたし、定時で帰ります。(TBS系 火曜22時)

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。