筆者は日常的な執筆にATOKを使っている。数年前に開かれたジャストシステムの発表会では、定期的に機能を更新するとの説明を受け、ATOK Passportを購入した。だが、このところの取材時はMS-IMEを意識的に使っている。
普段から携行するSurface Go LTE AdvancedはWindows 10 Insider Previewに切り替え、ATOK+秀丸という構成で使用しているが、この数カ月、文字を取りこぼす場面が増えてきた。
OS側の仕様変更なのか、ATOKのバージョンアップが影響しているのか、いまだ問題の切り分けは済んでいない。だが、登壇者の発言を逐一テキストに落とし込む作業に支障が生じるのは死活問題だ。
あれこれと設定を見直してみても有効な結果に至っていない。メインのデスクトップPCやサブのSurface Proで使用中のATOKは安定動作している。各PCの環境は大きく違いはない。Intel Core i7とCore i5というハードウェアスペックの差はあるが、過去にはCore i3でも不満なく使えたことを鑑みると、ATOKのバージョンアップないし筆者の設定で何らかの問題が生じているものと思われる。
ここで冒頭の話に戻る。とある取材時に誤操作でIMEがATOKからMS-IMEに切り替わってしまった。普段ならいらだちを覚えながら「Win+スペースキー」を押して元に戻すところだが、前述した課題を抱えていたことから、そのままMS-IMEを使って見ることにした。これが驚くほど速いのである。正しくは登壇者の発言そのままにキーを叩けるほどの応答性を備えていた。
Surface Go LTE AdvancedのWindows 10 Insider Previewは、19H1ではなく20H1のため、現在開発中のMS-IMEが使用できる。Win32ベースのダイアログからUWPベースに切り替わった新MS-IMEだが、マイクロソフト ディベロップメント(以下、MSD)の説明によれば、辞書は変換エンジンは現時点で従来のまま。
加えてユーザー辞書は真っさらのため、誤変換に悩まされたが、高い応答性は何物にも代えられない。このような理由でMS-IMEとATOKを併用するようなった。
もちろん新MS-IMEを手放しで褒めるつもりはない。たとえば新元号に関する問題を内包しており、とある説明会で日本マイクロソフトは、MS-IMEはレジストリを参照しないハードウェアコードが含んでいるため、改修が必要という説明を行っていた。つまり古いコードがまだまだ残り、非モダンアプリケーションなのである。
また、ATOKは半角全角変換を文字種単位で指定し、入力文字に対しても適用できるが、MS-IMEはあくまでも変換候補のみが適用可能だ。さらに20H1の新MS-IMEには同種の設定が見当たらない。このあたりは開発途上であることから致し方ないが、各所に細かな不満点がある。
筆者はこれまで、IMEに対して機能や辞書ばかりに注目してきた。誤入力の回避や推測変換などATOKが提供する機能はライターに限らず、日本語文章を作成する方々には有益であることは間違いない。
だが、ここまでのパフォーマンス差が生じると改めてMS-IMEを見直すのも選択肢の1つだろう。まだまだ改善に着手したばかりで、道半ばの新MS-IMEだが、Windows 10の進化に合わせて注目すべき価値がある存在だ。
阿久津良和(Cactus)