発表されたのは2017年9月、ようやくワイヤレス充電対応ケース付きのAirPodsが発売となった。当初、新しくなるのはAirPods本体の充電機能を備えたケースだけだと見られていたのが、フタを開けてみてビックリ、Apple H1ヘッドフォンチップが搭載され、さらなる機能向上が図られていたのであった。
第1世代のAirPodsはApple W1チップを搭載。光学センサーにモーション加速度センサー、音声加速度センサー、ビームフォーミングマイクロフォンが連携して、「今、聴いている」「今、話している」のを認識してくれるなど、ワイヤレスイヤホンのイメージを刷新する機能を詰め込んで登場した。
Wチップはのちに、Apple Watchにも採用され、ウェアラブル製品向けに開発が続けられると目されていたが、新しいAirPodsに装備されたH1チップはヘッドホン/イヤホンといったオーディオ機器向けに最適化が図られているようだ。
H1チップの搭載により、新しいAirPodsの通話時間は第1世代に較べて最大50%伸長。使用デバイスの切り替え時間は最大2倍高速化。ゲームでのサウンドのレイテンシー(遅延)は最大30%低減するという。この辺りの性能向上、数字で言われてもよく分からないのだが、実際に使ってみると、お、早くなった、長くなったのが体感できた。筆者はゲームをやらないのでレイテンシーについてはAppleの音楽制作アプリ「GarageBand」でチェックしてみた。
初代AirPodsに比べると、確かに遅延時間は短くなっている。が、正直、GarageBand上でソフトウエアシンセサイザーやドラムマシンを演奏するのは厳しいと感じた。楽器のインターフェースにタッチすると明らかに音が遅れてついてくる。
これはAirPodsに限った話ではないが、Bluetoothを利用した、いわゆるワイヤレスヘッドホン/イヤホンでは、避けられない問題だ。それでも新しいAirPodsはまだマシなほうだと評価できる。「ワイヤレス化」を進めるAppleも、この問題は認識しているようだ。だから、MacBook Proに関しては「プロのニーズに応えるため」に3.5mmのステレオジャックを残している(もっとも、レイテンシーが生ずると最初から分かっているAirPodsを、モニターにして使おうと考えるプロのミュージシャンはいないだろうが)。
H1チップの搭載で、もう一つ。新しいAirPodsでは「Hey Siri」で音声アシスタント「Siri」が起動できるようになった。AirPodsには、iPhone付属のイヤホン「EarPods」のようにケーブルに装着されたコントローラーがない。ボリューム上げたり、再生を止めたり、曲をスキップしたりする物理的なボタン類がない代わりにSiriを利用するというわけだ。オーディオの制御以外にも、Siriから電話をかけたり、地図検索をしたりといった、iPhoneでお馴染みの機能が使える。初代AirPodsでは、本体をポンポンとダブルタップするとSiriが起動するようになっていたが、これだと、例えば手袋をしていると、ちゃんと起動できなかった。その問題を解決して、ハンズフリーでSiriが使えるようになったのである。
さて、発表当初の更新ポイントだったワイヤレス充電にも触れておこう。新しいAirPodsはQi(チー)対応の充電器に置くだけでチャージが行える。前モデルではケースのバッテリー残量を示すLEDインジケーターが蓋の内側にあったのだが、それが、ケース本体の前面へと配置が変更された。これにより、バッテリー残量が一目で分かるようになった(但し、常時点灯してるわけではない)。
しかし、残念なことに、二代目AirPodsと同時に発表され、Qi規格を拡張し、より素早い充電が行えるとアピールしていたワイヤレス充電マット「AirPower」は、海外の報道によれば発売キャンセルになった模様である。新AirPodsは、汎用のQi対応充電器でチャージでき、Lightning端子も搭載しているから、ワイヤードでの充電も可能で、特に問題はないのだが、「未来はワイヤレス」というアイデアを推し進めるのに足踏みするような展開ではある。
機能面ではこんなところだろうか。3月末の発売直後、デザインが変わってない、音質もそのままだと評する向きもあったが、そんなの最初から分かってだろ、人の話聞いてた?と個人的にはツッコミを入れておきたい。繰り返しになるが、発表当初、新しくなるとアナウンスされていたのは充電機能を備えたケースだけだったのである。それが新チップの搭載もあわせてとなれば、むしろ驚きを以て迎えられるべきだ。
ちなみに販売は、AirPodsとワイヤレス充電対応の「Wireless Charging Case」をセットにしたものと、AirPodsと通常の(ワイヤレス充電非対応)「Charging Case」をセットにしたものの2ラインで展開されている。価格はWireless Charging Case付きのものが22,800円、Charging Case付きのものが17,800円だ。Wireless Charging Caseについては、単体での販売も行われている。こちらの価格は8,800円。Wireless Charging Caseでは、第一世代のAirPodsも充電可能だ。
ここからは今回のアップデートで実は最重要、な話をする。それは交換料金の改定である。
第一世代AirPodsのバッテリー交換サービスは片方で5,800円、充電ケースも5,800円。長期間の使用でバッテリーがヘタってきて、全部替えたいとなった時、合計で17,800円。第一世代AirPodsの販売価格は16,800円だったから、全とっかえは損、ということになってしまう。この料金は新しいAirPodsの登場があっても変わっていない。また、交換しても、第二世代のAirPods/充電ケースになって戻ってくるのではない。紛失および保証対象外修理の場合も同様で、第一世代AirPodsを失くした/壊した場合、第一世代AirPodsが戻ってくるのである。
これらから導かれるのは、第一世代AirPodsは「使い捨て」であるという結論だ。
筆者はAirPods発表当初から、完全ワイヤレス製品ゆえに、完全に利用できなくなる数少ない製品だという認識に立っていた。他のApple製品はバッテリーの充電ができなくなってもワイヤードで利用しようと思えばできるのに、AirPodsだけはできないのだ。
それでも、AppleはAirPodsの修理/(バッテリー)交換サービスを提供した。が、その料金で(特にバッテリー交換サービスを)利用する人は果たしてどれくらいいるだろうか。初代のAirPodsユーザーにおかれては、充電しても1時間持たないって方もいらっしゃると思うが、この料金では、交換という選択肢は、まずないだろう。17,800円なら、新しいAirPodsのCharging Case付き(通常ケース付き)と同じ代金になってしまう。
「使い捨て」でも良しとするとして、もう一点、指摘しておきたいことがある。
AirPodsは、現時点でAppleのリサイクルプログラム「Apple GiveBack」の対象外である。なぜなら、AirPodsは「アクセサリ」だから。これはApple GiveBackページの「よくある質問」に「アクセサリ以外のすべてのApple製品がリサイクルの対象」とあることからも明らかだ。
これは環境問題に積極的に取り組むAppleらしからぬ状況を生んでるのではないだろうか。今までの論調、主張に整合性を持たせるためにも、AirPodsのみならず、リチャージャブルバッテリーなどリサイクル可能な部品が使われている製品すべてをApple GiveBackの対象とすべきだと筆者は訴えたい。
それで、遠回りとなったが、「最重要」とした新しいAirPodsのバッテリー交換サービスの話に移ろう。その料金はと言うと……。
片方で5,400円、充電ケースは、Wireless Charging Case/Charging Caseともに5,400円。全部交換すると16,800円。第一世代AirPodsのバッテリー交換サービスと比べて、トータルで1,000円安くなっている。また、新品の販売価格は22,800円/17,800円なので、交換する方が得、ということにもなる。
料金が下がって、交換する方が得ってだけではない。同時に新しいAirPodsは「使い捨て」ではなくなったのだ。使い勝手や機能が向上したのにとどまらず、AirPodsは、地球にやさしいプロダクトとして生まれ変わったのである。新AirPodsは、長年に亘るAppleの取り組みを体現する製品となったと評価するのが妥当ではないだろうか。交換料金の改定は、このような意味を担っているのである(もっとも、Appleが「使い捨て」問題を認識していないとはとても思えないので、今月22日のアースデイまでには何らかの回答を用意してくるような気はしている。リサイクルロボット「Daisy」がAirPodsやiPhoneバッテリーケース、Beats製品を分解してくれるようになるのかもしれない)。