“RVブーム”の真っ只中に誕生し、“気軽に乗れる四輪駆動車”という新たな価値を提示したトヨタ自動車の「RAV4」。その後はボディサイズが大きくなり、米国市場では乗用車販売でナンバーワンを獲得するなど人気を博したが、日本では一時的に販売を休止していた。日本市場に再登場する新型「RAV4」は、トヨタにとって挑戦の1台となる。

トヨタの新型「RAV4」。グレードは「X」「G」「G “Z package”」「Adventure」「HYBRID X」「HYBRID G」の6種類で、価格は260万8,200円~381万7,800円だ

SUVブームの火付け役? トヨタ「RAV4」の来歴

トヨタ「RAV4」は1994年に誕生したSUV(スポーツ多目的車)だ。風変わりな車名は、「リクリエイショナル・アクティブ・ヴィークル・4ホイールドライブ」(Recreational Active Vehicle 4Wheel Drive)の頭文字をとっている。

当時、三菱自動車工業「パジェロ」やいすゞ自動車「ビッグホーン」など、悪路走破性を売りとした各車は「RV」(レクリエイショナル・ヴィークル)と呼ばれたが、それらに比べRAV4は、より身近で運転しやすく、気軽に乗れる四輪駆動車という価値を生み出した。今日のSUVの先駆けといえるクルマだったのだ。当初は2ドアハッチバックの3ドア車として登場したが、翌1995年にはホイールベースと車体を延長して4ドアハッチバックとした5ドア車を追加し、販売を伸ばした。

三菱自動車「パジェロ」(画像は1991年発売の2世代目)が牽引した“RVブーム”の中で、初代「RAV4」は誕生した

今日のクロスオーバーSUV的な乗用車感覚ではなかったが、それでも、パジェロやビッグホーンのような本格的で悪路走破性に富むRVと比べると、RAV4は市街地での利用にも適した四輪駆動車だったのである。

同じ頃、ホンダ「CR-V」(1995年)やスバル「フォレスター」(1997年)なども誕生する。少し遅れて、日産自動車「エクストレイル」(2000年)も登場した。CR-VはRAV4とほぼ同時期に着想されたと想像できるが、フォレスターとエクストレイルは、先達たちの影響を受けてメーカーが開発に着手したものとみられる。

しかし、米国市場での人気の高まりとともに、車体を大きくしていったRAV4とCR-Vは、2016年に日本国内での販売を一時中止としてしまった。日本市場では先駆者だっただけに、皮肉なものだ。一方、後発といえたフォレスターやエクストレイルは、その間も国内販売を続けたのである。

そんな経緯はあったものの、CR-Vは2018年に国内販売を再開。RAV4も、今度の5世代目で日本市場に再登場することになった。

5世代目となる新型「RAV4」。外板色はアーバンカーキとアッシュグレーメタリックのツートーンカラーで、この組み合わせは「Adventure」というグレードで選択できる

現在のSUVブームが始まったのは米国市場だった。日本ではフォレスターやエクストレイルなどが生き残っていたものの、今日のSUV人気に火をつけたのは、2012年発売のマツダ「CX-5」であっただろう。次いで、ホンダから「ヴェゼル」が登場する。また、欧州から続々と上陸した輸入車も、国内のSUV人気を盛り上げたといえる。運転の楽しさを何より大事にするBMWや、スポーツカーメーカーのポルシェでさえSUVを開発するようになった。

開発責任者に聞く新型「RAV4」の立ち位置

欧米では販売されていた4代目の空白期間を経て、トヨタは今回、5代目RAV4を再び日本で販売することを決めた。開発責任者を務めた同社の佐伯禎一チーフエンジニア(CE)は、新型RAV4について次のように語る。

「新しい『RAV4』の車名の意味は、『ロバスト・アキュレイト・ヴィークル・4ホイールドライブ』(Robust Accurate Vehicle 4Wheel Drive)としました。よりたくましく、頼もしく、かつ洗練された精緻さを備える四輪駆動車という意味です。走行性能はもちろん、内外のデザインにも、そうした方向性を持たせています」

たくましくも洗練されたデザインを目指したという新型「RAV4」。外板色はシルバーメタリック

実は、佐伯CEはトヨタのSUV「ハリアー」の開発も担当している。クロスオーバー車として、より乗用車感覚の強いハリアーに対し、RAV4には、しっかりとした悪路走破性を実現する技術の裏付けを求めたのである。その考えには、社内で異論もあったと話す。

「4代目RAV4は米国で人気が高く、2017年には乗用車部門で『カムリ』(トヨタのセダン)を抜いて1位となりました。その流れを継承するモデルチェンジを求める声が、特に営業側から強くありました」

それでも佐伯CEは、「キーンルック」とよばれるフロントの造形を持った4代目のクロスオーバー的な姿ではなく、よりSUV的なたくましさを備える造形にRAV4を作り変える決断を下した。

「4代目RAV4は、おかげさまで米国では乗用車ナンバーワンの売れ行きとなりましたが、そのままの価値観では、いずれ下降線をたどることになるでしょう。好調な売れ行きという余裕がある中で次の挑戦をしなければ、将来的な伸び代が得られないと考え、あえてクロスオーバー的で乗用車的なSUVを超えていくことを決めました。当時の副社長も、私の考えに同意してくれました」

SUVとしてのタフさを押し出した新型「RAV4」

新型RAV4で取り組んだ挑戦の1つに、新開発の四輪駆動システムがある。従来からの「トルクコントロールAWD」のほか、新開発の「ダイナミックトルクベクタリングAWD」と、後輪用のモータートルクをより高めた新開発の「E-Four」(イー・フォー)をそろえたのである。「新技術のすごさを見せるというよりも、そういう新しい技術を盛り込むことで、お客様に再び振り向いてもらいたいという思いもあります」と佐伯CEは語る。

わずか3年前、販売台数が尻すぼみとなる状況で、国内での販売を一度は終えたRAV4に、消費者が再び関心を寄せることはあるのか。そうした不安や心配は、佐伯CE自身にもある。しかし、挑戦せずには次への一歩を踏み出せないのもまた現実であろう。

SUVブームの日本で新型「RAV4」は存在感を発揮できるのか

新型RAV4のプラットフォームは、「カムリ」から採用が始まった「TNGA」(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)であり、「プリウス」を発端とするTNGAとは別系統だ。

TNGAとは、基本となる技術をまずは徹底的に磨き上げ、それを基に車種ごとの商品性を築き上げる開発手法のこと。その取り組みはプリウス以降、「CH-R」や「カローラスポーツ」などで車種ごとの飛躍的な進歩を実証している。カムリを発端とするTNGAの成果として、新型RAV4がいかなる商品力の高さを見せるのか。国内市場への復帰にとどまらず、TNGAの成果が試されるのが新型RAV4というクルマなのだ。

(御堀直嗣)