「○○様をお連れしました」と言ってお客様を社長室に案内したら、秘書課の先輩に「『お連れしました』は失礼よ」って注意されてしまった。何がダメなんだろう? 本稿では、来客者を上司に案内する場合の正しい表現についてお話しします。
■「お連れしました」がNGな理由・その1
みなさんもご存知のとおり、日本語には、相手に敬意を払う場合に用いる敬語というものがあります。では、「お客様をお連れしました」という文章は、誰に対して敬意を払っているのでしょうか。
「お客様」という言葉は、相手を指す「客」という言葉に「お」「様」を付けた丁寧な表現であり、来客者に対して敬意を払っていることが分かります。
一方「お連れしました」という言葉も、「お」を付けた丁寧な表現であることから、一見敬語として正しいように思うかもしれませんが、この場合敬意を払っている相手は自分の上司になってしまいます。社長のお客様であれば、社長に対して敬意を払っていることになるのです。
社員である自分の立場からすれば、社長に対して敬意を払う必要もあるのでは!? と思うかもしれませんが、来客者は社長にとっても大事なお客様。ゆえに、自社の社長よりも、まずは社外の来客者に敬意を払わなければなりません。敬語を正しく使うには、この状況で敬意を払うべき相手は誰であるのかを、正しく見極めることが重要ですね。
■「お連れしました」がNGな理由・その2
前述のとおり、「お連れしました」がNGな理由は敬意を払う相手が違うことにあるのですが、もう一つ、「連れ」という言葉にも問題があります。
「連れ」を辞書で調べてみると、「一緒に伴って行くこと。一緒に行動すること。また、その人。同伴者」「仲間、友人、また、伴侶、配偶者の意でも用いる」と記載されています。また、「連れる」の場合では、「一緒について来させる」「同行者として従える」とあり、非常に上から目線の行動であることが分かります。
つまり、「連れ」という言葉は、自分と対等あるいは目下の人に対して使う言葉なのです。それゆえ、お客様や上司に対して使うのは非常に失礼にあたりますので、注意しましょう。
■来客者を案内する場合の正しい表現
では、来客者を上司に案内する場合、どのように表現するのが正しいのでしょうか。
「連れる」に代えて用いるのであれば、「ご案内」が良いでしょう。「案内」という言葉には、「希望する場所へ導いて行くこと」「取り次ぐこと」という意味があります。また、「来る」の尊敬語である「お見えになる」「おいでになる」「お越しになる」という表現を用いるのもおすすめです。
例文
・お客様をご案内しました。
・○○様がお見えになりました。
・お客様がおいでになりました。
・○○様がお越しになりました。
ちなみに、「お見えになられました」「おいでになられました」「お越しになられました」という表現は誤りです。
「お見えになる」「おいでになる」「お越しになる」だけで尊敬語であることから、「なる」を「なられる」にすると二重敬語となってしまいます。かえって失礼にあたりますので、くれぐれも注意しましょう。
せっかく相手に敬意を払おうと丁寧に言ったつもりが、敬意を払う相手を間違ってしまったり、相応しくない言葉をチョイスしたりしては意味がありません。間違った敬語で自身の評価を落としてしまうことのないよう、正しい敬語を身に付けていきましょう。