4月、角川ドワンゴ学園「N高等学校」の入学式が新宿バルト9で開催された。入学式は開校時と同じく、VRデバイスを着用して実施。欠席した新入生向けには「ニコニコ生放送」で入学式の模様が生中継された。

  • 2016年の開校時と同じく「VRゴーグル」を着用したVR入学式が実施。2017年にはMRヘッドセット「HoloLens」を使用した入学式に変化したものの、2018年にはVR入学式に戻り、第4回となる今回もVRデバイスで実施された。この異様な光景はもはや春の風物詩となりつつある

    2016年の開校時と同じく「VRゴーグル」を着用したVR入学式が実施。2017年にはMRヘッドセット「HoloLens」を使用した入学式に変化したものの、2018年にはVR入学式に戻り、第4回となる今回もVRデバイスで実施された。この異様な光景はもはや春の風物詩となりつつある

「ネットの高校」として、3年前に設立されたN高。3月には1593名の卒業生を輩出した同校であるが、2019年度の入学者数はそれを大きく上回る4004人にものぼった。2019年4月時点で、同校の在校生は9727人。その数は来年には1万人を超える想定で、入学式に先立って行われた記者会見でドワンゴの夏野剛社長は、「国内最大級の高校になる」と語った。

  • ドワンゴ 夏野剛社長

    ドワンゴ 夏野剛社長

3年前、「VR入学式」で強烈なインパクトを残した同校。“奇抜”なこの高校に、なぜこれだけの生徒が集まるのか。入学式、およびそれに先立って行われた記者会見で語られた内容から、その理由を探る。

10代を引き寄せる、イベントのエンタメ性

いわゆる「普通の高校」で行われる入学式は、学校の体育館、もしくは近くにある劇場などを貸切って実施するパターンが多いが、今年のN高の入学式は映画館の「新宿バルト9」で開催された。会場には約50人の新入生が集い、その模様は「ニコニコ生放送」でも生中継された。

ちなみに3月に行われた同校の卒業式の会場は、東京・お台場。参加人数や演出の内容に応じて、柔軟に場所を変えられる、というのは「ネットの高校」をうたうN高ならではだろう。

  • 卒業式は2019年3月20日、お台場にて行われた。その様子はニコニコ生放送でも配信され、会場のスクリーンにはその視聴者のコメントが流れる仕組みになっていた

    卒業式は2019年3月20日、お台場にて行われた。その様子はニコニコ生放送でも配信され、会場のスクリーンにはその視聴者のコメントが流れる仕組みになっていた

入学式では、バーチャル化した奥平博一校長とバーチャルYoutuberの「みみたろう」がスクリーンに登場。バーチャルYoutuberが隆盛した「今っぽい」演出は、デジタルネイティブ世代には馴染み深いものだろう。ちなみに校長は入学式終了時に会場に登場したので、会場近くにいたにも関わらず、わざわざバーチャル化していたことが判明した。

  • バーチャルYoutuberの「みみたろう」と、バーチャル校長の奥平博一氏が登壇

    バーチャルYoutuberの「みみたろう」と、バーチャル校長の奥平博一氏が登壇

卒業式の時にも感じたが、N高の演出はなんともユニークで、面白い。生徒はVRゴーグルで目を隠されていても、誰一人として眠気に襲われることはなかっただろう。入学式といえば、生徒にとってはこれから始まる学校生活に期待感を膨らませる一方、時にその退屈さに、睡魔との葛藤を強いられるものでもある、と思う。

N高がわざわざこうした演出にこだわるのは、式をエンターテインメント化してしまって、生徒に楽しんでもらおうという考えがあるためだろう。実際、会場は何度も笑いの渦に包まれていた。

式に限らず、同校が実施するイベントはどれもユニークだ。「遠足」こと『ドラゴンクエストX』を活用したオンライン交流、「文化祭」こと『ニコニコ超会議』でのブース出展、「合唱コンクール」こと『ニコニコ超パーティー』での合唱披露――。

通常の学校であれば、内々で、近隣の住民を巻き込む程度の規模のイベントでも、N高にかかれば、それら一つひとつがマスに向けたプロモーションイベントになる。新入生の中には、過去のそういったイベントを見て、N高に興味を持った人も多いことだろう。もちろん、今回の入学式にも多くのメディア関係者が参加していた。

  • N高のネット遠足
  • N高は文化祭として、ニコニコ超会議に参加している
  • 奇抜なイベントの多いN高

「派手さ」が目立つも、中身は堅実

ここで考えたいのが、今年約4000人もの生徒が入学したということは、その生徒達の保護者が「N高を信用して子どもを入学させた」ということだ。新入生の数パーセントはすでに稼ぎのある大人も含まれているわけだが。

先に紹介したイベントは世間の目を引く一方で、保護者に「なんだか変な学校だ」と評価されかねない。だが、N高にはそうしたイメージを払拭するだけの実績が出つつあるという。以下、いくつか具体的な数値を紹介する。

例えば、卒業生の進路決定率。全日制高校では94.3% の人が進学や就職といった進路を決めている一方、通信制高校の数値は61.5% と少々その数値を落としている。ではN高はどうかというと、その中間の値で、81.8% の生徒が進路決定しているとのことだ。

  • N高卒業生の進路決定率

    N高卒業生の進路決定率

また入学時、「元々いた学校で不登校だった」生徒も、N高全体と同じような割合(約77.1% )で進路を決定できているという。これらの結果を踏まえ夏野社長は、「不登校の人にとって『N高』は十分な選択肢となり得ることが実証できたと思っています」と手ごたえを感じているようだ。

  • 入学時、「不登校」と回答した生徒の進路決定率

    入学時、「不登校」と回答した生徒の進路決定率

これらの数字から、派手さが目立つ一方で堅実な教育を実施していることがうかがえる。こうしたデータを知れば、保護者も安心してN高に子どもを送り出せることだろう。

実際、同校が在校生の保護者に対して実施したアンケートでは、約8割が「満足した」と回答した。さらに、その割合は2016年度より年々増えている。

  • N高が実施した在校生の保護者へのアンケート結果

    N高が実施した在校生の保護者へのアンケート結果

「ネットの高校への進学」は当たり前の選択肢に

在籍生徒数が年々増加していることからも、N高が多くの人に受け入れられつつあることがわかる。

その傾向は夏野社長の身の回りでも感じられたそうで、「実は私の娘も、かなりN高に興味を持っていたんです。結局違う高校に進学することにはなりましたが、周囲の友人ともN高の話をしていたと聞き、進学の選択肢の中にN高が当たり前のように上がってきていることを実感しました」とコメントした。

  • N高在籍生徒数の推移

    N高在籍生徒数の推移

今後も在校生、および卒業生がもっと増えていくと、その評判は口コミで広がっていくことだろう。

魅力的な学校イベントや、自由度の高い学習環境に魅力を感じた生徒が進学・編入を志し、実績に見る堅実なカリキュラムが保護者の信頼を生む。今年、N高に約4000人もの新入生が集まったのは、同校の魅力が世の中に浸透した結果だと言えそうだ。

  • 集合写真。画像真ん中が奥平博一校長

    集合写真。画像真ん中が奥平博一校長