Appleは3月末、カリフォルニア州クパティーノにある本社Apple ParkのSteve Jobs Theaterで、「It's Show Time」イベントを開催した。今回からのシリーズでは、イベントを細かく振り返りながら、Appleが狙うサービス部門のビジネス展開について考えていこう。

  • 3月末、Appleは本社Apple ParkのSteve Jobs Theaterで、「It's Show Time」と名付けられたスペシャルイベントを開催した

異例尽くしのイベント

2018年、Appleは3月、6月、9月、10月末の4回にわたってイベントを開催した。9月と10月は間隔が短いが、基本的に各四半期に1度ずつ開催していることが分かる。それぞれ、Appleの決算期の締め日直前のタイミングで行われており、10月は感謝祭からクリスマスにかけてのホリデーシーズン前のタイミングだ。

こうしたタイミングでイベントを開催する際は、次の四半期の販売の柱となる新製品を発表することがほとんど。その点でいえば、今回のイベントはタイミングこそいつも通りであるが、ハードウエアの新製品がまったく出なかった点が異例だった。

だがAppleは、イベントの前週に3日連続で新製品をオンラインで発表していた。iPad Air、iPad mini、iMac、AirPodsの4製品だ。いずれも既存モデルを刷新するアップデートで、それぞれティスプレイやプロセッサ、ワイヤレス性能などの機能向上が見られた。しかし、これらの新製品は3月25日のイベントで語られることは一切なく、ハンズオンも用意されていなかった。

Steve Jobs Theaterには、イベントで発表した新製品をすぐに試せるハンズオンエリアが用意され、イベントが終わるまでそのスペースを隠せる構造になっている。しかし、今回のスペシャルイベントでは、そのスペースはイベント開催前からすでに開放されており、ハンズオンがないことを物語っていた。

  • がらんとしたSteve Jobs Theaterのハンズオンエリア

イベントの主題は「Show Time」

そもそも、iPhoneの発表を伴う9月のスペシャルイベント以外で、プレス向けイベントをSteve Jobs Theaterで開催したのは、実に今回が初めてだ。

2017年3月はApple Parkがまだ最後の仕上げ中だったうえ、3月のイベント自体が開催されなかった。翌2018年3月は、シカゴで教育関連のイベントとして開催したし、その年の10月はニューヨークでの開催だった。9月以外にApple Parkでイベントが開かれることも異例だった。

3月のイベントをApple Parkで開催した背景には、イベントの後半に登場した映像やエンターテインメント業界の著名クリエイターたちを、Apple ParkやSteve Jobs Theaterに招きたかった……というAppleの思いがあったのではないだろうか。

  • 今回のスペシャルイベントに招いたエンターテインメント業界のスーパースターと並んで笑顔を見せるAppleのTim Cook CEO(左)

米国中心のストーリーテラーを起用

今回、映像配信の新しいサブスクリプションサービス「Apple TV+」が発表されたが、その作品を制作・出演するゲストの中から、次の人々がステージに登場した。

  • スティーヴン・スピルバーグ
  • リース・ウィザースプーン、ジェニファー・アニストン、スティーブ・カレル
  • ジェイソン・モモア、アルフレ・ウッダード
  • クメイル・ナンジアニ
  • セサミストリート: コーディ、ビッグバード
  • サラ・バレリス、J・J・エイブラムス
  • オプラ・ウィンフリー
  • スティーヴン・スピルバーグ氏

  • ジェイソン・モモア氏(左)とアルフレ・ウッダード氏(右)

米国では著名な作品の数々を手がけるクリエイターたちばかりだ。彼らはApple Parkに一堂に会し、自身の経験や作品に込める思い、制作プロセスについて語った。それ以外にも、ビデオではソフィア・コッポラ、ロン・ハワード、デイミアン・チャゼル、オクタヴィア・スペンサーらがコメントをしている。

Apple TV+のコンセプトビデオ

控えめに言っても、彼らは米国の映像界のスーパースターばかりだ。ただし、彼らの顔と名前を知っていなければ、Appleがどれだけの人々を集めたのか、というインパクトの大きさを知ることはできない。

先週の新製品発表との関連

Appleは今回、4つのサービスと1つのアプリ(Apple TVアプリ)の更新を発表した。ゲストも多数登壇しており、ここにイベントの前週に発表された新製品を盛り込みつつ2時間のイベントに仕上げるのは確かに難しかった。

ただ、先週発表された製品と今回のサービスの関連を見出すこともできる。

iPad AirとiPad miniは、iPad Proより下位のミドルレンジを構成するモデルである。iPad Proから格下げとなった10.5インチiPad Airは、高画質カメラやTrueToneフラッシュ、TrueToneディスプレイが省かれた。しかし、P3をサポートする高色域ディスプレイへの対応は残されており、映像配信やゲームにおいてより豊かな再現が可能となる表示性能を維持した。

iPad miniの7.9インチディスプレイもP3をサポートし、それまでモノラルだったスピーカーはステレオとなった。この点でも、エンターテインメントを楽しむタブレットとしての性能を強化した一面が見られる。

  • 高色域ディスプレイやステレオスピーカー、A12 Bionicチップを搭載し、待望のモデルチェンジを果たした「iPad mini」

加えて、Appleは記事や映像の閲覧データを収集しておらず、パーソナライズのためのおすすめコンテンツの表示はデバイス上で処理される。デバイス上の機械学習処理に頼ることになるため、2機種の新型iPadにニューラルエンジンを搭載するA12 Bionicを採用したことも納得できる。

第2世代となったAirPodsは、Bluetooth 5.0LEを採用したとみられ、低遅延と音質の改善に寄与している。ここでも、映像との完全な同期で没入感を作り出したい映像作品や、タイミングが重要なゲームをプレイに配慮した製品の強化を見出すことができる。

  • 完全ワイヤレスイヤホン「AirPods」は、新開発のH1チップを搭載した第2世代モデルが登場。H1チップの搭載で低遅延を達成したとしている