昨今、頻繁に耳にするようになった「働き方改革」という言葉。長時間勤務や残業の削減等、労働環境の改善に取り組んでいる会社も増えてきた。とはいえ、日本人はみんな働きもの。どうしても、「この企画書を完成させてから!」「あと一本取引先に電話を入れたら!」と、いつまで経っても帰宅せずについついがんばっちゃうサラリーマンもいるのでは? そんな社員がたくさんいる会社にうってつけなのが「帰宅を促す音楽」だ。

  • サラリーマン必聴「帰宅を促す音楽」で仕事の能率もアップ

    「帰宅を促す音楽」チャンネルが聴けるチューナー

USENが手がける「帰宅を促す音楽」

これは、音楽配信最大手のUSENがオフィスに最適なBGMを提供する『Sound Design for OFFICE』のS-09ch「帰宅を促す音楽」チャンネルとして、2019年2月より放送を開始したもの。実は『Sound Design for OFFICE』をスタートした2013年2月当時から、「帰宅を促す音楽」というコンセプトは構想されていたという。

ただ、当時は現在のように「働き方改革」という考え方、動きがない中で「帰宅を促す音楽」を謳っても、すぐに受け入れられる土壌もなく、実践されなかったという。その後、「働き方改革」の浸透に伴い『Sound Design for OFFICE』が5周年を迎えたアニバーサリー企画として、「帰宅を促す音楽」チャンネルの制作が決定し、2019年2月から放送を開始したそうだ。

研究者たちが"帰りたくなる音楽"を追求

もともと『Sound Design for OFFICE』には、4つの機能でチャンネルを分けており、「気づき」というカテゴリにあった「ノー残業デー」を合図するコメント放送は、2013年のサービス当時から支持されていた。その放送は、BGMをバックに「お仕事お疲れさまです。本日はノー残業デーです。みなさん、早く帰りましょう」というアナウンスが流れるというもの。しかもその声は、日髙のり子さん。そう、「タッチ」の浅倉南の声だ。これは絶対耳に残る。朝昼晩と3つのバージョンがあるため、アナウンスがあるたびにノー残業デーを認識することができ、一定の効果を感じる企業があった、とUSENの広報を担当するUSEN-NEXT HOLDINGS広報部マネージャーの清水さやかさん。また、今回の「帰宅を促す音楽」は、ノー残業デーを設定せずとも、そもそも帰宅を促す気持ちを醸成するチャンネルを作ろう、ということで誕生したものだとか。

制作にあたり、東京藝術大学との共同研究を実施。「どんな気持ちになると帰宅したくなるのか? 」を、オフィスワーカー900人を対象として仕事のシーンをWEB調査。オフィスワーカーに、就業時の仕事のはかどり具合を想定したいくつかの設問を用意し、アンケートに答えてもらったそうで、そのアンケートでは心理的特徴を8つのカテゴリーに分類した全80種類の気分について質問。たとえば「活気のある」と「気力に満ちた」という表現ではニュアンスが異なってくるので、その複雑な心理を「多面的感情状態尺度」という指標を使った専門的な手法で分析してもらったという。

「帰宅を促す音楽」を聴いてみたら……

「帰宅を促す音楽」の内容は各楽章5分、計15分の三楽章構成になっている。一番苦労した点は、5分の楽章ごとに聴く者の感情のステージをどのようにして上げて行くかということだったようだ。実際にどんな音楽か聴いてみると、第一楽章では、ピアノ独奏で静かなメロディが流れている。BPMは50ぐらいだろうか。なんとなく重たく、暗い印象だ。第二楽章はそこから徐々に演奏が熱を帯び、ピアノに加えてギターがフィル・インしてきた。さきほどよりは明るい演奏で、少しずつ心が弾んでくる感じ。そして第三楽章では、そこに弦とフルートの音色が加わり、軽快なワルツとなっていった。なるほど、確かに感情のステージは変化していくのがわかるし、これを毎日終業時刻に聴くようになれば「さっ帰ろう!」と言いたくなるような気がする。

一番のポイントは、「同質」という考え方を取り入れているところ。「同質」とは、例えば失恋したときに励ますのではなく、その感情に寄り添って落ち込んであげるようなもの。第一楽章では「もうこんな時間なんだ、仕事が終わらないよ」という、仕事がはかどらない気持ちに寄り添うように暗く静かな音楽から始まり、第二楽章で徐々に仕事が進み、第三楽章の明るく開けた曲調で「もうすぐ帰れる!」という気持ちを喚起するようになっているのだ。

  • 音楽によって感情のステージを操ることで帰宅を促す

導入している企業も徐々に増えており、各楽章5分、計15分を2回リピートして、なおかつ最後に「蛍の光」を付け足して流すことで、帰宅を促している会社もあるという。まだまだ始まったばかりのサービスだが、スーパー、デパートで「蛍の光」が流れることで閉店を認識させているように、「帰宅を促す音楽」も多くの会社の就業時間で流れることになれば、帰宅時間の意識付けになって行くのではないだろうか。清水さんによれば、一朝一夕でこれを聴いてすぐにその日から社員が全員帰宅する、という効果を考えているというよりは、"音楽で帰宅を促す"というアプローチが面白い、という捉え方で広まっていけばいいなと考えているそうだ。

また、こうしたサービスに付随して、「物事が閃く音楽やクリエイティブ力UPの音楽を作ってほしい」といった要望も上がってきているという。何をして「クリエイティブ力」とするかは判断がむずかしいところだが、クリエイティブな仕事を生業としている人間にとっては、科学的根拠を元にした音楽を聴いて創作意欲を掻き立てられるのであれば、大歓迎なのではないだろうか。このように、今後も、USENではさまざまなオフィス向けBGMの開発も検討している様子。まずは、「帰宅を促す音楽」を導入して、職場環境の改善に役立ててみては?