eスポーツの選手やストリーマー、実況、運営などのプロを育てるべく、「eスポーツ専攻」を設ける専門学校が増えてきている。専門学校という性質上、さまざまな文化を取り入れることはまったく不思議でもなく、違和感もない。

しかし、専門学校ではなく、「eスポーツコース」を開講した「高校」が出てきた。私立の通信制高等学校であるルネサンス大阪高等学校だ。さらに2019年4月には、ルネサンス高校新宿代々木キャンパスでもeスポーツコースの設立が決まっている。

高校におけるeスポーツコースでは、いったいどのようなカリキュラムが組まれているのだろうか。ルネサンス・アカデミー 法人営業部 部長の福田和彦氏と、ルネサンス高等学校 新宿代々木eスポーツコース責任者の松崎寛氏に「高校でeスポーツの授業をする意味」を聞いてみた。

ゲームはあくまで教材。社会に通じる能力を身につける

そもそもなぜ、高校が「eスポーツコース」を開講したのか。それには同校の理念が関係していた。

「ルネサンス高校には “目覚めよ!自分力” という教育理念があります。高卒資格取得の基本学習をしながら、自分のやりたいことや受験勉強などにチャレンジできるというもので、これまではスポーツや芸能などの分野で活躍する人材を送り出してきました。そこで次に目を付けたのが、世界で盛り上がりを見せるeスポーツだったわけです」(松崎氏)

ルネサンス高等学校 生徒相談責任者の松崎寛氏

「ただ、日本ではまだそこまでの盛り上がりを見せていません。これからゲームを文化として育てていくためにも、高校で取り組んでいくことが大事だと考えて、スタートさせました」(福田氏)

ルネサンス・アカデミー 法人営業部 部長の福田和彦氏

もともとルネサンス高校は、生徒のやりたいことをバックアップする理念があり、その選択肢の1つとして、昨今盛り上がりを見せるeスポーツが選ばれたわけだ。

ただし、同校のeスポーツコースで、プロゲーマーに必要なゲームスキルを磨くためのカリキュラムが組まれているのかというと、それだけではないらしい。

「あたりまえですが、希望者が全員プロゲーマーになれるわけではありません。また、eスポーツとひとくくりにされがちですが、ゲームのタイトルごとにプロが存在します。eスポーツコースでは複数のタイトルを取り扱うので、1つのタイトルでプロを目指す子どもたちからすると物足りないでしょう。ただ、我々は“ゲームという教材”を通じて、協調性やコミュニケーション能力など、eスポーツをするうえで必要なものを学んでほしいと考えているのです」(福田氏)

ゲームはあくまで教材。使われるタイトルは『ストリートファイターVアーケードエディション』『シャドウバース』『リーグ・オブ・レジェンド』『フォートナイト』『ハースストーン』『オーバーウォッチ』『ウイニングイレブン 2019』だが、これらのタイトルのプロを養成することだけが目的のカリキュラムではない。ゲームを通じてコミュニケーション能力などを身につけられるようになっているのだという。

もちろん、プロを目指すことはできるが、その場合は課外でスキルを磨く必要があるので、限られた時間のなかで適切な時間の使い方ができるように「計画性」についても学べるようになっている。

「カリキュラムは、今回教材として使用許諾をいただいたゲームパブリッシャーの方とも意見交換をしながら作成しました。かなり熱心に生徒のことを考えてくださって、eスポーツという枠組みを取ったとしても、社会に出て役に立つようなカリキュラムになったと思います」(福田氏)

なかでも力を入れている教科が「英語」。プロゲーマーを目指すのであれば、海外での活動が必須になることもあり、受験に必要な「英語」よりも、実践的な「英会話」を身につけられるような授業が行われている。

「英会話の授業を入れることは、教材タイトルのメーカーさんからの要望でもあります。大阪校ではゲーム好きの外国人講師に授業してもらっているのですが、ゲームネタを英会話に盛り込むことで、英語が苦手だった生徒も興味を持ってくれるようになりました。そのような講師の方を探すのにひと苦労したんですが」(福田氏)

ただし、通常の教養を得るための学習や、教材としてゲームの反復をするだけでは、プレイを続けるモチベーションが下がる可能性もある。そこで、プロ選手や大学リーグで活躍している選手を招き、タイトルごとの技術面や知識面の補填も図っているという。

「大学リーグで活躍している選手に来てもらうことで、プロだけでなく大学進学という道もあるということを感じてもらえればいいですね」(福田氏)

なお、ルネサンス高校は通信制だが、Webコースと通学コースという2つのコースがある。eスポーツコースは通学コースにあたり、週2日は学校に通う。学校にはゲーミングPCやPlayStation4、アーケードコントローラー、ゲーミングマウス、キーボードなどがそろっており、eスポーツをプレイする環境としては、充実していると言えるだろう。

新宿代々木キャンパスのゲーミングルーム

eスポーツコースで学んだ生徒に感じる変化とは

大阪校でeスポーツコースを開講したのは2018年の4月。通常であれば前年10月に開講して、生徒の受け入れ準備をするが、教材タイトルのメーカーとの交渉に時間がかかり、4月にもつれ込んだのだという。

「4月に開講するということは、別の高校に入学した後に、転校というかたちで生徒に入ってきてもらう必要があります。当初は0人も覚悟しましたね。しかし、ふたを開けてみると、定員20名のところ、18名の学生に入学してもらえて、こちらもビックリしています」(松崎氏)

「eスポーツコースの開設は我々も初の試みでしたが、メーカーさんも教材としてタイトルを使用するライセンスを発行するのが初めてだったので、そのあたりにも時間がかかりましたね。しかし、お互いが納得してコースを作っていきたいという想いがあったので、しっかりと時間をかけて話し合いを進めました」(福田氏)

また、世にも珍しい「eスポーツコース」の通信高校である。自分の子どもを通わせることに対して、不安に思う親の声などはなかったのだろうか。

「ご両親が『ストリートファイターII』などのブームを経験したことのあるゲーム世代ということもあり、想像していたような抵抗感はありませんでした。自ら情報を集めて入学を勧めてくださった保護者もいたほどです。ただ、まだまだeスポーツに関してネガティブな印象を持っている人も少なくありません。eスポーツを一過性のブームで終わらせないためにも、きちんとした文化として認められるように、我々がゲームというツールの使い方を教えていくことが重要だと考えています」(福田氏)

かつて「ゲームは1日1時間まで」と子どもに言っていた親が子どものころは、まだゲームが一般家庭に普及していなかった。しかし、そう言われて育った世代が親になったことで、ゲームに対する理解があることが多いと福田氏は分析する。

新宿代々木キャンパスはまだ開講前だが、1年間のeスポーツコース運営を終えようとしている大阪校。同コースの生徒はどのような成長があったのだろうか。

「入学前からは想像できないくらいに子どもたちは変わっていきます。転校してくる子どもたちは、心にキズを負っていたり、学校に行けなかったりと、何らかの事情を抱えている場合があります。しかし、最初の面談時には人と話すのが苦手だった子も、驚くくらい人と話せるようになりました。やはり、周りの子と同じ話題があるのが大きいのでしょう。きっかけがあれば人は変われると思うのですが、それがeスポーツにはあると思います」(福田氏)

なお、大阪校のeスポーツコースは、2019年4月に連携施設「梅田eスポーツキャンパス」として拡大移転する。ゲーミングPC、ゲーミングチェアそれぞれ40台完備したeスポーツ専用施設として、土日・祝日は生徒だけでなく一般の人が参加できる大会を企画していく予定だという。

梅田eスポーツキャンパスのイメージ

eスポーツとは言っても、該当するゲームジャンルの範囲が広すぎるために、タイトルごとに共通するものがないことも多い。しかしながら、教育の面としてeスポーツを捉えた場合、チームプレイに必要な協調性やコミュニケーション能力を養うことができるのだ。美術や音楽の授業と近いものかもしれない。専門的なことは大学や専門学校、もしくは課外学習として学び、基礎の部分を高校で身につけるわけだ。

現時点では、eスポーツが教育に役立つかどうかは未知数な部分も多いが、それでも、教育の多様性という点から大いに期待したいところである。

(岡安学)