3月中旬、Appleがタブレットの新製品「iPad mini」「iPad Air」を発表した。いずれも、既存モデルのデザインを用いながら最新チップを搭載し、性能面で向こう3~4年は安心して使えるモデルへと発展させた。
今回は、これらのモデルの刷新について考えていこう。
待望のApple Pencil対応7.9インチiPad
今回の刷新は、Web上での製品発表という形で行われた。Appleは3月25日にスペシャルイベントの開催を控えていたが、意外にもその前週に発表となった。前述の通り、2機種ともデザイン面で新しい要素が特になかったことも、控えめな発表に留まった理由と考えられる。
iPad miniは、A8チップを搭載した「iPad mini 4」が2015年9月に登場して以来、実に3年半も販売を続けてきた。なかなか新機種に刷新されないながらも、もっとも小型のiPadとして根強い人気があった。より持ち運びやすいiPadとしてだけでなく、価格の安さとコンパクトさから、航空会社の客室乗務員向けの大量導入やiPadで構築する店舗のレジシステムなど、企業にも幅広く活用されてきた。
裏を返せば、iPad miniはサイズと価格が重要だったため、チップとしては2014年モデルのiPhone 6と同様のA8に据え置かれていても存在感を発揮するモデルだった、と見ることができる。
しかし、今回発表された第5世代のiPad miniは、399ドル(日本では税別45,800円)という戦略的な価格でありながら、iPhone XSと同じA12 Bionicを搭載した。省電力性と処理性能を両立した高性能チップだ。Retinaディスプレイは、より多くの色を表示できる高色域のP3に対応した。
さらに、iPad miniでは初めてApple Pencil(第1世代)をサポート。後述する新しいiPad Air、昨年発表されたiPad(第6世代)やiPad Proとともに、iPadのラインアップすべてでApple Pencilが利用できるようになったのだ。
価格が引き続き399ドルに抑えられたことで、iPadのラインアップ全体で2番目に安いiPadとなった。サイズも6.1mmの薄さを保ち、コンパクトという価値を維持している。ここに、最新のA12 BionicプロセッサとApple Pencilの魅力が加わり、iPad miniは企業向けだけでなく個人向け、あるいは手が小さなこども向けの入門タブレットとしても、引き続き選ばれることになるだろう。
焼き直しのiPad Air
iPad miniとともに登場したのがiPad Airだ。iPad miniは、非常にポジティブな進化を遂げた小型モデルになったが、iPad Airはどうだろうか。
2015年に登場したiPad mini 4は、当時の最新モデルだった「iPad Air 2」を仕様の面で踏襲する存在だった。その意味で、今回登場したiPad miniとiPad Airがディスプレイサイズ以外で多くの仕様を共通化している点は、3年半前と同じパターンと見て取れる。
今回登場した第3世代となるiPad Airをきわめて簡単に表現すれば、「チップをA12 Bionicに高速化し、その他の仕様の一部を簡素化した10.5インチiPad Pro」とも表現できる。
簡素化された仕様は、環境光に応じてホワイトバランスを調整するTrueToneディスプレイ、4つのLEDフラッシュで自然な肌の色を撮影するTrueToneフラッシュ、4つあったスピーカーは2つのステレオスピーカーに減らされ、背面の1200万画素のカメラは800万画素にスペックダウンされた。その代わり、カメラの出っ張りはなくなった。
iPad miniと異なる点は、iPad Proと同様に10.5インチ向けのSmart Keyboardが利用できる点にある。もちろん、Apple Pencilは引き続きサポートしつつ、499ドル(日本では税別5万4800円)という手に取りやすい価格となった。
価格と性能のバランスが取れた中級機を拡充
これまで、iPad Airシリーズの画面サイズは初代iPadと同じ9.7インチだったが、新しいiPad Airが10.5インチになったことで、9.7インチはiPad(第6世代)のみとなった。
現行iPadのラインアップを画面サイズの順番に並べると、
・7.9インチ:iPad mini(第5世代):399ドル(45,800円)
・9.7インチ:iPad(第6世代):349ドル(37,800円)
・10.5インチ:iPad Air(第3世代):499ドル(54,800円)
・11インチ:iPad Pro:799ドル(89,800円)
・12.9インチ:iPad Pro(第3世代):999ドル(111,800円)
となる。こうしてみると、サイズと価格が重ならないように5つのモデルが調整されていることが分かる。
再度、価格順に並べ直すと、
・9.7インチ:iPad(第6世代):349ドル(37,800円)
・7.9インチ:iPad mini(第5世代):399ドル(45,800円)
・10.5インチ:iPad Air(第3世代):499ドル(54,800円)
・11インチ:iPad Pro:799ドル(89,800円)
・12.9インチ:iPad Pro(第3世代):999ドル(111,800円)
と、iPadとiPad miniの順序が入れ替わる。こうすると、今回発表されたiPad 2モデルが、どんな位置づけなのかより明確になる。iPad miniとiPad Airは、iPadラインアップのミドルレンジを構成する、価格と性能のバランスが取れた製品という位置づけ――つまり、iPad全体の販売台数を伸ばすための普及モデルとなる。
iPadは、2019年第1四半期(2018年10~12月)に前年同期比17%の売上高増加を記録した。2018年10月に発売したiPad Proは、縁なしのLiquid RetinaディスプレイとFace ID、側面に磁石でくっつけてワイヤレス充電できるApple Pencilの新世代版など、さまざまな刷新が加えられた。そうした新鮮さも助けて、iPadの売上増を支えたとみている。
今回の新モデルで、教育市場を狙う廉価版の一つ上となるミドルレンジを拡充し、ビジネ スで活用する企業や個人向けのカテゴリでさらなる成長を狙っている戦略だろう。
今後、Apple Pencilに対応したiPad miniを中心に、新モデルのレビューを通じてアップルの戦略に迫っていきたい。