フジテレビ開局60周年特別企画として、スペシャル時代劇ドラマ『大奥 最終章』(25日20:00~22:54)が、女優・木村文乃を主演に迎えて放送される。16年という長きにわたって愛されてきたシリーズだが、その人気の秘密は何か。
このシリーズを完結させる理由や今作の見どころ、そして同局における時代劇の歴史と今後も含め、『大奥』を立ち上げたフジテレビ第一制作室企画担当部長の保原賢一郎氏に話を聞いた――。
■通常の時代劇より高い制作費
現在の『大奥』シリーズがスタートしたのは、2003年。保原氏は「フジテレビには当時まだ連続時代劇の枠がありまして、『鬼平犯科帳』などが人気作だったんですけど、時代劇は年配層の視聴者中心だからスポンサーがつきにくいという事情があり、会社から若い人が見られる企画を求められたんです」と振り返る。
それを受け、『陰陽師☆安倍晴明~王都妖奇譚~』『怪談百物語』という作品を制作し、試行錯誤を重ねた上で、「女性が見られるものということで『大奥』を放送したら、おかげさまでうまくいったんです」。その後、レギュラーの時代劇枠は消滅したが、「木曜劇場」(木曜22:00~)枠に時間を移し、『第一章』(04年)、『華の乱』(05年)と連ドラのシリーズ作が続いていく。
『大奥』という作品の魅力を聞くと、「“ドロドロ劇”と言われがちなんですけど、実はそうは思っていないんです。キャラクターそれぞれにとっては全部正論を言っていて、自分が生きていくために一生懸命やるから相手とぶつかるし、立ち位置が違うからケンカになるということであって、単純ないじめとは違う構造が面白い。それと、“お世継ぎ”という当時の人が命をかけた非常に大きな出来事に、人間の感情の全部の要素が凝縮されているんです」と解説。
立ち上げ当初は、現在に比べて大奥に関する資料も少なく、「わりと手探りで『こんな感じだったんじゃないか?』って想像しながら作っていたんですけど、“ウソか本当か分からない”というところがファンタジーのようで、それも面白かったですね」と回想。しかし、将軍が大奥に入る際に通る「御鈴廊下」や、将軍と総触れする「御座之間」という大きなセットを2つ作る上、大勢の出演者とそれぞれが着る衣装が必要になるなど、通常の時代劇よりも制作費がかかるため、実現までには苦労を重ねたそうだ。
■浅野妙子&林徹タッグ誕生の経緯
同シリーズで脚本を担当してきたのは、浅野妙子氏。それまで『ラブジェネレーション』『パーフェクトラブ!』といった月9のラブストーリーなどを手がけてきたが、出産から復帰する際に、『怪談百物語』の1本を執筆依頼すると、自ら藤沢周平原作の『遠ざかる声』を提案し、それを映像化した『ゴースト』(仲村トオル主演)が時代劇デビュー作となった。「それが非常に良くて、『大奥』をやるときは浅野さんしかいない」ということで起用を決定。そんな浅野脚本の魅力は「ノッたときの勢いやスピード感がすごいんです。だから、女性のバトルのシーンで人間の生々しくてリアルな感じが顕著に出てくる」といい、「監督もプロデューサーも男性なので、女性ならではの感覚やさじ加減などは、浅野さんに頼ることが多かったですね」と感謝する。
そして、監督を務めるのは、キャスト陣からの信頼も厚い林徹氏。学生時代、京都の撮影所で小道具係をしていたのが時代劇との関わりのきっかけで、その後『101回目のプロポーズ』『この世の果て』『妹よ』と、こちらも月9などを演出してきたが、時代劇演出のスキルがあることを知った保原氏が、局として時代劇制作のノウハウを持とうと『剣客商売』(01年)で声をかけたことがきっかけで、『大奥』シリーズにつながった。「時代劇においては他のスタッフに比べて抜きん出ていて、『大奥』に関しては“絶対的に女性を美しく撮る”というこだわりがすごいんです」と評する。