春は人事異動の季節ですが、異動にもさまざまな種類があります。今回は、「出向」と「転籍」の違いについて解説していきましょう。
ポジティブな意図も増えてきた出向
出向とは、別の会社へ配属になる異動の一種です。
通常は親会社から子会社へ出向が行われます。このとき、親会社と社員は雇用契約を結んだままで、給与の支払い義務は親会社にあります。福利厚生はそのままに、業務上の指示・命令権が子会社側に移るのです
民法625条は、出向には労働者の「承諾」が必要と定めていますから、出向の際は、就業規則や社内規程などで、出向期間や出向先での地位・労働条件・手続きについて定めておき、「出向通知書」などで従業員に示す必要があります。
また、出向元と出向先で給与の負担は何割ずつか、労務管理はどちらがおこなうか、などについて協定も結んでおかなければなりません。
出向がもたらす企業メリット
出向にはおおよそ三つの目的があります。それは「人材育成」「業績アップ」「雇用調整」です。
近年増えてきたのが、人材育成やキャリアアップのための出向です。大企業であればあるほど仕事が分断されてしまい、なかなか事業環境の「全体象」を見渡すことができません。
経営者と距離が近い小規模な会社に出向することで、長期的な方針を見据えながら同時に日々の目標に集中し、試行錯誤を繰り返す、というマネジメントの経験を積むことができます。
優秀な人材がリーダーとして出向する場合もあります。経営の強化や技術指導などによって、グループ全体を成長させることがその狙いです。また、中に入ることで、その会社の経営実態を具体的に知ることができますし、「顔の見える付き合い」になることで、取り引きやコミュニケーションが円滑になるという効果もあります。
一方で、年齢に見合ったポストを用意できないベテラン社員を雇用調整のために出向させることもあります。この場合は、最終的には転籍になるパターンが多くあります。
雇用調整の意味が強い転籍
転籍とは事実上の転職です。出向と違い、元の会社との雇用関係はもうありません。転籍先の会社の社員として働くことになります。
「退職して別の会社に就職する」という意味では同じですが、転職は自分の意志でおこなうニュアンスが強く、転籍は元会社の意向を受けたものになります。転籍は「会社都合退職」ですので、個別に同意を得る手続きをしなければなりません。
退職金は転籍時に受け取ったり、転籍先の会社に上乗せしたりする場合があります。退職金の扱いは明確にしておかないとトラブルの元となります。
給与水準や労働時間・休日休暇などの労働条件は、元会社のほうが好条件であることが一般的です。そのため、年収が下がることも少なくありません。ただし、子会社から出向していた優秀な人材を転籍という形で引き抜くケースもあります。
【例文】
「親会社はホワイトなのに、出向先はブラックで憂鬱だ」
「転籍の場合も送別会をした方がいいのかな?」