突如発表されたiPad mini。前モデルのiPad mini 4が発売されたのは約三年半前だったので、久しぶりのアップデートとなる。マイナビニュースでは、いち早く、その新モデルを試用できたので、ファーストインプレッションをお届けしよう。

  • 新しいiPad miniはApple Pencil(第1世代)に対応

    iPad mini

筆頭にあげるべきは、Apple Pencilへの対応か。アイデアのスケッチ、メモの手書き、スクリーンショットをマークアップするといった作業をサッとこなせるようになる。このサイズも相俟って、女性でも手の大きい人なら片手でホールドしてメモをとれるだろう。筆者のように取材先でパパっとメモをとる人には重宝する一台となりそうだ。この片手で持てるというのはとても魅力的である。重さも300gちょいなので、ちょっと長い時間でも持っていられる。

対応しているのは第1世代のApple Pencilで、テストしていないがLogitechの互換製品「Crayon」も利用可能とのこと。iPad Proで搭載されているApple Pencilの反応速度を向上させる機能「ProMotion」にこそ対応してないものの、レスポンスはとても良い。

  • Apple Pencil(第1世代)に対応

ディスプレイにも注目してほしい。7.9インチのIPS液晶を採用し、耐指紋性撥油コーティングを施したRetinaディスプレイ、ここまでは良いだろう。それらに加え、新iPad miniでは、最大輝度500nitsのフルラミネーションディスプレイ、反射防止コーティング、True Toneに、デジタルシネマの規格であるDCI-P3への対応と、上位モデルのiPad Proシリーズとほぼ同等の仕様になっているのだ。1インチあたりのピクセル密度は326ppiと、iPad Proの264ppiを上回る数字となっている。読書をするにも、ホームオフィスでビデオを編集するにも、ゲームを楽しむにも、快適に使用できるはずだ。

個人的にはDCI-P3への対応が興味深かった。もちろん、映像編集への最適化という意味もあるが、来週に控えたAppleのスペシャルイベントでは映像コンテンツサービスの拡充が予想されており、そこでHDR(High Dynamic Range)対応のタイトルが出てくるとなれば、コンテンツビューワーとして申し分ない働きをしてくれるからだ。

筆者は新製品と旧製品との処理性能を比較して論じるという形式があまり好きではないのだが、今回のiPad miniのアップデートはとても大きな意味を持つので、言及せざるを得ない。前モデルのiPad mini 4はA8チップだったのが、本モデルではNeural Engineを搭載したA12 Bionicチップとなっている。単純に4つも数字が増えてることからも分かるように飛躍的に機能が向上しているのだ。Neural Engineでは、リアルタイムの機械学習から、パターンを認識したり、予測したり、体験から学んだりってことをやってくれる。これらの学習機能は他社製品のようにユーザーのデータを外部に持ち出したりせず、内部で処理するのだ。「あなたのiPhoneで起こることは、あなたのiPhoneに留まる」のと同じように。また、最近のAppleお得意のAR(拡張現実)を使ったアプリもサクサク動く。ゲームだけでなく、教育用コンテンツや実用的なものまでARを導入したアプリは凄い勢いで増えていっているので、このNeural Engine搭載のA12 Bionicチップは最良の体験をもたらしてくれることだろう。iPad mini 4ではARKit 2対応のアプリが動かせなかったのを考えると、これは長足の進歩と言えよう。

本体のデザインやインターフェース周りについては、iPad mini 4とほとんど変わらない。まず、サイズはW134.8×H203.2×D6.1mmで一緒。重さはWi-Fiモデルが300.5g、Wi-Fi + Cellularモデルが308.2gと、少しだけiPad mini 4より重くなった、が、気になるようなレベルではない。

  • 外観はほとんどiPad mini 4と同じ。筆者が入手したのはシルバーだが、ほかにスペースグレイとゴールドが用意されている

コネクタ類では、iPad mini 4と同じく、Lightning、3.5mmステレオイヤホンジャックを搭載。非ワイヤレス派、以前からのアクセサリーを継続利用したいといった向きには嬉しい仕様となった。

  • Lightning端子と3.5mmステレオイヤホンジャックを搭載

ホームボタンも残ったままで、セキュア認証もTouch ID(指紋認証)のままである。iPad Proに搭載された顔認識機能「Face ID」と比較すると、認識精度はやや劣るということになっているが、実際使ってみると、Face IDは精度が高すぎて認識してくれないケースがある(マスク装着時など)のに対し、Touch IDで認証失敗するのは殆どないので、どちらかと言うと、Touch IDのほうがストレスなく使えるイメージがあるのだがいかがだろうか。なんにせよ、Appleのセキュア認証機能は非常に強固なので、破られる可能性は低く、Touch IDでも十分安全に利用できよう。

  • ホームボタンは残ったままで、セキュア認証もTouch ID(指紋認証)のまま

通信関係では、Bluetoothが4.2から5.0に変更、eSIM式のApple SIMにも対応した。eSIMへの対応は、特に海外へ出かけるユーザーには頼もしい。世界各国でAppleが提携する通信会社のデータ通信サービスを利用できるようになる。

  • 筆者が入手したのはWi-Fi + Cellularモデル。本体上部にアンテナ用の「Dライン」が見える

  • 通常のSIMスロット。nano-SIMに対応

カメラに関しては、メインカメラ(背面)は8Mピクセルで変更なし、FaceTimeなどで利用するフロントカメラは7Mピクセルと大幅に向上している(iPad mini 4では1.2Mピクセル)。グループチャットに対応したFaceTimeで精緻な画像を送るのに有効なアップデートだ。

  • メインカメラ(背面)は8Mピクセルで変更なし(レンズが飛び出した形状になっていない)

  • フロントカメラは7Mピクセルと大幅に機能アップ

今回、iPad Airもあわせて発表され、第6世代のApple Pencil対応9.7インチiPadも継続販売されることから、ラインナップが複雑になったという声が上がっているようだが、それは正鵠を射てはいないと思う。多様な利用シーンを想定した時、その用途に応じてラインナップを拡充する必要があったのだ。汎用性の高い、基本は「電話」であるiPhoneとはそこが違うのである。iPad miniは可搬性に優れた機動性の高さが導入のポイントとなるのは間違いないが、もうひとつ、手の小さい子供でも扱えることから、やはり教育の現場でも活躍してくれそうである。

iPad miniのアップデートのインターバルは三年を越えたが、筆者は、この長さが教育市場向けにはちょうど良いのではないかと考えているところがある。

というのも、Appleが改めて注力するようになった教育の現場では、毎年のように新機種が出てしまう製品は歓迎されないからだ。極端な話、半年でサポートが終わってしまうような機器を導入した場合、高価な教材を毎年入れ替える羽目になる。富裕層が通う私立校ならともかく、公立校に通う子供達の家庭の経済状況はさまざまで、負担が大きくなってしまう恐れがあるのだ。

導入された年度によって購入したデバイスの機能差がありすぎると、均質な教育現場の実現が難しくなってしまうのも考慮すると、この三年というインターバルは適切であると言えないだろうか。

また、Appleは環境保護の観点からデバイスを長く使えるようにするともアナウンスしている。かなり古くなってしまったモデルでも、最新のOSで動くとなれば、教材として非常に重要な意味を持つようになる。教育制度は国によってまちまちだが、少なくとも三年から四年は教材として買い換えずに使えるものであって欲しい。そのニーズを満たすものであると筆者は見ている。

  • Smart Coverの利用が可。発売にあわせて、カラーラインナップが一新されている。サイズが一緒なので以前のものも新しいiPad miniに装着できる

ともあれ、「小さいiPad」を欲していた向きには大歓迎されるのは確実だ。機能の一つ一つとってみても、待っていた人には「待ってて良かった」と納得していただけるモデルとなると思う。