第1回WOWOW新人シナリオ大賞を受賞した圓岡由紀恵の『赤いトマト』(原題)を映像化したドラマ『今日、帰ります。』が3月10日(WOWOW 22:00~)に放送される。仕事ばかりで家庭を顧みてこなかった銀行員が、家族との関係を見直すことで成長していく姿を描く本作。主人公を演じたのは、俳優の伊藤淳史。その妻を演じたのは、女優の木南晴夏だ。今回で二度目の共演となった二人に、キャラクターや物語への思い、そして人生における転機などについて語ってもらった。
――伊藤さんは、仕事ばかりで家庭を顧みてこなかった銀行員・森田克博役。木南さんは、息子の貴裕とともに克博と別居している妻・千佳役でした。伊藤さんは克博をどんなキャラクターだと捉えていましたか?
伊藤:個人的には、克博の考え方に完全に共感できる訳ではないんですけど「こういう人っているだろうな」というところで、すごく理解ができるというか。ごくごく少数派な人間ではないなと。まじめに仕事をしているし、家族を養っている。そこはちゃんとしている部分だと思うんですよね。
たぶん、人にはそれぞれちゃんとしている部分と、そうでない部分があると思うんですけど、克博はそうでない部分の問題があまりにも大きい(笑)。克博には大切にしなきゃいけなかったところがあるんです。台本をいただいて「僕は個人的には大切にしているところだぞ!」と思いながら読んでいたんですけど、克博は物語の中で家族の大切さに気付くことができる人間だったので、魅力を感じてお芝居することができましたね。
――木南さんは、千佳に対してどんな思いを?
木南:私も最初は、克博さんがそんなに悪人ではないので、千佳に対して「いきなり何も言わずに家を出て行っちゃうほどかなあ」と思ったんです。「その前に一回話し合おうよ」と思ったんですけど、やっぱり子供のこととなると、母親として一人で抱え込んじゃう状況になってしまった。克博さんに相談できなかった、気づいてくれなかった、話す時間を設けてくれなかった。たぶん、そういうことで一人で抱えていってしまって「ここにいちゃいけない!」と思って千佳は逃げたと思うんです。
そういうところは、共感というよりは「あ、こういう風になっちゃうんだろうなあ」という想像でしかないんですけど……でも、私も悩みとかを人にうまく相談できるタイプではないので、千佳の一人で抱え込みがちなところは、ちょっと共感できるなあと思いましたね。
――夫婦役として、とても自然に見えました。お二人は今回で何度目の共演になったのでしょうか?
伊藤:二回目ですね。前回、僕はは刑務官の役でご一緒しました。そんなに楽しいキャラクター同士ではなくて、すごく重いお話でしたね。
――夫婦のぶつかり合いもリアルでした。がっつり共演して、木南さんのどんな部分に女優としての魅力を感じましたか?
伊藤:すごく裏表のない人なのかなと。これで裏があったらすごいなと思うくらい(笑)。そういう雰囲気を感じない女優さんだなと。山梨でロケだったんですけど、親子丼のおいしいお店を教えたらすぐに行ったり。一日休みとなると、アクティブに「ここ行った。ここ行って」とか。すごくわかりやすいというか、普通に人として話をしてくれる(笑)。
現場では「え、この人は何を考えてるんだろう?」って感じる方もいらっしゃいますが、そういうところが、僕の感覚からすると、木南さんにはありません。そういう風に見せられちゃうのも、女優さんだからかもしれないですけど(笑)。本当に気を遣わずに、楽に現場に居られる環境を作ってくれているなという気がしました。
――とのことですが木南さん、伊藤さんの印象は?
木南:伊藤さんも変わらないというか、パブリックイメージそのまま、みたいな感じです。皆さんがどう思っているのか分からないけど(笑)。私が持っていたパブリックイメージのままで、優しいし、人に気配りができる。でも、ちょっとお兄さんぽいというか、気を遣って色々と話題を振ってくれたりもする。そういう年上らしい、先輩らしい、頼りになるところもありつつ、すごく柔らかい空気で、現場としてはやりやすくて。気を遣わないで済みましたね。
――劇中では、克博が遺産の管理を担当する波子(夏木マリ)の「生きれてればさ、想像できないことって起きるんだよ」というセリフがとても印象的でした。お二人が「自分の人生に起こるとは思ってもみなかったこと」はありますか?
伊藤:この仕事をしているとは、思いもしなかったです。
――子役から活躍されていたという背景があっても、思いもしなかった?
伊藤:だからこそ、ですかね。3歳の時に劇団に入ったんですけど、当時、僕はテレビを見るのがすごく好きだったんです。おばあちゃんが「あっちゃん、テレビ出たいの?」と言ったら、僕は「うん!」と言ったらしいんですよ。今、うちの娘が3歳で、娘に何を聞いても大概のことに「うん!」と言うんですね(笑)。だから僕の「うん!」は、おそらく本心ではない。当たり前ですよね。テレビに出るとか、分からないから(笑)。
でも、僕は「うん!」と言った。それで今の僕がある。後々、親に聞いたら、両親はこういう仕事をさせるつもりは全然なかったと。だから、おばあちゃんのお陰。おばあちゃんが僕に「テレビ出たいの?」と聞いて、僕が「うん!」と言ったお陰で、今がある。未だにふと「ああ、おばあちゃんがいなかったら、この仕事をしていない、こんなところに居られなかったなあ」と思いますね。
――木南さんは「第1回ホリプロNEW STAR AUDITION」でのグランプリ受賞を機に芸能界入りされていますね。芸能界にはどんな思いを抱いていたのでしょう?
木南:私も伊藤さんとまったく一緒で、まさかこの仕事をすることになるとは思っていませんでした。私はどちらかというと、芸能界への憧れが強かった。でも、それが何かは分かっていないんです。ただ単に「テレビに出たい!」という、田舎者の考えでした(笑)。『女優になりたいとか歌手になりたいとか、なんでもいい。テレビに出たいの!』みたいなタイプの人間だったんですよ。
私は大阪の住宅街に住んでいました。でも、テレビの世界って東京が多いイメージなんですよね。東京に行ったことは一・二回しかないし「芸能人になりたい!」と言うのはタダみたいな感じでしか思っていませんでした。まさか本当に芸能人になるとは、自分も周りの人間も誰も思っていなかったです。結果、事務所に入ることになりましたけど、それでもテレビに出るということへの実感は沸いていなかったと思うんですよね。ただのお祭りに参加している感覚で、仕事という感覚はまるでなかったです。
――なるほど…。仕事という感覚が芽生えたのは、いつ頃でしたか?
木南:20歳あたりになってくると、周りの皆は就職活動とかしていて。そうすると「仕事なんだ、これって」みたいな感じに、ようやくなってきました。そこで、一生続けるか・続けないかみたいな選択に、きっと一度なるんですよ。就活するか、このまま進みたいな。そこで、また芸能界を進んでいくという道を選んで、まだこうやってこの世界にいるというのは、すごく不思議でしょうがなくて。たまに撮影中、スタッフさんが照明とか組んでいる時に「あ、テレビの中にいるんだあって」(笑)。
伊藤:分かるわあ(笑)。
木南:すごく不思議。「テレビの中にいるんだあ…」みたいな。あれだけ入りたいと思ってたところに、もう何年もいるのかあって。たまに今でも不思議に思います。