西武鉄道の新型特急車両001系「Laview(ラビュー)」が3月16日にデビューする。2月14日に報道関係者向け内覧会・試乗会が行われ、3月2・3日には西武球場前駅で一般向けのお披露目イベントも開催された。
実物を間近で見ると、いままでの鉄道車両の常識を覆し、「まるで弾丸のようだ」とも評されるスタイリッシュなデザインに改めて驚かされた。斬新なデザインが生まれた背景や、実際に乗ってみて感じた疑問などについて、西武鉄道広報部に話を聞いた。
■これまでの鉄道車両設計では想像もできなかった
――「ラビュー」の車両デザインは、世界的に有名な建築家で、プリツカー賞など数々の建築賞を受賞している妹島(せじま)和世氏に託されました。車両デザインの経験のない建築家の方に依頼した理由を教えてください。
西武鉄道は2015年に開業100周年を迎え、今回の新型特急は次の100年の未来を担う新たなフラッグシップトレインとして位置づけました。また、ビジネス特急であると同時に、観光をリードする西武グループの中核を担う特急という役割も求められることから、ビジネス・観光という2つの要素を両立・融合させ、新しい価値を提供する「いままでに見たことのない新しい特急」をつくる必要がありました。
こうしたことから、あえて鉄道車両のデザインの経験がなく、かつ世界で活躍し、認められているデザイナーに依頼することにしました。デザイナーの選考にあたっては雑誌等で情報を収集したり、代理店を通じてデザイナーを紹介していただいたりする中で、最終的に妹島先生にお願いすることになりました。
また、デザイナーだけでなく、社内スタッフに関しても、車両知識のない男女含めた若手社員も積極的に起用し、これまでとまったく違った考え方で「鉄道車両」の作り方を再構築しようということでプロジェクトをスタートさせました。
――「ラビュー」のコンセプトとして、「都市や自然の中で、やわらかく風景に溶け込む特急」「みんながくつろげるリビングのような特急」「新しい価値を創造し、ただの移動手段ではなく、目的地となる特急」の3つを掲げておられます。これらは妹島氏からの提案ということですが、1つ目のコンセプトについて、車両部の方が「最初に聞いたときは、何を言わんとしているのか理解できなかった」と話していました。それくらい斬新な考え方ということでしょうか。
これまでの鉄道車両設計では、「都市や自然風景に溶け込む車両」を製造することは想像することさえありませんでした。特急車両といえば目立つようにカラーリングを施すことが多く、シャープで格好の良い車両を思い描いておりましたので、妹島先生のアイデアは斬新でした。
都市や自然の中でやわらかく風景に溶け込むように、アルミの車体にシルバーの塗装を施し、前面ガラスに国内初の曲線半径1,500mmの三次元曲面ガラスを搭載。また、客室窓には縦1,350mm×横1,580mmの大きな窓を設置するなど、建築デザイナー妹島和世氏だからこそ考えられたデザインであると思っています。
■曲面ガラスの視認性は? 大きな窓でも安全?
――運転席に採用している大きな曲面ガラスは、強度や視認性等の運転のしやすさという面で、かなり検討をされた部分なのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
曲面ガラスの搭載にあたっては、三次元曲面ガラスの特性上、夜や降雨時に視界がぼやけたり、二重に写ったりするのではないかという点や、夜間運転時の客席の明かりの映り込みなど、視認性について懸念を持っていました。
運転席からの視認性を入念に検討するため、実寸大のモックアップのサンプルを作成しました。車両係員だけでなく運輸部門の係員と、時間帯ごと環境ごとの運転席から外を見た際の視認性を何度も検証し、安全性・視認性に問題がないことを確認したうえで、曲面ガラスを搭載することを決定しました。
――客席の大きなガラスはプライバシー保護等の観点から、今後、物議をかもす部分かと思いますが、どのような対策をされていますか。デザイン的に最も斬新な部分であると同時に、「みんながくつろげるリビングのような特急」というコンセプトには反しているように感じます。
窓枠から内側に向けてだんだんと小さくなるドット柄を配することで、大きな窓ならではの開放感がありながら、外からの視線を少し制限するよう配慮しております。
――万が一の事故等のときにも安全性が保てる設計になっていると思いますが、大きなガラス窓の強度についても教えてください。
強度に関しては、車両製造メーカーの解析結果にもとづき製作しておりますので問題ございません。具体的な数値については、申し訳ありませんが公表しておりません。
――シートは包み込まれるような座り心地に加え、カバー素材の肌触りも独特な感触です。その点についてのこだわりを教えてください。
妹島先生は客室をリビングのような居心地の良い空間にするようイメージされていましたので、腰掛のモケット(パイル織物の布地)選びだけで1年近くかけました。西武線の車両としてなじみのある黄色を基調としたあたたかみのあるカラーや、メンテナンス面の容易さも追求し、お座りいただいたときにもやわらかく感じていただけるよう、モケット素材のカールのかかり具合や色味など何十種類も吟味した上で、糸のカラーの混ぜ方を決定しました。
■新しい100年へ「ラビュー」に期待することは
――新型特急には「世界に通じる洗練されたデザイン」を求めたとうかがいました。今後、国際的な評価についてめざすべきところなど教えていただけますか。
西武鉄道はインバウンド旅客の方のご利用が年々増えています。沿線には、秩父の芝桜や飯能に3月にオープンする「ムーミンバレーパーク」など、海外の方々からも注目を集める観光地がいくつもあります。そのような中で、海外の方々からも「ラビュー」に乗って飯能や西武秩父に行きたい、西武線沿線を訪れたいと思っていただけるような特急車両にしていきたいと考えております。
じつは、「ラビュー」は「TIME」誌に取り上げていただいたことがあるのですが、妹島先生がデザインした鉄道車両という観点の記事でした。もちろんありがたいことなのですが、今後は「西武鉄道の特急車両」ということでも評価いただけることをめざしていきたいと思います。
――後藤会長(西武鉄道取締役会長の後藤高志氏)は内覧会の挨拶で、「新しい100年に向け、西武グループの未来を託す」と述べていました。新しい100年に向けて、具体的にどのように事業を進めていきますか。また、「ラビュー」にはどのようなことを期待しますか。
西武鉄道では、次の100年に向けたコーポレートスローガン・ロゴマークとして「あれも、これも、かなう。西武鉄道」を掲げています。西武線沿線で「暮らしたい」「遊びたい」と思っていただき、当社がお客様に選ばれる鉄道になるため、企業・沿線価値向上をめざしていきます。
このメッセージの「あれも、これも」は、西武線沿線の特徴である「都市」と「自然」、「仕事」と「遊び」、「暮らし」と「観光」などのさまざまな二面性を持つ沿線の魅力を表現しています。
幅広い魅力を持つ西武線沿線で、さまざまなことを「かなえたい」という夢や希望をお客様に持っていただき、またその夢や希望を「かなえていこう」という、当社の前向きな姿勢と想いを表現し、お客様とともに歩んでいくことをめざすものです。
西武鉄道は、次の100年に向けても西武グループの中核を担う企業として、お客様のさまざまな期待にお応えできるよう、「安全・安心」を基本に積極的な事業を推進してまいります。「ラビュー」には、こうした西武鉄道・西武グループを象徴するフラッグシップトレインになることを期待しています。
筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)
慶應義塾大学卒。IT企業に勤務し、政府系システムの開発等に携わった後、コラムニストに転身し、メディアへ旅行・観光、地域経済の動向などに関する記事を寄稿している。現在、大磯町観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員、温泉ソムリエ、オールアバウト公式国内旅行ガイド。テレビ、ラジオにも多数出演。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。